全部付けよう
左手の掌に乗りスクワットした状態のまま固まったアン王女を見つめる。着ているものはもはやボロ切れすら通り越し、変な形の布が体に張り付いているだけだ。黒のサラシとショーツが新品なのは、多分護衛のサナーが苦労して着せたんだと思う。チラッとミニチュアパレードのアン王女側檻車を見ると御者のローウェルの隣にサナーが座っている。
俺が緑髪の女性を見ると
「アン王女の現在のスキルバランス状態ですが、無償の愛をばら撒く花の偽スキルを中心に、犬として生きる者、生存への渇望のスキルと、無意識の罰、人外のルールのマイナススキルが二つ付いています」
「その四つだけですか?他のスキルは?」
緑髪の女性は首を横に振り
「サーガ王家との絆、ナランへの愛、風の使い手、気品、心の深奥のスキルは消え失せ、悪癖への依存レベル8のマイナススキルも綺麗に消えていますね」
俺は冷や汗が出てくる。つまり、偽スキルと聖者としての移送がアン王女という人間をすっかり変えてしまったということだ。
ゆっくりと女神を見ると、少女の顔でニッコリ笑って
「そのままにしといたら?今のスキル内容聞いたら余計に面白そうだし」
屈託なく言い放った。俺は唖然とした後
「あの……それ、神が見放したってことになりますよね?」
「別にそうでもないけど?ただ、私がアン王女には興味がないだけよ。でも……」
女神は横目で、木箱の上に2本足で立ち、腕を組む大天使にゃからんてぃを見つめると
「にゃかちゃんがスキルで補強しろってお題出してるから、してやったらー?」
そう言いながら、ミニチュアパレードの中から御者のローウェルをつまみ上げ、自らの掌に乗せると
「ローウェル君はどう思いますか?」
何とミニチュアローウェルは面倒そうに、立ち上がると
「……どうもこうもねえな。ナランがやりたいようにやれ。あと女神、俺の精神体で遊ぶんじゃねえよ。パレードに戻せ。色んな次元を同時に見るのは疲れるんだよ」
女神はニッコリ笑って、ローウェルをミニチュアパレードへと戻した。ローウェルは元の御者姿に戻り固まる。
おっさん……マジで何者何だよ……この世界に深く関わるほどローウェルの正体不明さが深まっていくのは何なんだろうか……それはともかく
「どんなスキルで補強したら、いいんでしょうか?」
周囲を見回すと緑髪の女性が
「単純な解決方法としては、偽スキル以外のスキルを削除して、元のスキルを全て付ければ、サーガ共和国出発時のアン王女に戻りますね。しかし……」
大天使ナーニャが
「聖地で修行してるうちに、元に戻っちゃうよー?」
確かにそうだろう。偽スキルが不幸を呼んできてまたおかしくなるだろう。そして俺は気付いてしまう。
女神を見ながら
「アン王女に触れましたよね?」
女神はニヤリと笑って横を見て、ミニチュアアン王女をつまみ上げた左手指先を見せてくる。そこには薄っすらと緑の膜が張られていた。どうやら直接触れないようにしていたらしい。そこまでアン王女に興味がないか……。分かった……神に見放されたアン王女を俺がどうにかしよう……。
俺は一応無駄だと思うが、女神に
「偽スキルを削除したらだめですか?」
女神はニヤニヤしながら首を横に振り
「まあ、大罪ですよね。私の加護スキルの偽ものを意図的に付けるなんてねえ……リブラーちゃん?」
緑髪の女性を見るが、女性は俺から視線を外さない。聞いていないふりをしているようだ。とにかく偽スキルは残さないといけないようなので緑髪の女性に
「アン王女の偽スキル以外全部削除して、元のスキルをまず戻そう」
女性はぼやけた顔で頷くと
「そうですね。その後、補強スキルを考えれば良いと思います。では、我々リブラーがナランさんの代理で、アン王女へのスキル削除と追加を実行します」
直後に俺の左手の上のアン王女が一瞬輝き、女性が
「スキル修整が完了しました」
そう言った。
次は補強スキルだ。しばらく考え
「あの、自分のままでいられるようなスキルってないんですか?」
ナーニャが嬉しそうに手を上げ
「はいはいー!私分かるよー!頑固一徹だねー」
女神が不満げに
「変わらぬ意志、でしょ?」
緑髪の女性が静かに
「礎の道標が良いと思いますが」
まさかの3者とも意見が違うということになってしまった。相変わらず無学なので、スキルの内容を聞いてみることにする。
まずナーニャは
「頑固一徹はねー。一度決めたことを曲げないスキルだよー?」
そして女神は
「変わらぬ意志というスキルは、自分の生き方が矛盾していないように筋を通すレアスキルよ」
緑髪の女性は
「礎の道標というのは、ある目標に向け、一心不乱にまい進するスキルです」
聞いたことでどれが良いか余計に分からなくなった俺はしばらく混沌した後に
「全部付けよう」
と言ってしまった。




