おめーらの祈り
晴れ渡った青空、爽やかな風、人々が花ビラを撒く街道、ああ……何かもうよく分からんけど幸せだなあ……などとボーッとした頭で思っていると、遠くに巨大で真っ白な塔を中心にした大きな街、教都が見えてきて、更にその背後にはそびえ立つ山脈も見えてきた。あれが有名な大ルパーソナ山かあ……あそこで聖者は修行するんだよなあ……。ボーッと考えながら手綱を握って進んでいく。
結局、すぐ近くに見えている教都にたどり着くのに夕方までかかった。しかし、俺は半分寝ているようなものなので、妙な幸福感の中で辛くはなかった。左右の沿道からの大歓声と暮れていく日差しに照らされながら教都の大通りを進んでいき、中心部の巨大塔前、大観衆ぬ囲まれた広場の中心にある石碑の手前で、2台の檻車は停止した。
石碑前には、ただ1人、真っ白のローブと、まるで絹で織られた王冠の様な帽子を被った長身の老人が立っていた。彫りの深い顔の長く白い顎髭を揺らしながら彼は微笑み
「聖者リース、聖者アン、長き旅路、おつかれ様でした」
深く頭を下げると、御者席から降りた俺とローウェルから鍵をそれぞれ受け取り、自らの手で檻車から2人を連れ出した。
この老人こそがファースフォー・ゴールデンサン教皇だ。女神教最大の権力者。聖者ではないが、人格的には素晴らしいと噂されている。教皇と共にリースとアン王女が石碑の前に跪き、祈り始めているのを檻車の馬の横で立って見ていると、頭の中で女神の声が
「教皇としては悪くないけど普通ね。儀式に熱心で腐敗した組織の方に目が向いてないわ」
更に大天使ナーニャの声も
「戦災孤児の保護に熱心ですよー?いい人だよねー」
「姉弟だったナラン君にひと言」
女神がそう言うとナーニャが
「うむー……むー……ナラン君の兄弟は2人だけで良いと思うんだよーナラン君も私のことは気にしないでいいからね?」
「そうします」
未だに父親に言われたことはよく分かっていない。
石碑での長い祈りの途中にウィズ国王とミャーマも背後に加わり、すっかり日が暮れてしまい、広場を囲う大きな灯火に照らされても石碑前での祈りは終わらなかった。ボーッと突っ立って眺めていると、また女神の声がキレ気味に
「なげーっつうの!世界平和と豊穣の祈りはわかったから!もっと簡潔に!各年代の聖者の功績を列挙して、わざわざ詩的に引用しながら私に伝えなくてもいいっつうの!しかも信じられる!?これの原稿、数十人の有識者で書いてんのよ!?人材の無駄遣いっ!」
大天使セイの声が
「そうかー?セイ様、なかなか女神教の儀式好きなんだが。丁寧で荘厳だろ?惑星の住人が文化的に優れている証だ」
「……セイちゃん……もう主神交代しよ……」
「ふっ……お断りだ。賢いセイ様は、自分が主神の宗教などそもそも起こさないからな」
「ナラン君聞いてよー。もー毎回毎回これよ?忙しい女神の私としては、おめーらの祈りばっか聞いてらんねーのよ……今だったら磁場と自転の調整してポールシフト起こらないように頑張ってるのに……」
「その件に付いてはナーニャが良い案があるそうだ」
「……聞きたいけど、世界中の女神教信者どもの祈りが煩いから、適当に奇跡起こして黙らせてからにしましょう。セイちゃん手伝って」
大天使セイのため息のあとは、頭の中の会話が止んだ。もはや女神はどう考えても邪神だと思う。目の前の祈りの光景は真剣そのもので、俺にはとても神聖なものに思える。




