モフり甲斐
次の瞬間には聖塔一階のホールに戻っていた。六角の水場中心にはリース達が跪き祈っていて、貴人達が囲んでパチャパチャと輝く魔法水をかけている。画家達はイーゼルに立てかけた画用紙に色を付けていて、それらをシスターやモンク達が遠巻きに見守っている。俺と女神の物質的な身体は壁際に突っ立っているだけだ。特に何も変わっていない。
女神を見ると
「あなたのお兄ちゃんの体は、物質的なものだから、そりゃ退院するまで時間かかりますよね。その後に教国に潜り込むのも一手間なわけだし」
「じゃあ今回の儀式は……」
「こういうものなのよ。すぐには全て変わらない。でも良くするための手立ては常に打ち続ける。分かった?」
女神はニッコリ笑うと、聖者達に向かってスライディングして行った。シスターや貴人達を避けながら滑っていき、アン王女の手前で宙に浮き上がった女神は、水場の魔法水の一部を一斉に上昇させて、まるで雨のように水場や貴人達に降らせる。びしょ濡れになった教皇が嬉しそうに
「今また、奇跡が起きました!」
よく通る声で宣言し、シスターやモンクは祈りだし、画家達は画用紙を取り替え、今の一瞬の光景を思い出しながら素早くスケッチをし始める。
女神はダルそうに俺の横に戻ってくると
「なーんで毎回私がサービスせにゃならんのよ……神の私を喜ばせる役目なのは、おめーら信徒でしょうが……」
肩を落として、そのままその場に座り込んだ。俺は大天使として黙って見守ろうと思う。女神に付き合っていたら消耗するだけなのはよくわかった。
その後、本当に休憩なしで一日、ぶっ続けで儀式は続いた。貴人達は割とこまめに交代していき、一度退場した人が数時間後に戻ってくることも多くなった。だが、国によっては数時間ごとに新顔が出てくる場合もあり、女神はそれを見て
「権力が一人に集中してないってのは健全よ。国家を操作するのはあくまで法であって、一人の独裁者じゃない方が良いわ」
満足そうに頷きつつ、ほぼ、ウィズ国王、ミャーマ、ヘグムマレーの3人でローテしつつ、時折王都で見た王族達が間に入る、我らがウィズ王国側を見ながら
「他の国と比べても特に権力が集中してますねー?」
ニヤニヤしながら俺に言ってくる。
「……ヘグムマレーさんがデカい権力持ってるのは分かってますけど」
「彼は、それだけの能力があるもの。でも高齢の彼が死んだ後は大変でしょうね」
意味ありげに俺を見てくる女神に
「ま、まあ、何とかなります」
「何とかしてくださいよー?」
女神はニコリと微笑むと、急に嬉しそうになり
「あー!ニャンニャン出てきたー!私のお気に入り一族ー!」
交代の為にノソノソと奥から出てきたやたら豪華なローブを着た偉そうな太った猫顔の獣人へと駆けて行く。
あ、あれはヒリュウ共和国だったかのニャンギエフだ……!確か戦争の原因を作ったすげー悪い司祭だったはず……。女神は自身の精神体の全身を緑の膜で覆いながら、ニャンギエフの身体に取り付いてモフモフし始めた。ニャンギエフは慌てて
「にゃっ……こっ……こそばゆいにゃっ……きょ、教皇様!」
教皇の近くへと駆け寄っていく。教皇は水をかけるのを止め、明らかに全身がプニプニと動いているニャンギエフの巨体を見て、嬉しげに立ち上がると
「ヒリュウ共和国のニャンギエフ大司祭に!女神様の抱擁の儀が舞い降りた……!」
そう嬉しげに宣言して前のめりに倒れそうになりニャンギエフから支えられる。
そうか教皇は、ずっとこの儀式から退出していなかったよな……老齢にしては凄い体力だけど、普通の人間だろうから限界はあるよな。などと思っていると、教皇は支えられたまま微笑みながら
「私の代役はニャンギエフ大司祭が務めます」
よく通る声でそう宣言し、屈強なモンク達から担架で搬送されていった。
あの腹黒猫で大丈夫なのかよ……と思っていると女神が横に戻ってきて
「いやーあのニャンニャン特に良いわー。モフり甲斐があるっていうか」
「あいつ多分悪人ですよ?」
女神は嬉しそうに頷いて
「うん!シールド越しに触ってたら分かった!宗教を権力と金儲けの道具としか思ってないわね!良き良き」
「何が良いんですか……」
「悪人は操りやすいでしょ?」
女神はニヤリと笑ってそう返してくる。




