国家存亡の危機
とりあえず、俺は広大な城塞都市中心部の宮殿へと天使の羽根で飛んで行く。あっさり警備兵だらけの敷地内へと到達して降下、着地する。自分でリブラーに付けさせといて何だが、気配の消失スキルって本当に怖いと思う。レベル50より下では無さそうな厳しい無数の衛兵達が、悪意があればあっさり国を滅ぼせるレベル357の大天使である俺が宮殿内を無許可で堂々と歩いていることに一切気づいていない。忙しなく通路や廊下を通り過ぎるメイド達や使用人達、そして高官や貴族達も同じだ。
これ、バレたら俺対ガセッタ王国との戦争だよな……多分あっさり勝つけども……。などとバカな事を考え、妙な緊張を紛らわせながら、宮殿3階の玉座の間に続く黄金の扉の前までたどり着く。扉の左右に銀鎧をまとった三十代前半くらいの精強な男性衛兵達が立っているので間違いないはずだ。
等間隔に様々な絵画がかけられた通路の端に座り、扉が開くのを待つことにする。時折、向かって左側の衛兵がチラチラとこちらを気にしてきて俺は座る位置を変えるが、そこにも視線を送ってくるので、もしかして見えるのか?とビビっていると、その衛兵が横の衛兵に低い声で
「……貴殿は女神の存在を信じるか?」
話しかけられた衛兵は
「女神がいるのなら、戦争も貧困もないはずだ」
キッパリと言い切った。俺も何度も頷き同意する。あんな邪神でなければこの世界はもっと平和なはずだ。問いかけた左側の衛兵は
「……戦争も貧困も人の営みにすぎぬ。女神はもっと大きな目で世界を見ている」
右側の衛兵は苦笑して
「ならば女神は、我ら人間の祈りを貪っているだけということになる。教会も不要では?」
今度は問いかけた左側の衛兵が苦笑し
「貴殿も頑なよな。単刀直入に言おう。私は今、神聖なる存在に見守られているような気がしている」
右側の衛兵は真顔になり
「……貴殿の深き信仰は尊重したいが、もし女神が居られるなら我が国は滅ぶとは思わぬか?金ばかり気にし、弱い者達を虐げ、見捨てている」
左側の衛兵は微笑むと
「女神はそのような心の狭いお方ではない。きっと我が国を正しく導いてくれよう」
いや、あの邪神、心が狭くはないと思うけど、完全に頭がおかしいので、そんな期待しない方が……。話を聞いてしまった俺が本気で心配し出していると、通路から豪奢な白い法服を着た高級神官らしき灰色の髪を七三分けした老人が走って来て衛兵達に
「はっ!早く開けてくだされえええ!急報がああああああ!」
明らかに気が動転した様子で喚き出した。
衛兵達は怪訝な顔で、左右から重い黄金の扉を開く。ようやく開いたので俺は玉座の間に滑り込み、続けて走って来た神官をギリギリ避ける。神官はそのまま赤地に金の刺繍がされたカーペットの上を
「王様!王様ああああああ!大変にございますうううう!」
半狂乱で走っていき、途中で中を守っていた衛兵達に取り押さえられ
「離せええええ!国家存亡の危機であるぞ!王様ああああ!」
暴れながら喚き出した。俺も走って近づき心配しながら見ていると、奥の数段高い玉座から大柄な老王が降り、歩み寄って来ると、毛量の多い白髪の下の浅黒く濃い顔で温厚な笑みを浮かべ
「カワユ大司祭よ。どうした?聖者誕生の祭典に行けぬことでとうとう狂ったか?」
そう言いながら手で衛兵達を下がらせる。
神官は汗を拭い、深呼吸をすると姿勢を正し老王へと跪き
「偉大なるサンス・ロー・ガセッタ大王よ。聞いてください」
「もちろんだ。カワユ・ムセ大司祭」
2人は明らかに信頼感があるようだ。カワユと言われた神官は、苦しそうな顔で
「ナイッアーグーン遺跡の城壁が、神の裁きにより消失しました……」
サンスと言うらしい老王は大笑いをして
「カワユよ!私をからかうのもいい加減にしろ!神の裁きというのは聖書の出来事だ!それとも、この老王をからかえるほど、我が国は余裕があると示したいのか?」
茶目っ気がある笑顔を向ける。カワユは泣きそうな表情で
「……大王よ。私が嘘を言ったことがありますか……。本当なのです。虹色の稲妻が恐ろしい音と共に大量に振り注いでいるのを、近隣住民が目撃しております……神の裁きの時、女神様は最初は廃墟で警告するのです……悔い改めよと……ああ、我が国は終わりだ……」
ブツブツ言いながら俯いてしまった。
ようやく俺は、さっきジン・スカイストリートの一室で気軽に押したボタンのせいで、カワユが焦りまくっていることに気付く。……あれ、これ大丈夫か?もうガセッタ王国にとてつもない影響与えてないか?立ち尽くし、老王と神官を見つめる。




