避難
日も暮れて来たので警護はローウェルに任せ、俺とスズは中腹付近の山小屋まで降り、そこで休憩することになった。スズの中身は当然ノヴェナだ。彼女はカンテラで照らしながら山道を歩きつつ、スズの身体の各所をつねったり、服の中に手を入れたりして反応を確認しながら
「んー……よくできてるけど、ナラン君の身体に入った時と比べて作り物な感じがあるなー」
「見た目じゃ分かりませんけどね」
「だよねー」
などと雑談しながら、誰も居ない山小屋の鍵を開け、入ると、ぼんやりと人影が立っていて
「ナラ……ン……見つけた……」
何処かで聞いたことある声で言いながら、俺に覆いかぶさってくる。同時に頭の中で
「やったー!帰って来たぞー!」
サナーの声が響き、呆然とボニアスの声が
「ほ、本物じゃ……」
現実世界で隣にいるスズが不思議そうに
「えっ……何、今の霧……」
と言った瞬間に意識が落ちる。
……
精神世界のアン王女監視部屋に俺は立っていた。目の前には傷だらけの黒装束姿のサナーが自慢げに
「自力で帰って来たぞ!」
俺にビシッと指差して宣言すると、強く抱きついてきた。同時にサナーと俺の身体全体から虹色の湯気の様なものが出て、近くで唖然としていたボニアスが
「存在を自己修復しとる……」
全身の傷が消えていっているサナーは
「あー大変だった。ナランが見つかるまで、ずっと、黒い霧の中で彷徨ってた」
「いや分からん。お前、消えてたよな?」
「私にも分からないけど、この世界全体を覆う闇みたいなのが、急に消えて……そしたら遠くに光が見えたんだ……そこを目指して歩いたら、ナランが居た」
いや待てよ。それなら心当たりがある。女神がスズの身体から抜け出て何処か遠くに行っていた。多分それじゃないか?この世界全体を覆う闇って女神もそんな感じだし……。
ボニアスを見ると察した顔で
「……うむ。女神が今、この星におらん。それでサナーちゃんが蘇り、ナランの精神世界に避難できたとすれば……」
「何々どゆこと?」
不思議そうなサナーと椅子に並んで座り、深刻そうな表情のボニアスも目の前に椅子を置いて座った。
ボニアスは懐から小さな灰色で四角い古い機械を取り出し、素早く操作し始めた。
「ポケベルじゃ。セイちゃんを呼び出しておる」
すぐに大天使セイが現れ
「緊急とは、どうした?」
ボニアスは「キュルキュル」としか聞こえない超早口でセイに何か伝えると、セイの表情が曇り
「ちょっと待ってろ」
その場から消え、次の瞬間にはパジャマ姿で金髪がボサボサの大天使ナーニャを連れて戻ってきた。
大天使達も着席するとボニアスが深刻な表情で
「ナランがボウガーだと思っておった」
「……は?」
俺が思わず聞き返すと、ボニアスは真剣な眼差しで
「兄たちの因果操作、両親の死別による追放、そしてナラン本人へのリブラーやシーネによる異常な引き立て。決定的じゃと思ったのは、お前の目の前でサナーちゃんが消えたことじゃ」
大天使セイも腕を組んで頷き
「セイ様もその線があると思って、お前をずっと監視していた」
「いや、よくわからないですけど……」
ナーニャが寝ぼけ眼をこすりながら
「ボウガーっていうのはねー。存在そのものを消すんだけどー、ルー何とかブラックバード?が、所持者でねー……その人は多分、7万年前から自分が死んだ事実を消し続けてるから、まだ生きてるんだよー」
意味が分からない。セイが補足するように
「要するにお前が、変装したブラックバード本人じゃないかと疑われていたってことだ」
「……そ、そうなんですか」
ボニアスは深刻な表情で
「……理には適っておる。ボウガーが女神に寄生してしまえば、安全に全体を操作出来る」
大天使セイは腕を組み直し
「……不味いな」
サナーがいきなり立ち上がり
「要するに女神を討伐すれば良いんだな!やってやるよ!」
急にそう宣言した。俺は全く話に付いていけていない……。




