中和
マリオンヌは大きな1つ目で俺を見てくる。当たり前だが、飲まれるつもりはない。
「サナー、どういうことだ?」
輪郭がブレているサナーは真面目な表情で
「どうせならナランと一緒がいい!」
俺はマリオンヌに
「大丈夫なんですかね?」
マリオンヌはプルプルと横に揺れながら
「むむー……2人同時とかないし……男や天使を食べたことないから分かんないけど、本当にヤバかったら、もう女神とか大天使セイが止めにきてるでしょ?」
確かにそうだ。寧ろ、ニヤニヤしながら見守っているまであると思う。
少し悩んだ挙句に俺は
「一緒に食べて貰って良いですか?」
マリオンヌは縦にプルプル揺れながら頷いて
「チャレンジャーだね。やってみようと思う僕もだけど」
サナーが服を脱ぎだしたので俺も脱ぐ。すぐに準備が整い、サナーと手を繋いでマリオンヌの大きなスライムボディの前に立つと、マリオンヌは大口を開け、俺達に覆いかぶさり吸い込むように食べた。
鼻の穴から、口の中、全身の毛穴にまで、空いている全てにマリオンヌのスライム液が侵入してくる。最初は不快だったが、次第に気持ちよくなり、それと同時に手を離さないサナーの気持ちが流れ込んできた。
「ナランが好きなんだ……ナランが好きなことだけが本当なんだ」
ずっとサナーはそう繰り返している。同時に俺の迷いがサナーに流れ込んでいくのも分かる。この世界は驚きに満ちていて、でもそれを楽しんでいるわけではなく……ただ、必死にくぐり抜けて来ただけだ……愛とか恋には頼れず……不安や恐怖をずっと押しのけて……。
サナーは俺に抱きついていた。
「大丈夫……いつまでも私は側に居るよ」
サナーの声が頭に響いてくる。俺は目を開いて少し笑った。ゆっくりと全て、サナーの中に溶け込んでいく気がする。
……
真っ白な世界に俺は立っていた。遠くには見たことのある女性、いや、背中を向けたシーネが座っている。そちらへ向け、一歩踏み出すと
「ぎゃー!」「助けてえ!」「ううううう」
などと悲鳴や、何かを恨んでいるようなうめき声が響き渡る。更に一歩踏み出すと、そこら中に壊れた建物や、廃れた景色が重なって映し出されてそして消えた。
少し戸惑ったが、きっと進まないといけないと思い、更に一歩踏み出すと、血塗れの険しい顔をした男が、黒髪の女の生首を抱えて森林の中歩いていくのと並走していた。男はブツブツと
「俺……俺は誰だ……俺は居ない……俺は消せる……俺は消える……俺は……」
そう言いながら、森を抜けると、俺がサナーと辿り着いた古代図書館そっくりな建物の入口前に立っていた。生首はもう無く、周囲は森では無くて、ビルと言うと教えて貰った古代の高層建築に囲まれている。
男は入口の警備員を躊躇なくナイフで殺し、次の瞬間には警備員の遺体と男の抱えていた生首は消えていた。そして入口に手を翳すとまるで波のようにうねりだした扉へと身体を透過させ入っていく。俺も男と幻影と共に並走し続け、遠くで座っているシーネ目指して進み続ける。
男は図書館をまっすぐ進み、奥の扉が自動で開くとその鉄の箱の中に入り、降下して行くそれが、急に落ちていくような速度になるとブルブル震えながら、ニヤニヤ笑い始めた。
「あははははは!」
男は次第に浮き上がり、宙をかきながら笑い続ける。突然大きな衝撃と共に鉄の箱は潰れ、男はただの肉塊になる。
肉塊になったはずだった。鉄の箱も男も何事もなかったかのように元に戻り、扉は自動で開いた。薄暗い空間が何処までも続くそこには薄ら笑いを浮かべたシーネが立っていた。同時に歩き続ける俺の前にも、重なるようにシーネが立っていて、幻影と目の前のシーネは同時に全身から青白い稲妻を発しながら
「ここを通すわけにはいきませんねえ……あなたは、私と混ざり合い、その凶暴性を中和するのですよお……」
そう言った次の瞬間、男もシーネも幻影も何もかも消え失せ、俺は押し流されるように、グルグルと回りながら歪んだ周囲に揉まれ、落ちていく。




