普通じゃん
しばらく困惑した後、シュマリアに
「同化ってどうするんですか?」
尋ねると、彼女はニコッと微笑み
「聖者様御本人に重なっている二つの存在を見つけだし、聖者様御本人と対話させるのです」
シュマリアはそこまで言った瞬間、急に立ったまま目を閉じた。その横にいつの間にか女神が立っていて
「ハロー、サナーちゃん、対話しましょう。マリオンヌ、眠らせたシュマリアちゃんを自宅まで連れて行って」
シュマリアは目を閉じたまま扉を開けて出ていった。
俺、サナー、女神という順番でベンチに座りサナーが嫌そうに
「何を話すんだよ」
女神はニコニコと微笑み
「何が話したい?サナーちゃんが好きなお話で良いわ」
「……女神教がどんだけクソかでも良いのか?」
「もちろん。私についての批判も受け付けるわ」
サナーはしばらく考えた後、訥々(とつとつ)と
「神の下では人は平等と説いているのに、奴隷や異教徒を人扱いしていない」
女神は微笑んだまま
「うん。理想と現実よね。結局、この世を本当に理想郷にしたいかどうかってことでしょ?司祭、神父、シスター達でガチでそこまで目指したい人って少ないわ。だってほぼ神学に詳しい凡人だからね」
サナーは大きく息を吐き
「やっぱりクソだな」
女神は微笑みながら
「でも現実とのせめぎ合いをしながら、自ら平和への教えを実践したり、宣教して理想郷にしようとしている教徒も当然居るわけですよ。そんなものですね」
サナーは心底嫌そうに女神を見ながら
「女神教の一派は、金儲けの為に信者脅して、金を巻き上げてるぞ。しかも巻き上げられてるのは、不幸があった未亡人や、孤独で教養のない弱者だ。不幸製造機になってる件について一言」
女神は微笑みを絶やさず
「女神教を信じないと地獄に落ちるとか、前世の罪があるから不幸だとか、悪いことしたから悪霊が祟っているとか、そう言うこと聖書では語ってませーん。それ言ってる者達は、ぜーんぶ詐欺師でーす」
サナーは、言い切った女神に不信の目を向ける。女神はニカッと笑って
「人っていうか、サナーちゃん達知的生命体は、高次元存在の私から見ると認知が不完全なわけ。だから実際は関係ない因果を頭の中で結びつけてしまったりするのね。夫が死んだのは私の教会での女神様への祈りが足りなかったせいだ、とかね。実際は不治の病での寿命なんだけど。でさー詐欺師の人達って、世界の見方が一般の人達よりもシビアなのよ」
黙って聞いていると
「神も信仰も意味がないし、この世は金が大事だ。じゃあ、その金を楽して沢山稼ぐにはどうするか、そうか、捕まらないように他者を騙して金を巻き上げればいい、ってのが詐欺師の考えね」
サナーはポツリと
「よく知ってる……」
女神はペラペラと
「で、詐欺師達は更に考える。騙しやすいターゲットは誰だろう。教養のない弱者、不幸に陥っている者達、後は孤独な人、認知が弱っている老人や病人……まあ、こんなとこですよ」
サナーは大きくため息を吐いた。女神は更に
「で、そのターゲットを騙すためのツールに女神教の教えを利用するわけ。詐欺師達の場合、逆引きなのよ。聖書の教えがあるから救いがあるわけじゃなくて、自分が騙すため、聖書のどの部分が使えるかということなの。それに聖書には都合よく地獄やら天罰やらそういう描写もあるからね」
女神は苦笑いしながら
「大量殺戮犯とか、大規模奴隷商人とか、大悪人の王族とか以外に天罰なんて下さないっつうの!神も暇じゃないわけ!」
いきなり吠えると、大きく息を吐いて
「まあ、天罰とかその辺りはナラン君頑張って。私はポールシフトとかそういうのに対応するのが忙しいからね」
いきなり話が飛んできたので、驚いて頷くと
「で、サナーちゃん納得した?」
サナーは首を横に振り
「お前の意見を一方的に並べただけだ。女神は私達にどうして欲しいんだよ」
お前呼ばわりしたサナーに女神はいきなり噴き出すと、しばらく笑った後
「幸せでも不幸でも、納得いく一生を歩んで欲しいわ。別に女神教を信じなくても構わない。自分で考えて決めて、時には他者の意見を聞いて、自分の人生を歩みなさいな。詐欺師に気を付けながらね」
サナーは肩を落として
「普通じゃん……」
女神はサナーの肩を叩くと
「普通って難しい。地道にやって行くしかないの。次はアン王女ね」
そう言って消えた。
サナーが驚いて立ち上がり
「ブレが少し収まってる……」
確かに3重から2重になっているように見える。女神の長々とした一人喋りを聞いた甲斐もあったようだ……。




