キラメキエアリアル教
ミツハ姫は三本の尻尾をユラユラ振りながら、廊下を抜け、回廊に囲まれた広いオリエンタルな庭園へと出てきた。ねじ曲がった木々や白い砂の撒かれた地面、そして人工的な池が整然と配置されている不思議な空間だ。ミツハ姫は待機していた女官が差し出した草で編まれたスリッパのようなものを履くと庭園の中心地に設置された墓標のような石塔へ歩いていく。
女神と付いていくと、オリエンタルな文字が掘られた石塔の前にミツハ姫は跪き
「オリーお母様、ミツハ達、ナコミ帝国を女神教なる邪悪な宗教からお守りください」
真剣に祈り始めたので、俺は思わず噴き出してしまう。女神は怒るどころか、腕を組んでウンウンと頷き
「そうそう。極まった変態と拗らせたアホが織りなす真の邪教よねえ」
納得した顔をする。いや女神がアンチ女神教なのはもうよくわかったが
「あの……この国、女神教じゃないんですか?」
女神は腕を組んだまま、またウンウンと頷いて
「光粒教……通称キラメキエアリアル教よ。神聖な空気の瞬きを感じて、世界の安寧を祈るというかなーり……世界の真理に近づいた、良い線いってる宗教ね」
「ああ……混沌粒子の存在自体を感じて、祈る感じですか」
それは効果があるかもしれない。少なくとも自分を崇める宗教アンチの邪神に祈るよりは……。
「そうそう。女神教のアホ共と違って意味のない偶像崇拝じゃないわけ。偶像崇拝自体は悪くないけどさあ……女神教のアホどもは如何にも私から離れられない乳飲み子って感じでしょ?神は死んだ!とか、神は免罪符は出さない!とかさあ……神としてはそういうの期待してるんですが!」
何故か怒り出した女神に苦笑いしているとミツハ姫はため息を吐いて
「お母様、ミツハは、ローウェル様と添い遂げたいのです……そして、どうやらローウェル様の好みのように太ることができません。ミツハに道をお示しください」
次の瞬間には周囲の時間が停止して女神が俺の肩を叩き
「えーということで、ナラン君はどうしたいの?」
いきなり尋ねてきた。
いや、急に言われましても……戸惑っていると女神が
「これ、時間停止じゃなくて、我々の精神体の思考と移動速度を極限まで上げているわけよ。相対的に周囲が停まって見えるってだけね。ま、ゆっくり考えて」
そう言って俺から離れ、見事な庭園を見学に行ってしまった。取り残された俺は、事態を整理してみる。つまり、ミツハ姫はローウェルに気に入られるために太りたいが、どうしても吐いてしまって太れない。ああ……これ、簡単に解決できるよな……要するにスキルを弄ってしまえばいい。でも、多分……。
いつの間にか横に戻っていた女神が拍手してきて
「そうそう、スキル弄るだけで解決はできないわけ。だって姫がスキルで太った所で、ローウェル君が姫から逃げ回ってるわけでしょ?太り損よねえ」
「つまり、おっさんをここに連れてくる必要があるんですよね?」
女神は嬉しそうに頷くと
「管理者として初歩的な技術よ。考えてみてよ。我々の頭上には奇跡を起こせるジン・スカイストリートが浮いているわけ」
俺はその時、この女神は仕事の上司としてはとてつもなく優しいかもしれないと思った。要するにずっと管理者としての研修をしてくれていたのだ。……でも仕事の研修受けるには変なタイミングではあるけれど……こんな詰め込まなくても儀式からでいいだろ……。
俺は頭上を向いて
「えっと、マリオンヌさん、ローウェルのおっさんをここに召喚できますか?」
マリオンヌの声が停まった曇天から
「んー……まあ、できないこともないけど。でもすぐ逃げると思うから、その石塔にローウェル君の精神体を一時的に宿らせたらどうかな?」
女神がケラケラ笑いながら拍手をして
「いい!それは最高!ナラン君、それでいこう!」
この邪神がそんなに喜ぶなんて、本当に良いのかそれで……首を傾げながら
「マリオンヌさん、よろしくお願いします」
とりあえず頼んでみる。




