神聖な光景
俺が噴水から煌めく魔法水が六角に区切られた水場に注がれるのを呆けて眺めていると、スズが前に出て、まるでベテラン聖職者のように威厳のある声で
「聖書第七章、豊穣の大天使ナンヤニア様より我ら人に授けられた御聖体沐浴行水の儀を始めます!」
教皇や豪華な老若男女が一斉に胸に手を合わせる。いつの間にか俺の横に出現した大天使ナーニャと大天使セイが
「ナンヤニアって確か私だよねー?私、これしたー?」
「今から大体千七百年前にしてるな」
「えー……覚えてないけどー」
などと雑談を始めた。
スズは小さく咳払いすると
「では、御聖体、ご入浴」
そう言って横に退いた。リースとアン王女が薄布を脱ぎ捨てると、そのまま満たされた魔法水で煌めく水場の中心に膝を突き、目を閉じて祈りだした。リースの周囲には光が満ち溢れているが、アン王女は明らかに小刻みに震えて、痩せ我慢している。大天使セイが仕方なさそうに水場へと入っていき、アン王女の震える肩に手を置くと震えが止まった。そしてスズへと顔を向け
「セイ様が助けなければ、2秒後に漏らしていたぞ。神聖な水場が、黄色とか茶色に染まったらどうするんだ」
何とスズは心配するどころか口に手を当て、少し前かがみで笑いを堪え出した。あの様子だと狙ってたな……すげえ邪神だ……信じられない程、邪神だな……。
頭がおかしいスズに呆れていると、教皇やウィズ国王、そして豪華な法服や鎧を迷った老若男女が腕まくりや、鎧の甲を外し足元に置いた後、グルっと水場を囲み、まるで子供が水遊びでするようにパシャパシャと煌めく魔法水を、中心に座ったリースとアン王女へとかけ始めた。輝いて飛ぶ水滴に虹がかかり、感動的な光景だ。
しばらく眺めていると、ホール奥の重厚な木造扉が開き、神妙な面持ちのハンチング帽や羽根帽子を被って正装の四十名ほどの集団がゾロゾロと出てきて、水を浴びせている貴人たちから数メートル距離を取り、グルっと囲むように立った。更にホール奥の別の扉から椅子や、スケッチ道具、大きな画用紙等を持ったシスター達が次々に出てくると、正装した集団に淀みなく様々な画材、そして絵を立てて描くためのイーゼル等を渡して行く。
俺の隣の大天使ナーニャが
「画家さんたちですねー。うむー多いですなー」
アン王女の肩を相変わらず触っている大天使セイは立ったまま反対側のこちらを見ながら
「毎回こんなもんだ。まあ、これから世界中から集められた、一流画家達が聖者達の神聖なる儀式を大きく美しく描くわけだが……」
チラッと横目でスズを見ると、真面目な顔で立っているが、その横で同じ姿の女神が腹を抱えて口を抑え、更に噴き出すと
「あーっはっはっは!何このド変態プレイ!頭おかしいって!毎回毎回超面白いし!」
大爆笑し始めた。どうやら笑いがこらえきれず、一時的に身体から抜け出た様だ。大天使ナーニャが呆れた表情で
「女神様……あのさあ……そんなに面白い?みんな真剣だよ?」
女神は爆笑しながら
「あはは!全力ド変態プレイの絵画が世界中の教会に大きく張り出されるのよ……あーはっは!!」
思わず俺は小声で、隣の大天使ナーニャに
「あの……女神教の聖書に書かれている悪魔って女神様のことなんじゃ……」
つい言ってしまうと、ナーニャは難しい顔で
「うむー……現地人のナラン君にはそう見えるかもー」
子供の頃に行った教会で神父が聖書で語っていた悪魔そのものだ。人々の信仰を嘲り笑う者。邪神で悪魔か……パーフェクト邪悪だぞ……なんだこの主神……まだ爆笑しているし……この神聖な光景の何が面白いんだ……。




