恋を吸収
猫耳猫尻尾の女官とサムライ達に頭を下げられミツハ姫は、憂う気な顔で立ち上がると皆の前でしゃがみ
「頭を上げなさい」
涙ぐんでいる者達もいる女官やサムライ達の顔を同じ高さで見回した姫は
「皆の心配は分かります。申し訳ないとも思っています。しかし、これは必要なことなのです。ローウェル様をわたくしの婿として迎える。これ以外に帝国の安寧はありません」
きっぱりと言い切った。そして毅然とした態度で立ち上がると
「下がりなさい」
女官とサムライ達を下がらせた。そして、窓際の椅子に座るとポーッとした顔で
「ああ……ローウェル様……ミツハはお側にいとうございます……」
黒雲に覆われた空を見上げ始めた。
一連の様子を俺と見ていた女神は興奮しながら
「恋ね!女の子の一途な恋を吸収よ!」
ミツハ姫の近くへ行き、左右の腕を振りながら何かを自分の方へ引き寄せようとしだしたので
「そ、それは何を?」
慌てて尋ねると、真顔で
「恋を吸収中よ。私も女の子だからね」
「いや、混沌粒子?的に何かしてるんですか?」
女神は首を横に振ると
「恋を吸収してるの」
「恋を吸収してるんですか?」
「そうよ。定期的に恋を吸収しないとね。女の子だからね。女の子じゃなくても恋は良いものでしょ?」
「女神様もそういう共感みたいなことするんですか?」
つい、そう尋ねてしまうと女神は実に嬉しげに
「うん。女の子だし。ナラン君に会った後のリースちゃんの横にもよく行って恋を吸収していたし、聖者になってからは毎食話してるし」
「恋とか愛についてですか?」
「ひみつー!」
ニッコリ笑いながら言って来る女神の背後にハリセンを持つ大天使セイが出現するかと期待したが出て来ずに、女神はまたミツハ姫に向け両腕を振り始めた。
謎の時間が過ぎていく。いや半日後には次の聖者儀式だぞ!悠長にやっている場合じゃないだろ!俺が慌てて女神に何か言おうとした直後にミツハ姫は立ち上がり
「……そうか……女神教で聖者誕生していたな……」
と言いながら、部屋から出て行ったので、女神と追いかけていく。
オリエンタルな廊下を3本の猫尻尾を揺らしながら優雅に歩く姫の後ろ姿を女神は見つめながら
「かーわいっ!隣の国のニャンニャン達も良いけど、この子達も愛らしいのよねえ」
「いや、何か両国で戦争しかけてましたけど……」
ニャンギエフが大統領を操って魔法弾ぶち込んだというのはこの国だ。女神は歩きながら
「うん。隣の国のニャンニャン族が人間と混ざったのがバケネコ族だからね。純血のニャンニャン達はバケネコ族を下に見てるわけ。勿論、全てのニャンニャン達じゃなくて、極右ニャンニャン?っていうの?そう過激派がバケネコ族を滅ぼしたがってるわけね」
絶句してしまう。よく知ってるじゃないか。女神は姫の尻尾を眺めながら
「……生き物は生まれる時も死ぬ時も一個体に過ぎないけど、一個体では生きていけないから、国を創る。するとその枠組みが大事になって、その外に居る者達を区別する」
何か難しいことを言ってくる。
「区別が差別になり、共同体を守るための教えが、年月を経て差別助長装置になる。関係ない奴らは殺戮してもオッケーだなんて教えが良いわけないでしょ……ふー……ってもさあ」
「はい」
「考えなしに何でも良い、何でも悪いってわけでもなくて。常にしっかり議論しながらルールを作るのが大事でね。でもそれをできてる共同体は少ないわけ、サボってる国が多い」
おお……女神、割と世界のこと考えてるじゃないか……見直しかけていると
「うー……でもミツハちゃんもニャンニャンもかわいい……一緒に並べて飼いたい……四つん這いにしてえ……モフモフしてえ」
などと怖いこと言い出して、また俺の尊敬がゼロに戻る。




