混沌粒子
ホールから2階へと伸びる階段を上り、同じような構造のホールへとたどり着くと、その中心部には、ワンピースを着た髪の長い女性らしき人影が揺れていた。大天使ナーニャが
「あーサボってますねーいけませんねー」
そう言いながら少女の姿の女神と近づいて行くので、俺も後を追う。
女性の人影に近づくと、人影は黙ってナーニャを指さした。
「うー……私がナラン君に試練を与えろと。いいけどお」
女神はナーニャの背中を軽く叩き
「豊穣の大天使なんだし、この世界に付いて話してみたら?」
「うむー」
ナーニャはしばらく腕を組んで考えると、俺を振り返り
「ナラン君あのさー。例えばここに木が生えますよね?」
そう言いながら、右腕をサッと上げて床から2メートル程の白樺の木を生やしてしまう。
「でもねー?土も水もなければ、この木は枯れますよね?」
「そ、そうですね」
「でも、この木は枯れてません。それは何ででしょう?」
いきなり問われて戸惑ったが、簡単な質問だと思い直し
「大天使ナーニャさんが生やした直後で栄養があるからです」
ナーニャはニッコリ微笑むと
「違うよー?」
首を横に振ってきた。
だとするなら
「特別な木だからですよね?」
ナーニャは首を横に振り
「違うよー?ナラン君の家の庭木と一緒だよ?」
「……」
余計わからなくなった。もしかして無邪気な顔で凄く難しい質問をされているのか……。女神が焦れた様子で
「ナラン君、ヒントをあげると極小キロノヴァと同じ話よ。あんな変な化学反応は普通は起こらないの」
「変な化学反応?魔法じゃないんですか?」
「そこよ。キロノヴァなんて起こしたらガンマ線バーストって死の光線でこの世界が死滅するのに、それが起こらないってとこよ。そもそもキロノヴァを極小にして起こすこと自体無茶だけど、古代にセイちゃんが何となくやってみたらできたって話だし」
「余計わからなくなくなったんですけど……」
言ってることが意味不明すぎる。
ナーニャは仕方なさそうに
「うむー……ナラン君には不思議かもしれないけど、他の世界には魔法ってないんだよ?」
「そうなんですか?」
ナーニャは頷くと
「スキルやレベルも無いの。物理げんしょー?と化学はんのー?があるだけなんだよー」
女神は不満そうに
「いやナーニャちゃん、この星にも物理現象と化学反応以上のものは実はないのよ?私、そういう話をしているでしょう?」
ナーニャは困った顔になり
「女神様ーあのねー私がーナラン君に話をしてますよ?」
「でもその調子だといつまでも終わらないでしょ?」
2人が見つめ合って黙ってしまったので困っていると、先ほどの大天使クラーゴンが俺の横に現れた。
クラーゴンはため息の後、俺を見て
「大天使ナランちゃん」
ちゃん付けされたのは気になるが
「……はい」
とりあえず頷くと
「この世界には、願いや想いを形に変える特殊な成分が空気に漂い、生き物や大地や海にも染み込んでいます。それを混沌粒子と言います」
「そうなんですか?」
また難しい話か?と身構えていると、クラーゴンはサングラス越しに笑いかけ
「それを自在に操れるから、大天使ナーニャは木を生やせるし、女神様は天地そのものを創造できるわけね」
「おお……」
凄い大事な話があっさり分かった気がする。
クラーゴンはニヒルに笑うと
「混沌粒子によって、あなた達はスキルや魔法も使えるのよ、例えば火の魔法なら」
クラーゴンは自らの指先に火を灯し
「あなたにわかり易く話すと、空気に混沌粒子が介入して火を起こすわけね」
そして火を消すと
「スキルというのは、もう少し複雑で、脳や身体に混沌粒子が直接介入することによって起こる変化や能力の事なのよ」
「おお……つまり、願いを形に変える力みたいなのがそこら中にあって、それが魔法やスキルとして俺達に影響を与えているんですね!」
クラーゴンはパチパチと拍手をしながら消えた。
ナーニャは何とも言えない顔で、自らの作り出した木を、女神が宙に出現させた渦に吸い込ませると
「ナラン君のお家に移動させたからねえ」
そう言った後
「うむー。クラーゴンさんがまとめてくれただけだけど、ま、ナラン君が理解したみたいだからいっかあ」
そう言うと、階段へと歩き始めた。もう女神は階段を上り始めている。俺も付いていく。




