そこにいましたかあ
大天使ナーニャに手を引かれ、屋敷から出て、俺は唖然として敷地外の景色を見上げてしまう。鬱蒼とした森の遥か上空に虹色の膜に包まれた巨大な空中都市が浮いている。暗闇は欠片も無く、ナーニャは俺と手を繋いだまま、青空へと浮き上がっていく。
俺も慌てて天使の翼を出して羽ばたくと、大天使ナーニャは泳ぐように並走飛行してきて
「スピードを上げようかー」
そう言った直後、上空の空中都市へ、かっ飛んで行った。羽根を必死に羽ばたかせ付いていく。
空中都市に近づくと、都市の下層にくっついた半透明な下水道が見えてきて、やはり亜空間層のジン・スカイストリートだと分かる。都市の中心部には現実世界では破壊されたマリオンヌキャッスルも健在だ。
ナーニャはマリオンヌキャッスルの明け放たれた城門前に降り立つと、そびえ立つ城を見上げ
「うむー……そこにいましたかあ……」
次の瞬間には横にエプロン姿の女神が出現し
「とうとう見つかった!?行く行く!」
嬉しそうに城へ走って行こうとして、ナーニャから肩を掴まれて止められた。
「女神様ー……おと……じゃなくてあの御方はナラン君を待っているのですよー?」
「うう……そうよね。同行しても?」
ナーニャは頷くと、俺の手を引いてマリオンヌキャッスルへと入って行った。
城内一階の大ホールの中心には、髪の毛を短く刈り上げ、無精ひげを生やした彫りの深い顔にサングラスをかけ、灰色のジャケットを着た長身の男が立っていた。ナーニャは真面目な表情で頷くと、俺の手を引いたまま彼の近くまで寄っていき
「大天使クラーゴンさん!」
声を書ける。彼はサングラス越しに俺をしばらく見下ろすと、なんとも言えない顔で女神を見て
「で、この子でいいわけ?」
女神は黙って頷いて距離を取った。ナーニャも離れると男は真顔で
「話は聞いているわ。私は闘いを司る大天使クラーゴン。聖書でちょっとは知っているでしょう?」
確か、大天使セイの次に苛烈な大天使だ。勇者を導く正義の大天使でもあったはずだ。
俺が大天使クラーゴンに頷くと彼はフッと力を抜き、微笑みながら
「大天使ナランよ。あなたは、女神により大天使に任命されましたが、真に支配者となるためには、この城の主に認められないといけないのです」
「……初耳なんですけど……」
思わずそう言ってしまうと、クラーゴンは余裕のある表情と低い深みのある声で
「主の居る最上階にたどり着くまでに、我々大天使が直々に、スキルの入れ替えや戦闘技術なんかを鍛えてあげるってことね。じゃ、始めましょうか」
大天使クラーゴンがそう言って腰を落とすと、信じられない様な殺気が漏れ出し、俺は気絶しそうになる。




