神の審判ルーム
動けるようになったので立ち上がる。何も着ずに寝ているサナーに、俺の上着を着せる。そういえば昨日も上着を着せたし、ジン・スカイストリートに来てたよな……などと思いながらサナーを抱き上げて、何処か休めそうな建物を探そうと見回していると、マリオンヌが側溝から滲み出てきた。
「……3日もここに居るのは長いよねえ」
俺が何か言う前に、勝手に同情的な表情になったマリオンヌは思いついた表情で
「そうだ!ナラン君、知り合いを召喚してみよう!教国に沢山知り合いが来てるでしょ」
「いや、サナーを休ませたいんですけど」
マリオンヌは大きなスライムボディをプルプル波打たせながら
「分かってる!よーし忙しくなってきたぞー!」
いつもの装置のある大きな屋敷へと進み始めた。
マリオンヌはいつもの透けている地下室へと俺を連れて行くと、球体の中へ服を脱がしたサナーを入れるように促す。黙って従うとサナーは気持ちよさそうに浮き始めた。
「よし、これでサナーちゃんは大丈夫。そしてこのエネルギーを触媒に、ナラン君が、この屋敷の一階応接間に教都内に居る知り合いを呼び寄せることが出来るよ」
「どういうことですか?」
マリオンヌが黙って階段を上がって行ったので俺も付いていく。
応接間へと行くと、きれいに清掃されていて、長机を挟み、5脚ずつ椅子が並べられていた。マリオンヌに促され、こちら側中心の一脚へ座ると、向こうにミヤが着ていたスクール水着とかいう紺の水着を着た女神がいつの間にか座っていた。
女神は楽しげに
「こういう感じで、対象者……主に罪人を強制ワープさせてナラン君が話を聞くわけね。これが召喚。聖書では神の審判とも言うわ」
一目でやるべきことは分かったが
「呼ぶべき罪人って居ますか?」
マリオンヌがプルプル揺れながら
「僕が言うのも何だけど、教都には山程いるよね」
女神は薄ら笑いを浮かべながら
「ま、それは後で纏めてやるとして……」
肘をテーブルに突き、目を細めて俺を見ながら
「自分のレベルが知りたいってそろそろ思ったでしょ?シャルロットちゃんが、三日前に教都に会社から派遣されて来てるんだけど……試しにどう?」
そう言った。
嫌な予感がする。女神とマリオンヌは明らかに楽しんでいる感じだ。
「あの……シャルロットさんに不利益はないんですか?」
女神は首を横に振り
「ないない。彼女は罪人ではないわ」
マリオンヌが思いついた声で
「じゃー……演出しよう!神の審判っぽくね!」
床に滲んで消えていった。少しすると部屋中が鈍く光輝き、まるで賛美歌の様な子ども達のコーラスが鳴り響き出した。女神は満足げに立ち上がり、俺の横に座り直すと
「じゃ、ナラン君、シャルロットちゃんを呼んでみて。これは練習だから気楽にね」
「呼べば良いだけですよね?」
「うん。フルオートで目の前にワープするわ。目の前の椅子を見て、誰々さん、神の審判を始める、とか言うと雰囲気出るけどね」
俺は覚悟を決めて
「シャルロットさん!あなたに神の審判を始める!」
そう強めに言い放った。
次の瞬間、テーブルを挟んだ椅子と椅子の間に真っ白な光が差して、すぐに
「あらあ!!」
甲高い女子の悲鳴と共に椅子と椅子の間に何かが落ちた。女神が噴き出し
「マリオンヌ、座標ミスったかあ」
俺は思わず立ち上がると、ズレた椅子と椅子の間から、完全に何も着ていないボサボサ髪のシャルロットも立ち上がり、俺と目が合う。シャルロットはしばらく俺と見つめ合い
「……こ、ここは?」
平たく細い身体を隠すのも忘れ、尋ねてきた。女神が偉そうに
「神の審判ルームよ。シャルロットちゃん。座りなさい、あなたの罪を裁きます」
