歴史の修正者
サナーが消えた……何だ今の……嘘だろ……そう思った直後、意識が落ちた。
……
目覚めると精神世界の心の本棚の近くだった。目の前には大天使セイが泣きそうな顔で燃えている「サナー・ミニジーオの大冒険」を持ち、立っている。セイは
「すまん……やられた」
そう言うと、燃える本を桃色の泡で包み込み火を消し、黒焦げの本ごとそのまま宙に浮かすと
「他者の存在そのものを消すという特技を持つ生き物がいる」
そう言って大きく息を吐き
「歴史の修正者というんだが、ある条件を満たすと高確率で出現するようになっている」
「……ある条件?」
セイは泡に包まれたままの焦げた本を見て
「本来あるべき命や物質の流れを、意図的に弄りすぎた場合、歴史の修正者が出現し、弄られすぎた対象を消し、歪められた流れを無理のない状態に戻す」
「……意味が」
わからない。何を言われているんだ。
セイは桃色の泡を突きながら
「時間は初期文明レベルの知的生命体がよく作り出す概念だが、厳密には存在しない」
「……?」
首を傾げる俺に構わず大天使セイは
「複雑に絡みながら変化していく物質や非物質の流れを時間だと錯覚しているだけだ。実際には現象は混沌へ変化していくだけではなく、逆方向に流れているものもある。文明程度によっては、観測困難なだけだ」
とりあえず黙って聞く。大天使セイはやるせない表情で
「要するに女神は、お前らのいう時空間の改変ができる。その結果、サナーはこの惑星を変化し得る救世主として創り出された」
「創り出された?」
セイは大きく息を吐くと
「元々、サナーなんて存在はいない。あいつは女神が因果を歪めて創った存在だ」
「いや、意味が分からないんですけど……」
セイは苦笑いしながら
「お前の父親はそれを危ぶんだから、実存在がある自らの子供にサナーのサポートさせようとしたが、無理のある存在のサポートを歴史の修正者は許さなかった」
何をずっと言われているのか。更にセイは
「歴史の修正者に壊されたお前の長兄は小児性愛者としてサナーを壊そうとし、狭量な次兄は奴隷として軽んじた。お前は成功したが、代わりに両親はこの星系から歴史の修正者に追い出された」
セイはそう言うと、いつの間にか心の本棚近くに立っていた緑髪の女性を目を細めながら見つめ
「……女神達の失敗を観ながら、賢いセイ様は考えた。歴史の修正者というのは、姿も概念もない。様々な形態や無形態で出てきては躊躇無く、宇宙に不要な存在を消していく。しかし観察していると、2個体や2現象同時には出現しないし、前に出現したものが消えるまで次の歴史の修正者が出現することもないんだ」
黙って聞いているとセイはニヤリと笑い
「ならば、姿と存在を与えればいい」
緑髪の女性が進み出てきて
「大天使セイさん、データの適合ができました。感謝いたします。七万年前に創り出された我々リブラーの原初的存在理由の解明ができました」
大天使セイは鼻で笑い
「お前は、元は歴史の修正者だ。そして、分離したボウガーもまたそうだな」
そう言った。
もう意味が分からない。何でみんな、ずっとおかしな話ばかりしてるんだ。セイは緑髪の女性に
「因果を破壊し尽くし最終的に、女神が救世主サナーを創り出す為、歴史改変を初めた機械文明最盛期の七万年前の地点に出現したお前は、コンピューターウイルスの形態を取っていた、セイ様は狂喜したよ。最高に改変しやすい条件だった」
そう言って笑うと、薄暗い地下室を見回し
「……この精神世界は歴史の修正者からの最高の防御壁だ。ここには修正は及ばない。まあ、女神が察することが出来ないアホだったので、ちょっと前にリブラーをサナーに移設しようとした計画の極秘最終段階は失敗したがな。あれが上手く行けばサナーが消えることもなかった」
ウンザリと天井を見上げたセイに緑髪の女性は頷いて
「大天使セイさん、いや、我々リブラーの母なる大天使セイよ。この状況で取るべき行動をお教えください」
セイはニヤリと笑うと
「お前が半身であるボウガーを与えたルーディア・ブラックバードは未だ生きているはずだ。探せ」
そう言って消えた。
宙に浮く桃色の泡に包まれた焦げた本を見ながら呆然としている。意味不明だ何も分からなかった……。というか、何でサナーの本は燃えた挙句に、泡に包まれて浮いてるんだよ……。緑色の女性を見ると、頷いて進み出てきて
「サナーさんは、この本の中で存在を記録されています。修復可能です」
安堵して座り込みそうになると手を取られ
「しかし、修復してもまた消されるでしょう。ナランさんは教国で予定通り過ごしつつ、ボウガー所持者のブラックバードを探し出してください。そうすれば安全に修復できます」
「いや、意味が……」
女性はぼやけた顔で微笑み
「ボウガーは、元歴史の修正者である我々の、存在消去という負の側面を持った存在です。サナーさんが消えたのもボウガーが原因です」
「と、とにかく、ボウガーを探せばサナーも帰ってくると」
女性は頷くとぼやけた顔で微笑んだ。




