アドリブ
少しの間、絶望した後、気づいてしまう。……別にニャンギエフが腐敗していようが、一緒に寝てた女が神像を投げ捨てようが、全部女神と前管理者シーネの責任で信任の俺のせいじゃないよな……。気を取り直し
「……そこの者よ……ニャンギエフを起こしなさい……ニャンギエフを起こすのです……」
床でうつぶせのまま呼びかけてみる。
女はしばらく黙った……いや……床しか見えないので分からないが、恐らくは絶句した後
「ニャンちゃん!ニャンちゃん起きて!女神像が何か!ずっと気持ち悪いこと言ってる!」
ニャンギエフに必死に呼びかけ始めた。ベッドがギシギシと軋んでいる音も聞こえるので、恐らくは身体も揺らしているのだろうが……気持ち悪いって酷いよな……俺、女神に言われて啓示を与えに来ただけなのに……。
若干、傷つきつつ、とにかく待つ。周囲は相変わらず明るいのでマリオンヌが光らせ続けてくれているようだ。ニャンギエフの眠そうな声が
「んにゃー……フタバちゃんー……僕はお仕事で疲れてるにゃー」
「ニャンちゃん!違うの!神像が光ってて!喋ってて!」
「神像が光って喋るわけないにゃー……そんなの啓示の……ん……?神像が……光って……喋った?」
ベッドが激しく軋む音がして、俺はニャンギエフの肉球に掴まれ、持ち上げられる。
ニャンギエフの膨らんだ大きな猫フェイスとしばらく見つめ合った後、ニャンギエフは黙ったまま俺を近くの台座らしき場所に丁寧に置き
「にゃほん!」
咳払いをした後、床に散乱している下着を着始めた。フタバと言われたバケネコ族の女も緩んだ着物の帯を締め直している。
しばらく待っていると、司祭のローブも着たニャンギエフが窓を開いて換気をし、酒臭さが薄れていく。フタバもいそいそと乱れた室内を整え出した。そして、ある程度掃除が終わると、ニャンギエフは若干震えながら俺の前に跪いた。フタバもその背後に座る。
一分程、無言の時間が続き、俺が仕方なく
「……ニャンギエフよ……女神様の……ご指示を伝えます……」
そこで考えがまとまるまでしばらく黙ると、ニャンギエフは泣きそうな表情でこちらを見てくる。
「……ナコミ帝国の……ミツハ姫の暗殺をやめなさい……」
ニャンギエフは深く項垂れると、こちらを見ず
「ちっ、違うにゃ……後ろに居るフタバが悪いにゃ……純粋な僕を唆して、妹を殺せと言ったんだにゃ」
フタバは慌てて前に出てくると
「ちょっと待ってよ!ニャンちゃんが!私が女神教に改宗してニャンちゃんと結婚すれば!邪魔なミツハを排除してくれるって言ったんでしょ!?」
「うっ、嘘を吐くにゃ……ぼっ、僕はそんな卑怯なことはしっ、しないにゃ……」
「……信じられない……一生愛してるってさっき言ってたのに……」
「いっ、言ってないにゃ……そんなこと言ってないにゃ……」
「嘘つき!」
2人は揉め始めた。その様子を眺めながら、何となく分かってきた。寝ていた女はフタバというミツハ姫の姉で、使節団でこの教都へと一緒に来ていたようだ。そして何らかの理由でミツハ姫を殺したいようだ。そこにニャンギエフがつけ込んだのか……2人共、超悪人じゃないか……どうしよ……。
目の前で繰り広げられる汚い大人達の修羅場にしばらくオロオロしていたが、覚悟を決め
「ニャンギエフよ……そしてフタバよ……聞くのです……」
つかみ合いの喧嘩になりかけていた2人は、その場で素早く跪いてこちらを向いてきた。
「……あなた達は……まだ罪を犯していません……女神様は……全て見ていらっしゃいます……暗殺はやめると……誓うのです……」
2人はしばらく黙った後
「誓うにゃ……」
「誓います」
ほぼ同時に誓った。俺はホッとしつつ、余計なことだとは思うが
「ニャンギエフ……そしてフタバよ……女神様は……2人の結婚を望まれています……愛しているのなら……公表して……結婚しなさい……」
フタバはその場で喜びで飛び上がり、ニャンギエフは突っ伏してしまった。こんな指示は受けていないが、この2人は放っておくとろくな事がなさそうなので俺のアドリブだ。直後に周囲が暗くなっていき、意識が薄れていった。




