スキルデビル
その後は日が沈むまで、何も降りて来ず、何も尋ねて来ず、岩場で跪いて祈っているリースとアン王女を眺めているだけだった。山頂の広範囲に広がる岩場は太陽の熱で熱されて座れず、少ない草地の上でローウェルと並んで座って雑談などしていた。
相変わらずリースは一切揺らぎないが、アン王女は全身から絶え間なく汗と言うより水が噴き出し続け、滴る水で足元の岩場を冷やし続けているようだ。ローウェルがポリポリと乾燥豆を食べながら
「まあ、女神が戻ってくるまで暇でいい」
近くの草地の上に敷かれたシートに寝かされたスズを見る。スズの顔や手には日焼け避けのタオルがかけられている。
夕方になると次第に岩場全体が涼しくなっていき過ごし易くなった。ローウェルは大きく息を吐くと立ち上がり
「そろそろだな。ナラン、スズの身体に触れて、空の傀儡のスキルを付けろ」
よくわからないが、寝ているスズの腕に軽く触れ
「空の傀儡よ!付け!」
そう唱えると、頭の中でノヴェナの声が
「女神様から受けたまっておりまーす」
そう言ったかと思うと、スズが自らタオルを取り去り、上半身を起こし、自らの身体に両手で触れると
「ふむ……これは女神様なりの縛りプレイなのかな?性的特徴に極めて乏しい気がするけど」
不思議そうに首を傾げる。
ローウェルがいきなり噴き出し
「その身体、女神のオリジナルの身体を模している可能性があるぞ。精神体も同じデザインだろ?」
スズは苦笑いしながら
「危ない危ない。セクシャルハラスメント発言になるところでした。というわけでナラン君が付けてくれたスキルのお蔭で、私がこの身体に乗り移りました」
ノヴェナが入ったというのは口調で分かる。ローウェルはスズに立ち上がるように促し
「異端審問官様が5分後にご到着だ。頭巾とマスクを付けとけ」
と言った。
夕日に照らされながら山頂の入口付近で3人で並んで待っていると、魔法で浮きながら移動してきたヘグムマレーと共に談笑しながら、凄い見た目の中年男性が歩いて登ってきた。禿げている頭頂部はヘグムマレーと同じだが、残っている両サイドの黒髪を長く伸ばして三つ編みにしている。しかも隈の様な黒いメイクを目の下に施し、紫のリップが塗られた唇も毒々しい。服装は司祭達と同じローブで普通だが、頭全体があまりにも個性的だ。
変わった見た目の中年男性は、俺達に近づくと
「ローウェルちゃん、おひさー」
親しげに述べて、山頂全体を見回し
「異常無しっと。で、アン王女は?」
「チョミタナさん、無事だ。偽聖者の兆候も無い」
「ふーん……」
全く信じていない様子でチョミタナと呼ばれた異様な中年はアン王女に近づき、俺達とヘグムマレーも近づくと
「まーた変なスキルで乗り切ってるわね。これはスキルデビルの兆候があると言えませんか?ウィズ公よ」
振り返って尋ねられたヘグムマレーは苦笑いしながら
「私には分からんね。そんなことより、審問官殿が何がお好きかという話を最したい」
「……ふふふ。まーた山吹色のお菓子の話ですか」
「我が娘が聖者となったのだ。お世話になる皆様にこう、パーッと楽しんで頂きたいものですな」
「良いですね。旨い酒が出る会員制のバーがあるのです、今夜如何ですか?」
「おお!教国の酒は旨いですからなあ」
ヘグムマレーはチョミタナと肩を組んで暗くなっていく山道を降りていった。
久しぶりにダイナミック汚職を見たな……ヘグムマレーも大変だ……と呆然としているとローウェルが頭巾とマスクを外し、ホッとした様子で
「ヘグムマレーさん、助けてくれたな」
ノヴェナが入ったスズも頷き
「スキルデビルかー……リブラーのことでしょ?」
その言葉で意味は分かった。つまりスキルを自由に付け替えられる存在を教会ではスキルデビルと言うのか。いや待てよ……じゃあ、俺もスキルデビルだよな……他の大天使も女神もスキルデビルってことになるぞ。いや、女神はデビルで合っているとは思うが……。
ローウェルはダルそうに座り込み、風下に向け煙草を吸い始めると
「スキルデビルは、異端審問での一番の罪だな」
「さっきのおじさん何なんだよ……」
ローウェルは夜空を見上げ
「女神のお気に入りだ。女神教を強く信仰しているのに、女神教を破壊する方向に動いている狂信者、しかも汚職神官でもある」
「あー……女神様が好きそうなクズっぷりだな」
しかし、知れば知るほどろくでもないことに巻き込まれて行くのはなんなのか……とりあえず休もう。一日気を張っていて疲れが出てきた。




