自由落下
サナーの代わりにいつの間にか抱きしめているシーネに
「あの……」
「ふふーっ……ちょっと入れ替わろうと思いましてえ」
「いや、自由に入れ替われるんですか?」
「そうではありませんがあ……サナーさんの愛情と落下速度の相乗効果ですねえ」
「どういうことですか?」
「自由落下している時ですねえ、引力なんて無いように思えるのですよー?でも実際は引力に引かれて落ちているだけなんですねえ」
よく分からないので聞いていると
「理でしかないものを自由と履き違えているだけなのですよーっ。知的生命体にありがちな間違えですねえ」
何となく分かった。
「サナーに嫉妬して、出て来ちゃいました?」
シーネは黙り込んで
「……リースさんはですねえ……普通なんですよーっ。マイナスからの栄光……待っていた愛情……神の支え……疑わぬ信仰……常識的ですよねえ」
「そうかも知れませんね」
同意はしない。つまりリースをつまらないと言っている。
シーネは俺と落下していきながら
「けれど、サナーさんは創造主でさえ否定しているわけですよーっ。消されても自分で再生してあなたの元へ戻って来る……」
「ウザいですけどね」
シーネは少し黙り込むと
「お母様に良く似ているのですねえ」
そう言うと閃光を全身から発し、次の瞬間にはサナーに戻っていた。サナーは気持ち良さそうに両目を開き
「あー最高のデートだった!」
そう言った。
今、起きたことは説明がつかないので黙ったままサナーを抱きしめ、聖塔近くの路地裏へと着地する。シュマリアと交代して教都の空を守っているテンプルナイトが居るはずだが、気配すらない。ベールを被ったサナーと裏口に入る時、警備のモンクすら居なかった。ここまであからさまだともはや、女神の「ずっと見てる」というメッセージだろう。もしやシーネも釣り出されたのか……?いや、邪神の思考には付いて行かない方が良いよな。頭がおかしくなるだけだ。
人けのない聖塔内を上がって行き、待機室へ入ると、リースは変わらず跪き祈っていて、ベンチでは横になって寝ているサナーに変装したミヤを、アンジェラが膝枕していた。
アンジェラは
「成功したようね」
指を鳴らすと、ミヤを元に戻し水着の上に着た薄布を脱がすとサナーに渡す。サナーは全ての服を全て脱いでアンジェラに渡し、ダルそうに薄布を纏うと
「クソド変態集金儀式をどうにか中止にできないもんかな」
アンジェラに真顔で尋ね
「無理ね。ここまでやったんだからやりきったら?」
「……」
流石に殆どしたのは入れ替わる前のアン王女だとは言えず、サナーは黙り込んだ。アンジェラはミヤにシスター服を着せると背負って、静かに待機室から出て行った。
サナーはベンチに座り、肩を落とすとポツリと
「ド変態移送とド変態儀式……全部私がやったことになってた……ド変態巨大絵画も描かれてるらしい……」
「良かったじゃないか。殆ど自分でやらずに一流画家に描かれて、神聖な儀式も済んだんだぞ?」
凄いお得に思えるが。
「ナランはあの邪神の女神教を信じるのかよ。こんなのゴミの塊だぞ」
「そこまで言うなよ。女神様はダメでも、教えはそんな悪くないだろ。先輩大天使さん達は凄いし、まともだしな」
「うう……宗教なんて権力の道具で、集金装置だ!私は認めないからな!」
サナーはそう言うとベンチでふて寝してしまった。とりあえず元気そうで良かった。




