教都散策
宿屋でモーニングサービスを食べる。さすが聖者の護衛の為に、うちの傭兵会社が予約していた宿、今更だがサービスが行き届いてるなと思う。本当はサナーも消えてるし、アン王女は引き続き色々とありそうだしで、ゆっくりしている暇などないのだが、もう疲れた……頭のおかしい女神と延々と付き合っていた気がする。一日忘れていたい。
ああ、そうですね……ここはあなたが創った世界ですもんね……宿屋を出ると嬉しそうに待っていたシスター服姿のスズに脱力する。スズは両サイドを縛った髪を揺らしながら背後の街を振り返り
「私が直々にガイドしてあげます!」
鼻息荒く言ってきた。頷くしかない。
聖者出現で何処もお祭り状態の教都メインストリートを肩で風を切って歩いていくスズに付いていくと
「ここが教都名物、オンタリウス・ベネリック……通称オタベの販売所よ!」
大きめの土産物屋を指差してくる。そこには色んな味のクリームを柔らかいパイ生地で包んだお菓子が並べられていた。
「おばちゃん!チョコクリーム味と、サバ味ください!」
勢い良くスズは店員の老婆に頼んで、二つのオタベを受け取ると店を出て、俺にチョコクリーム味を渡してきて
「初心者はチョコからね」
そう言いながら自分は、魚の匂いがする謎のオタベを頬張り
「うわー……きっついわー。何でサバ味のオタベって滅びないんだろ?」
完食しながら首を傾げる。早くも頭がおかしいが気にしているとこっちまで頭がおかしくなりそうなので、俺は受け取ったオタベを口に詰め込む。美味い。全然いけるな……。
更に人波を慣れた様子で進んでいくスズに付いていく。スズは街中にあるメインストリートを挟んで向かい合うように建っている巨大寺院を東側、西側と指差して
「女神教東ガンガン派と西ボンボン派よ!元々は一つのガンボン派だったんだけど、破壊の大天使であるセイちゃんの扱いを巡って対立しちゃって分派したのよ」
「そ、そうなんですか……」
女神教にも色んな宗派があるらしい。女神は腰に手を当てて勢い良く
「他にも神聖コロコローリング派や純粋ジャンピング派とかあるわ!数千年続いた伝統宗教は複雑なのよ」
「……ローリングとかジャンピングとか大丈夫なんですか?」
つい尋ねてしまうと女神は口を抑えて笑いをこらえながら
「……だっ……大丈夫なわけがないでしょ……毎日感謝のジャンピング千回とか、祈りのローリング3時間とかやってるのよ……極まったアホの集まりでしょ……」
「いや女神様が言ったらダメでしょ……」
ツッコんでしまって後悔する。スズは咳払いをすると
「ナラン君も私への信仰は程々にして、自分の人生を大切にするように!神は忙しいからね!」
俺にビシッと指を差してきた。もう言葉が出ない。
更にスズは、広くまるでボードゲームのマス目のように整然と造られている教都を俺と馬車に乗りながら案内していき、西端の見事な庭園に囲まれた金箔が貼られた教会へと案内してきた。何これ……と、周囲を人工湖に囲まれている黄金に輝く教会を口を半開きにして眺めているとスズは自慢げに
「ゴールデンロックス教会よ!十三代教皇に夢での啓示で命じて私が作らせたの!」
「入れないですよね……」
スズは鼻息荒く、早口で
「そう!そうなのよ!湖に囲まれた黄金に輝く教会を祈っていてもどうせ入れないでしょ?つまり儀礼的な神への信仰とは所詮そういうもので物質的や形式的な私への信仰もええ加減にせえ!違うやろ!っていうアイロニーが込められているのよ!」
「アイロニーとかよく分からないですけど、その……女神様の想いは通じましたか?」
スズは項垂れ
「通じなかった……観光名所になっちゃった……」
確かに周囲には、様々な人種から猫族まで、大量の観光客だらけだ。スズは俺の手を引いて
「次よ次!」
足早に歩き出した。まだ行きたいところがあるらしい……。




