ごせいこうおどりいのりぎょー
ベンチで寝ているサナーを見て、宿で少し寝るため帰ろうかと思っていると、扉が叩かれ
「お祈り中失礼します!石碑が光りました!これは三百年ぶりのことです!」
嬉しそうなシスターの声がすると
「急遽、聖願投身の儀式を始めます!」
俺が焦って
「警護のナランです!少しお待ちください!」
すぐに入って来そうなシスター達を止め、寝ていたサナーを揺り動かして起こすことになる。
無事サナーは起き、リースの横で跪き、不満げな表情でお祈りの真似事をし始めた。俺はホッとしてシスターたちと交代することにする。もう限界だ、無責任かも知れないが宿に戻って寝てしまおう。シスターやモンク、司祭達がせわしなく動き回り、騒然としている聖塔内を降りていき、聖塔前の広場にある石碑を見てみようと正面門前から出ると、確かにぼんやりと全体が発光していた。
しばらく近くで見て、何か女神も考えがあるんだろうなと思いながら、宿へ向け歩き始め、人けのない路地へと行くと、背後から気配もなく忍び寄って来た何かに抱き上げられて何処かへ高速移動しはじめた。しわがれたローウェルの声が
「お前の……宿に避難する……」
それだけ言って黙り込んだ。殺気もないし、ローウェルならまあ良いかと任せることにする。
ローウェルは俺を抱き上げたまま、壁をあっさり上がって行き、開いていた窓から入り込んだ。そして俺をベッドに放り投げ、床に倒れ込んだ。真っ黒な衣装のローウェルは黒頭巾をしたまま、天井を見上げながら
「絞られた……バケネコ族……やべえんだよ……」
呟き始める。俺は上半身を起こし
「石碑が光ってて、儀式がもう始まりそうだけど寝たい」
ローウェルは寝たまま
「知らないふりしとけ……聖塔周辺は警備員だらけだから問題無い」
「だよなあ……悪いけど寝るわ」
「俺も床で寝るが、気にするな」
「うん」
ベッドに寝転ぶと一気に寝入ってしまった。
起きると昼過ぎのようだった。ローウェルは黒尽くめのまま、部屋の端の床上でまだ寝ている。宿泊室内に置いていた保存食を食べていると、扉が叩かれシュマリアの声で
「ナラン様!儀式にお姿が見えぬので来てしまいました」
ローウェルがガバッと起き上がると
「おっ……」
少し嬉しそうに扉を見る。俺が扉を開けるとシスター服のシュマリアが立っていて
「あの、警護はよろしいのですか?私は今日から休暇ですが……」
「ああ、天使の仕事が忙しくて、休んでいました。女神様に許可も取っています」
許可など取っていないが、散々迷惑かけられているのであの邪神の名前を利用するくらい良いと思う。シュマリアはホッとした表情で
「そうですか。聖者サナーが御聖光踊り祈り行を行っていますが、見ませんか?」
ごせいこうおどりいのりぎょー?心の中で首を傾げていると黒頭巾を取って髪と顔を整えたローウェルが俺の横から
「警護のローウェルです。シュマリアさん、教国一のテンプルナイトとお会いできて光栄です」
「いえ、私などまだまだです。ローウェルさんも行きませんか?」
「喜んで!」
いやおっさん、シュマリアと仲良くなりたいのは分かるけど、ミツハ姫に見つかるぞ……避難は良いのかよ。
ローウェルは俺の黒装束と黒頭巾を借り着ると、更に小さな香水の瓶の様なものを全身に振りかける。廊下で後ろを向いているシュマリアが
「ミツハ姫と仲が良いようで」
やっぱり全部空から見てるな……という言葉を吐くがローウェルは動じずに
「昔、あいつと付き合っていた時期がありまして、追いかけられて困ってるんですよ」
悪びれずそう返すと、颯爽と廊下へと出る。
雲一つ無い晴れ渡った青空の下、3人で広場へと行くと、グルっと囲うように人だかりが出来ていて、石碑の側で一糸まとわぬリースが跪いて祈っているのは良いのだが、その隣で、一糸まとわぬサナーが光り輝きながら涙目で
「ほっ、ほわっ!ほわー!」
などと奇声を上げ、胸と股を手で隠し、右へ左へステップを踏んでいる。
流石にサナー限界なんじゃねえか……本気で心配しているとシュマリアがサナーに向け、祈りを捧げながら
「聖書に書かれた聖者アメノズメの神聖なる踊りそのものです……」
ローウェルも棒読みで
「あー神聖な光景ですなあ……まさか見られるとは……」
いやどう考えても、極限の羞恥心とか混乱でおかしくなってるだけだろ……身体を光らせてるのは女神だろうが……あの邪神マジで何考えてるんだよ。




