封印
光の剣を持つ、特徴の無い若者の特徴のない声で呼びかけられた俺は黙って彼を見つめる。正直、全然強い感じがしない。珍しくリブラーの声が
亜空間の創設者、裂け目から覗く者、気配の消失、オートヒールレベル10、全属性吸収、超知覚、無償の愛をばら撒く花から、天使の羽根、行動速度三倍を引き出し、更にダークオーラソード、剣の極意レベル10を追加しました。目前の存在は女神と同格以上の、攻撃特化型の高次元生物です。恐らく、勝利不可能だと思われますので戦闘を引き延ばします。ナランさんの次元を一時的に上昇させます。慣れるまで、私が代理で戦闘を遂行します。
何言ってんだコイツ?と思った瞬間には、目前にワープしてきた男に、光の剣で俺は腰から両断された。
……はずだった。俺の横には腰を両断されて絶命していく俺の姿があり、男は女神の側から一歩も動いてはいなかった。直後に勝手に動いた俺の両手は空間に漆黒の穴を開いて、その中へと入り込む。
穴の中は、裏も表も上下左右も全て同時に見えている、先ほどまで居たバリアで囲まれた場所だった。スズもローウェルも男も、俺の身体も、足元の岩場も宙を漂う空気の全て裏表上下左右同時に見える……。
男はまた一切の躊躇無く、ワープして背後から切りかかってきた。同時に上からも下からも、左斜め下からも、男がブレながら斬り掛かってきた。その軌道や初速の動きや結果まで全て俺の視界に入って来る。俺も下へ斬り掛かるのと同時に、別の俺が後ろへと下がり、その俺は直後に背後の死角にワープしてきた男からあっさり両断されたが、その切断面から別の俺が現れて男を掴むと動きを止めた。
意味が分からないが、手元でいつの間にか黒く輝いていた光の剣で男に斬り掛かると、あっさりと頭から両断され、次の瞬間には何事もなかったかのような状態で、元の位置に俺と男は立っていた。視界も正常に戻っている。
スズが立ち上がると、男に
「どう?」
男は苦笑いして、光の剣を消すと
「ボウガーは居ない。やっぱりお前じゃないのか?」
スズは頬を膨らませ
「違うって。次元が上がった時に更に上からナラン君の精神世界もじっくり探ってみたけど、戻って来たサナーちゃん含めてボウガーと無関係よ」
男は黙って見ていたローウェルに
「猿芝居は終わりだ。リブラーも正常だ」
「……六次元で戦って、七次元から覗くとか夫婦で趣味のわりいことすんじゃねえよ」
ローウェルがダルそうにそう返すと、男は爽やかに笑い軽く手を挙げ、薄れて消えて行った。
ローウェルが指を鳴らすとバリアが消え、彼は座り込むと俺に
「説明する。座ってくれ」
首を傾げながら座ると
「お前をテストしてた。同時に女神も今の男から探られてた」
「テスト?」
「お前がボウガーかどうかっていうテストだよ。女神をハメたんじゃなくて、ハメられてたのはお前だ」
「いや、よく分からん……」
スズが何でもない顔でこちらへと来ると、胡座をかいて座り込み
「私も自分の別人格全員出して自己診察して、次いでにタカユキから診察されてたってことよ。あんなに自分から嫌われてたとは思ってなかったけど……」
「さっぱり分からないんですけど」
ローウェルは、ポンッと俺の肩を叩くと
「気にすんな」
立ち上がり、岩場の中心部ヘと歩いていく。
「あの女神様の討伐は……」
スズがニコリと笑って
「だーかーらー皆でナラン君をハメたんだって……」
そう言った瞬間、足元に出来た虹色の渦に吸い込まれていった。いつの間にか俺の横に立っていた先ほどの男が、額の汗を拭った後、振り返って駆けてきたローウェルとハイタッチして
「ナランのスキル残照を使って5次元までの封印はしたからな。その上の次元のアイツが低次元への鍵を開けるのは苦労するはずだ」
「わりいな。アイツ居ると話がややこしくなるからな」
「シーネを代理存在で復帰させる。俺はボウガーに知覚される前に去らせて貰う」
男は俺に微笑むと、その場から消えた。
……何が何だか分からないが、とにかく罠にかかった女神は封印されたようだ。気が抜けてその場に寝転んだ。あー……星が綺麗だなー……。
「ふふぅー……花嫁修行は終えましたあ。五月蝿いお母様もいませんよー」
何か聞いたことがある声が……と思った直後、満面の笑みのシーネの顔が俺の顔に覆いかぶさる。




