記録
次の瞬間、俺はベッドで目覚めた。室内は暗い。かなりの時間寝ていたらしい。直後にローウェルが扉を叩き入って来ると、暗闇の中、上半身を起こした俺に沈痛な面持ちで
「ナラン、説明することがある」
壁の光石のカバーを外し、宿泊室を照らすと、窓際の椅子に座り
「サナーちゃんのことは、リース姫すら覚えていない。ミヤちゃんもアンジェラさんも同じだ。復帰するまでは、居ないものとして扱え」
「……おっさんは何で覚えてるんだよ」
ローウェルは苦笑いしながら
「俺も忘れたらお前が寂しいだろ?」
わけがわからない事を言うと、窓を開け、煙草に指の摩擦で起こした火花で火を点けると、吸って、外へと煙を吐き出しながら
「あと、お前の精神世界を自由に出入りできるメンバーはサナーちゃんの事を覚えている」
ということはかなりの数になる。かなり安心しているとローウェルは更に
「……居ないということを楽しめ。いずれ帰ってくる。飯食ったら聖塔に向かって、姫達の警護をしろ」
そう言った後、外へ向け煙を吐き出すと出て行った。
ベッドから立ち上がり、警護の黒装束を着直し、水場に顔を洗いにいき、部屋にいつの間にか置かれていた、携帯食料と水を飲む。ローウェルが置いて行ったのだろう。サナーが消えた。消えてしまった。……いや、必ず帰ってくるな。あいつが消えるわけがない。とにかく、ローウェルに言われた通り警護に行こう。
聖塔内部の階段を上がり、リース達が祈っている部屋の扉を開けると、祭壇の前に光に照らされたリースと陰が差しているアン王女が跪き、変わらず祈っていて、扉の近くには腕を組んだシスターの格好をした女神が立っていた。黙って会釈すると手招きされ
「心配だから、手伝いに来たから」
「……よろしくお願いします」
とりあえず感謝すると女神はホッとした様子で
「……サナーちゃんについて聞いたでしょ?」
「色々と」
「しばらく居ないものとして頑張って」
黙って頷くと、女神はリースとアン王女を見つめ
「まあねえ……そりゃ私もねえ。色々とありますし」
などとブツブツ言った後
「ボウガーの追跡が不可能なのは、ボウガーが因果を切りながら移動しているからよ」
「いや、説明されてもよく分かってないんです」
女神は右手を横にヒラヒラと振ると
「大丈夫。あなたの感覚を通してこの世界をのぞいている別次元の存在達に説明してるだけだから」
よく分からないので黙っていると女神はやるせない表情で
「因果を切りながら移動はしているけれど、たとえば平行世界の2次元に記録として落とし込めたら、痕跡は残ったりするわけ。私は、観察者に記録を書かせて、それをずっと狙ってるんだけど、まだ絞り込めてないわ」
「……」
聞き流していると女神は大きく息を吐いて
「ということで、私がサナーちゃんが開けた因果の穴が閉じる前に、無理やりそこに入り込んで、ボウガーを挑発するからよろしくね」
意味の分からないことを言って微笑んできた。