そう言って虹色のオーラを全身から噴き出した。シャルロットは呆然と、椅子に座った。
虹色の光に包まれた女神は偉そうに
「……シャルロットちゃん、あなたの罪は3つよ」
指を3本立て右腕を突き出す。シャルロットは緊張した面持ちで指先を見る。女神は
「まずは青春と向き合わず、仕事ばかりしていること。お友達を作って遊びなさい」
シャルロットは涙目でまた立ち上がると
「しっ、しかし!わたくしは同年代と話が合わないのです!……遊ぶにしても、何をしたら良いのか分かりません……」
女神はニヤリと笑い
「ナラン君、好きなんでしょ?」
俺が驚いていると、シャルロットは顔を真っ赤にして
「そっ……そうですけれど……あの方はリース様一筋……わたくし如き……相手にされていません」
女神がパチリと指を鳴らすと、シャルロットは顔を真っ赤にして
「な、ナラン様……何故ここに……」
どうやら、今まで俺の顔は呼び出された相手には分からないようになっていたらしい。シャルロットはようやく恥ずかしそうに平らな両胸を隠し
「きっ、きっとこれは夢だから全部告白しますわ!最近のわたくしの密かな愉しみは、寝る前に……四つん這いのナラン様に裸で乗って、様々な街を散歩する夢想をすることなのです!……これを想うと不安も苛立ちも消えて……良く眠れるのです!」
うわー!シャルロット、俺使って変な妄想してたーっ!ドSなのかドMなのかわかんねえええ!俺が心の中で悲鳴を上げていると、虹色に光っている女神は深く頷いて
「分かるわ。女の子ってそういうものよね」
それは絶対違うだろ……勝手に一般的にするんじゃねえ……という謎の同意をしてくる。
女神は満足げな様子で
「とりあえず一つ目の罪の告白は済んだ。二つ目ね」
シャルロットは椅子に座るとゴクリと固唾をのむ。
「あなたの二つ目の罪は、自分を偽っていることです。本当は恥ずかしがりやさんで、慎み深いのよね」
女神の言葉にシャルロットは微妙な表情になり
「……それでは生き馬の目を抜くこの世界では生きていけませんわ。わたくしは成長したのです」
女神はシャルロットを指差すと
「立って」
シャルロットは胸と股を隠しながら立ち上がった。
「ナラン君も立って。お互い見つめ合って」
言われた通り、立ち上がりシャルロットを見つめる。子どもだなあと思う。ちょっと前のサナーみたいだ。しばらく見ているとシャルロットは顔から鎖骨、そして全身が斑点状に赤くなっていき
「どっ、どうしてこんなにいじめるのですか……」
女神に恨みがましい目線を向ける。女神は
「だって、とーっても可愛らしいんだもん。頑張って肩ひじ張って背伸びして大人のふりして。健気よねえ」
「うっ……」
泣きそうな顔になったシャルロットに更に女神は
「ナラン君に抱きしめて欲しいって言ってごらん。ほれほーれ」
俺を指差して煽り出した。
シャルロットは顔を真っ赤にして数分耐えた後、俯いて横を向き
「ナラン様……抱きしめてください」
小声で言い、女神はさらに
「ついでに頭も撫でてって言いなさい。ずっとして欲しかったのよね?」
「頭も撫でて……欲しいのです……」
俺は黙ってシャルロットの横に行き、言われた通りにした。シャルロットはブルブル震え
「ほわああ……ふわああ……」
などと夢見心地になっている。
いや、さっきから思ってるんだけど、俺は一体何をさせられてるんだよ!?これ、神の審判だよな!?どんな神の審判だこれ!!そもそもシャルロットには罪はないんだよな……結構責めてるけど大丈夫なのかよ。気持ちよさそうなシャルロットを抱きしめて頭を撫でながら猛烈な疑問が俺を埋め尽くしていく。




