補強
3階のホールド真ん中には、大きな木箱の上に、2本足で立った三毛猫が腕を組んで待っていた。虹色のマントも羽織っている。何処かで見たよな……と思いながら、大天使ナーニャと女神と近づいて行くと、猫はニヤリと笑い
「問いというのはつまり落葉のようなものです。枯れ落ちた葉が腐葉土になり、雑草を発芽させるのです。それらは枯れて土に戻ります」
ニャーニャーと意味不明なことを言ってきた。
ナーニャは真面目な顔で頷くと
「分かったーナラン君ーあのさー」
「はい」
「この猫ちゃんは、大天使にゃからんてぃって言ってねー彗星剣に宿ってたでしょー?」
「あっ……確かに彗星剣使ってた時に、肩を叩かれた……」
助けてくれて、その時も意味不明なことを言ってきた気がする。でも毛並みが違う気も……。ナーニャは
「にゃかちゃんはさー。エンチャントっていうの?色んなものに色んな効果を付けるお仕事をしています。毛並みの色もエンチャントでよく変えているんだよー」
焦れったそうな女神が横から
「元々あるものの調整のお仕事よ!ボニアス君を雇って指示を出しているのも、にゃかちゃんね」
「偉いんですね」
猫なのに難しい仕事をしているようだ。にゃからんてぃというらしい2本足で立っている猫は頷くと
「どの疑問点もつまり文文頭なのです。白文文や黒文文と言います。ブンブンの響き以外は大きなチョイスではありません」
また意味不明な事を言ってきた。ナーニャが何か言おうとしたのを女神が手で止めると早口で
「偽スキルで壊れつつあるアン王女の補強をスキルによってしてみろって言ってるわ」
そう訳してきた。
俺が黙っていると、ナーニャが近くの空間を指さし、次の瞬間には、まるで玩具の人形の行進の様に、馬や檻車に乗った小さな人間達が床に停止した状態で並んでいた。見下ろすとすぐに、これは教国で今行われているであろう、聖者移送のパレードを模したものらしいと分かる。
上から見下ろしていると、女神が2台並んだ檻車の中にそれぞれ左右の手を伸ばし、跪いて祈っている状態のリースと、スクワットしている状態のアン王女をつまみ上げた。そして俺に差し出してくる。両手を開いて小さな2人を別々の掌で受け取ると、ナーニャが
「リースちゃんはさー。ちょっとえっちなスキルがレベル上がってるから下げてあげてー」
「どうすれば……」
女神が真顔で
「それ、本物の精神体だからね。そしてナラン君の精神体に直接接触してるわけだから、後は、あなたが願えばいいだけよ」
そして口を閉じてしまった。
ど、どうすれば……オロオロしていると、緑髪の女性が横に現れ
「ナランさん、リースさんはナランの馬、ナランの兎、レベルが6に上がっています。移送によりナランさんとの身体的接触が長期間ないからだと思われます」
「そ、そうなんですか……でもこの間、船で……」
女神は苦笑いしながら
「全然足りないようよ。目を瞑ってあげてるけど、神に祈っているふりして、あなたのことばかり考えてる時間が増えてる」
「……それはもう、相手をするだけなのでは?」
大天使の力で何とかするのは卑怯な気がする。女神は少女の顔で微笑むと
「行ってらっしゃーい」
と言った直後に意識が落ちる。
……
気付くと水が流れ落ち、虹のかかった清潔な滝の見える湖で、一糸纏わず水浴びをしているリースを俺は見つめていた。青空と太陽、そして澄んだ水と空気だ。神聖な光景そのものという表現で多分合ってると思う。リースは振り返ると、嬉しそうにこちらへと水をかき分け近づきながら
「ナラン!来てくれたんだ!」
「ここ、何処?」
「……本物のナランみたい……」
俺に抱きついてくる。
「いや本物なんだけど……何ここ」
リースは気付いた表情で嬉しそうに
「ナラン、ここは私が檻車での移送中に、想像で創った祈りの場所なの。今では目を閉じたらすぐにここに行けるようになったの」
「おお……」
「ナラン!ナラン!会いたかった!御者のナランは何だか違ってて」
リースは勢い良く俺を押し倒してきた。
「やっぱり分かる?」
リースは黙って頷くと、俺の服を脱がし始める。そこからは言葉を忘れ、2人で延々と絡み会っていた。
……
気付いて目を開けると、元の場所に立ったままだった。全員居る。開いた両手の片方からリースは居なくなっている。横に立つ緑髪の女性が
「ナランの馬、ナランの兎のレベルが2まで低下しました」
ナーニャが満足気に
「よろしいー。次は壊れかけているアン王女をスキルで補強しましょー」
と言ってきた。




