計画通りッ
時間が動き出すと、直後に石塔目掛け、空から細い稲妻が閃光と共に落ちてきた。ミツハ姫は驚いて飛び退き、猫耳猫尻尾を生やした女官やサムライ達が焦った表情で庭の各所から十数人駆けつけてくる。
「姫様!お怪我はございませんか!?」
「姫様!大丈夫ですか!?」
ミツハ姫は驚きながらも
「わたくしは、問題ありません。それよりも光粒塔が……」
石塔を心配そうに見上げる。
マリオンヌに頼んだ俺も稲光にビビってしまって全く動じてない女神と、バケネコ族達の背後から見守っていると、石塔から
「んあー……昼間っから飲んだ飲んだ。ヤエミ、俺、途中から記憶が……なんじゃこりゃあああ!!」
というローウェルの声が響いてきた。ミツハ姫は嬉しそうに
「その声はローウェル様!ローウェル様でしょう!?」
「……やべえ……これは女神にはめられたな……」
ミツハ姫は石塔に抱きついて、頬を擦り寄せ
「ああ……お母様が奇跡を……」
しばらく沈黙が続いて、石塔になったローウェルが咳払いすると
「……で、どうしたミツハ」
落ち着き払って言ってきた。その状況把握の早さとメンタルの強靭さは見習いたいと俺は思う。
ミツハ姫は石塔に抱きついたまま
「ローウェル様……バゥスンから言われ、ミツハはあなた様好みになるため、太ってみようとしました」
「う、うん……」
前言撤回、おっさん、明らかに焦ってるな……周囲には跪いた女官とサムライ達が次第に増えていき、皆、猫耳がピクピク動いたり、石塔の方を猫耳が向いているので集中して2人の会話を聞いているようだ。ミツハ姫は更に
「しかし、どうしても吐いてしまい、太ることができません……ミツハは、どうすれば、よろしいでしょうか……」
しばらく絶句したような沈黙が続き、ローウェルが咳払いすると
「あーえっとな。俺の弟子でナランっていうのが居るんだが、そいつが何とかしてくれる。というか、俺の代わりにお前の後方に精神体で立ってるはずだ」
姫と女官とサムライ達が一斉にこちらを見てきてビビるが、よく見ると全員視線が微妙にズレていて、誰も俺と女神の存在を感じられては居ないようだ。ローウェルはダルそうに
「こんな感じでどうだ?ナラン、女神、もう返してくれ。ヤエミと飲み比べしてる最中で……」
ミツハ姫は慌てた様子で
「ローウェル様!ヤエミさんとは!?」
ローウェルは舌打ちすると
「俺の忍者仲間だよ。ほら、痩せてるのとぽっちゃりしたの見たことねえか?ぽっちゃりした方……あっ」
ミツハ姫はその場で泣き崩れ
「そ、その方が……ローウェル様の今の……」
女官達が慌てて支え、サムライ達に明らかに殺気を向けられた、石塔に宿ったローウェルは大きくため息を吐くと
「ただの仕事仲間だって言ってんだろ。ミツハ、よく考えてみろ?」
そこで一旦言葉を切り、少し黙った後
「仕事仲間ってのは女も男も関係ない。仕事のパートナーとして使えるかどうかってだけだろ?お前も副都エゴモンの太守として分かるよな?」
「……はい」
「そこにわざわざ複雑になる男女関係なんて軽々しく持ち込まねーんだよ。そりゃ、ヤエミとは気が合うし、酒も飲むよ。でもそれ以上にはお互いならない。俺もヤエミも忍者として何処までもプロだからだ。分かるか?」
「……ローウェル様……」
「何だよ。まだ何かあんのか。嘘は吐いてねーぞ。こんなに聞かれてるのに嘘吐けるかよ」
ミツハ姫はまた石塔に縋り付くと
「ミツハはローウェル様の逞しきお身体が恋しゅうございます……」
「……それ、ここで言っちゃう?お前もナコミ皇族の一人だろ?」
「ミツハは!皇族である前に一人の女です!ローウェル様に恋焦がれるバケネコ族の女なのです!」
長い沈黙が続き、ローウェルは耐えられなくなったらしく
「……あー分かったよ。今、俺、聖者護衛の任務でトラアス教国の教都に居るんだが、異教徒であるお前が来られるなら会ってやってもいい」
「ローウェル様……ありがとうございます」
少し沈黙が続いた後、ローウェルが呆れた声で
「マジで来んのかよ……家来の皆さん、くれぐれもバケネコ族だとバレないように頼むぜ……護衛は少数精鋭でな……あっ、意識が薄れてきた。女神……てめえ許さねえからな……」
次の瞬間、曇天が晴れ渡り、青空が広がった。サムライと女官達がどよめく中、ミツハ姫は石塔に抱きついて、頬を擦りつけ嬉し涙を流していた。
いやー何か、良いことしたかも、などと思いながら満足していると、隣でいきなり口を抑えた女神が
「プフーッ!」
激しく噴き出して、そのまま笑い転げ出した。そんなにローウェルが必死に説明してたのが面白かったのかよこの邪神……本気で呆れていると、ミツハ姫が女官を引き連れ、俺と女神の側まで来て
「ローウェル様のお弟子のナランさん、いらっしゃるのならば、お聞きください。わたくし、ミツハは逃げも隠れもいたしません。これから、上帝様のご許可を取り、正式にナコミ帝国初の聖者誕生祝賀使節団として、教都へ参ります。どうぞ、よろしくお願いいたします」
驚く女官達の中、颯爽と頭を下げ、素早く立ち去って行った。笑い転げていた女神がスッと立ち上がると
「計画通りッ!」
俺にニカッと笑ってくる。さすがにとんでもない事態になりつつあることに気付いた。異教徒の祝賀団って聞いたことが無い……この邪神、マジで気に食わない聖者誕生の儀式をかき回す気だ……ヤバいかもしれない……。




