聖塔
結局、祈りは朝まで続いた。ボーッとした俺の前方で石碑に向かい座って祈る聖者2人と教皇、そしてウィズ国王とミャーマの背中を朝日が照らしていくのを見守る。教皇が立ち上がり朝まで付き合った大群衆を見回すと、地響きの様な大歓声が上がり、石碑の向こうの真っ白な巨大塔の精巧な宗教画が隈なく掘られた高い金属扉が左右に開いていく。
大歓声の中、リースとアン王女の2人は教皇に連れられ塔へと入って行った。帰る気配のない大観衆の大歓声は塔へと向けられ、安堵した様子の国王とミャーマが並んでこちらへと歩いてきて、いつの間にか俺の隣に立って居たローウェルが国王達へと
「お役目、お疲れでした。聖者御聖体沐浴行水が始まるまで時間があるので、臣下の方々共々、お宿へ案内いたします」
サッとエスコートして連れて行った。俺は取り残され、どうしよ……知らんぞこの後の手順、と思っているとサナーが
「ナラン。檻車を引き渡すぞ」
アン王女が乗ってきた檻車の御者席から声をかけてくる。
ずっと乗ってきた檻車を鎧を纏った教国兵達の先導に従い、塔の背後の広い停車場へと停車させ引き渡し、徒歩で路地を歩き人けが無くなるとサナーが嬉しそうに
「良かったな!これで金髪女と偽聖者は数年の修行に封印された!これから始まるド変態行事の数々を見つつ、腐敗した組織を正していかないとな!」
「声をひそめろって……」
慌てていると、ローウェルが近くに路地から風のように駆けて来て
「お前ら、聖塔内で警護するぞ」
巨大な塔後部のローブ姿で髪を剃り上げたモンクらしき2名の守衛に守られた、小さな金属扉を指さしてくる。
守衛にローウェルが挨拶をしながら、正面の巨大な門同様に宗教画が掘られた扉から入ると、小さめの木造扉が並んだ広い通路へと出た。真っ白な壁や天井に囲まれ、そのまま奥へと進んでいく。寝不足の頭で何となく違和感を感じながらしばらく歩くと、僧兵やシスター達が忙しなく行き交うホールへと出て、ローウェルは慣れた様子で適当に挨拶しながら、階段から2階へと上がっていく。
2階通路へと出て、ようやく違和感の正体に気付く。外から見ると窓が一切なかったが、ホールや通路には外の光や朝日が差し込む大小の窓が大量にあるということだ。歩きながら首を傾げているとローウェルが
「全て魔法による仕掛けが施してある。実際は通常の窓は一枚もないが、約千人の教会関係者が寝起きする教都の心臓部がそれじゃ、誰も居付かないからな」
サナーがニヤリと笑い
「お高いんだろ?」
「小さな窓でも一枚、二千万イェンくらいだな」
サラリと言って先を進み出した。サナーは憤慨した様子で
「……お布施もらいすぎだろ……クソ拝金主義者どもが……」
ブツブツ言いながら俺の手を引いていく。
更に3階へと上がり、進んだ通路奥の部屋の黄金に複数の天使と空の様子が掘られた扉をローウェルが叩きながら
「警護のローウェル、サナー、ナランです」
軽くそう告げると、室内から肝が太そうな中年女性の声で
「終わりました」
そう返ってきて、直後に扉が内側から開き、汗だくの十名程のシスター達が、いそいそと出て行った。
躊躇無く入って行ったローウェルの後に続くと、ステンドグラスに朝日が差し込む広い室内で、薄布だけ纏ったリースとアン王女が並んで床に座り、祭壇に設置された女神像に祈りを捧げている光景だった。アンティークの家具や観葉植物も壁際に並んだ雰囲気が良い室内に何となく気が抜けると、俺はその場にゆっくり倒れ込んで、意識が落ちる。
……
目覚めると同じ部屋の長椅子に寝かされていた。俺の頭を膝に乗せていたサナーが
「起きたか。アン王女も安定してるぞ」
上半身を起こそうとすると
「そのまま。ナランの子種を宿した私の身体の息吹を感じていけ」
わけがわからない事を言ってきた。
「夢じゃなくて、お前とやったのか?」
サナーは恥ずかしそうに頷く。そうか……何とかしてノーカウントに出来ないものか……いや、もう無理か……などと考えているとサナーが
「……アン王女にスキル補強したんだろ?ローウェルから聞いたぞ?」
次の瞬間、微動だにしないリースの横でアン王女の全身から汗が噴き出して更に「プシッ」という何かが噴き出る音がした。サナーは気にしていない様子で
「偽スキルの不運を異常な精神力で抑え込んでるってローウェルが言ってたぞ」
「……そ、そうか」
メンタル系の強スキルを3つも付ければそうもなるか……とりあえず、迷惑は掛けなさそうなので良しとしよう……。




