ごっこ遊び
その後、更に一日の時間が過ぎた。ホール内の人々は入れ替わっては戻ってきてを繰り返し、顔ぶれは刻一刻と変わっていくが、教皇代役のニャンギエフと、聖者のリース、そしてアン王女だけは、ずっとその場に留まり役目をこなし続けた。ニャンギエフは途中交代かつ獣人なので体力があるようで、そしてリースは本物の聖者なので二人共、全く揺るぎなく水かけや跪いての祈りをこなしていたが、偽聖者のアン王女に近づいて様子を見ると、大体歯を食いしばり耐えているのだが、時折意識を失うと跪いたまま、白目を剥き口を半開きにし……更にいろんな体液が、剥き出しの肌の色んな所から噴き出ている。
たまに奇跡を起こす以外暇そうな女神に、アン王女がいよいよヤバいということを相談すると、心底どうでも良さそうな表情で
「ナラン君がスキル補強したらー?」
「ど、どんなスキルを……」
女神はニヤリと笑うと
「じゃー私を笑わせられるようにもアン王女をスキル補強しなさいな。本来なら偽スキルで神聖なる儀式を汚している大罪人よ?わたくし、女神への大逆を目の前で働いている最低の不届き者よ?それを笑わせるだけで赦してやるって言ってんの。優しくない?」
「……」
絶対、儀式も自分の宗教もどうでもいいのに、よく口が回るな……この邪神……いや、女神……と呆れながら
「……えっと、笑わせられるって言ったら、どんなのがお好きなんですか?」
「ひみつー!」
嬉しそうに返してきた女神の頭が「スパーンッ!」小気味良くハリセンで叩かれ、背後に出現した大天使セイが俺に顔を向け頷き
「女神、ちょっと休め。セイ様がナランの補助はする」
そう言った。
女神はスッと消え、セイも手元のハリセンを消すと、大きく息を吐いて
「まあ、アン王女に更なるスキル補強が必要なのは確かだ。もはや精神力系スキルで何とかなる状態を超えているからな」
そう言って、水場の中心を眺める。俺が
「多分ですけど、体力系のスキルが必要だと思いますけど……」
セイは頷いた後
「それもその通りだが、栄養不足と水分補給も問題だな。大量に水分が出ていっているので、そろそろどうにかしてやらねばならない」
「あの……リースはどういう仕組みで余裕なんですか?聖者スキルが助けてるのは分かってるんですけど……」
セイはリースを指差しながら
「あの魔法水は、混沌粒子が多量に含まれていてな。エリクサーと呼ばれる高級霊薬とエーテルという魔法薬を組み合わせたものだ」
「うわっ……無茶苦茶金かかってますよね……」
エリクサーやエーテルなら俺も知っている。
「高級ワインも入れて、人件費を加味しなければイェン換算で70億ってところだな。3日分で」
鼻血が出そうになる。……すんげー大金かかってた。マジでアン王女が漏らしてなくてよかった……。セイは更に
「つまり、自然回復が出来る聖者スキル持ちならば、あの水場に居るだけで、自然と魔法水からエネルギーが吸収され元気で居られる仕組みなわけだ」
よくわかった。だとするなら……。
俺は少し考え、大天使セイに
「水を味方に付けられる様なスキルと、自然回復系のスキルの二つが必要ですね」
セイは腕を組んで頷き
「後は、どうやって女神を笑わせるかだな」
「それ、必要ですか?」
セイは真顔で
「女神教の儀式は全て女神に捧げられるものだ。その女神が笑わせろといったら、我ら大天使はその為に動くんだよ。別に強制じゃない。ごっこ遊びの延長くらいに思ってくれればいい。楽しめ」
「ごっこ遊びですか?」
驚いてまた尋ねてしまうと、セイはホール全体を見回しながら
「我らにとってはごっこ遊びだとしても、この星に住む住人達は真剣に宗教を信じ、生きて、死んでいく。ナランもそこを忘れるんじゃないぞ」
「は、はい……」
セイが水場へと歩き出したので、俺も付いていく。




