整地
椅子に座り、呆然と御者席に居る満面の笑みの俺を見つめる。変な感じだ。俺が俺を追い出したのか……。そうだ、心の本を読みに行こう。何か、身体に戻るためのヒントがあるかもしれない。
立ち上がり、部屋から出ていこうとすると
「なっ……ナラン……」
背後からサナーの声がする。振り返ると相変わらず髪型などが整った黒装束姿のサナーが頬を染めながら立っていた。その姿を見た瞬間に俺の手足や身体が薄くなり、慌てた顔の大天使セイがサナーの真横に出現すると
「女神ー!いい加減にしろー!」
そう叫んでサナーを抱きかかえ消え失せた。2人が消えると俺の身体が元に戻る。何だったんだよ……。などと思いながら、廊下へと出ていき、そして階段へ向け、歩いていく。
一階へと降り、エシュリキアコーライ達で溢れる中庭の回廊を進んでいくと、シャツとジーンズを着た大天使ナーニャが近づいて来て
「ナラン君ごめんねー」
人の良さそうな顔と綺麗な金髪を下げながら謝られる。
「いや、良く分かってなくて」
ナーニャは複雑な表情で
「私がさー、隣に居るから、消えることはないよ?」
「さっき薄れたのは消えかけてたんですかね?」
ナーニャは黙って頷くと俺の手を取り
「ここに接続された暗黒地帯の亜空間層があるでしょー?あれってさー上の方にジン・スカイストリートもあるんだよー」
「そうなんですか?」
「そうそう。でさー付いて来てー」
ナーニャは俺の手を握った。
2人で屋敷から出て、前庭を歩いて門の前まで行く。相変わらず門の向こうは夜で、こちらは真昼の異様な光景だ。ナーニャはニッコリ微笑みながら
「もう、現実の暗黒地帯はありませんよー。だからねーこっちも明るくていいんだよ?」
俺に問いかけてくる。
「確かに」
スンナリ納得してしまうと、閉じていた門が「ギギギ……」と音を立てながらひとりでに開いていき、同時に目前の暗黒地帯の闇が薄れていく。
背後から
「よっしゃー!ナランさんやっと開拓始めたんやなー!」
騒がしい声がして、白いローブを着たピンク髪の少女が走って来た。確か暗黒地帯で討伐した神聖生物レベル2の生き物が変化した姿だ。数十人のエシュリキアコーライの子供たちも引き連れている。全員同じローブを着ているのが面白い。少女は門の手前で立ち止まり、ニカッと笑うと
「お前ら行くでー!」
子供達を引き連れ、明るくなっていく森へと駆けて行った。唖然としていると更に背後から
「待ってー!」
「新しいアソビバだー!」
「ひゃっほー!」
などと大歓声を上げながら無数のエシュリキアコーライの子供達が開いた門の外へと次々に駆け出して行き始めた。
ナーニャは途切れずに駆けて行く子供達に微笑みながら
「よしよし、ちょっと整地されるまで待つ間ー。心の本を見に行こうかー」
俺の手を引いて屋敷内へと戻っていく。
地下室へと降り、心の本棚の前にたどり着くと、モノラースが近くの壁に寄りかかり腕を組み、考え事をしているような表情で床を見つめていた。こちらに気付くと
「ナラン、大丈夫か?」
心底心配している表情で尋ねてくる。
「……どうだろうか……良く分からない」
そう答えた俺を、ナーニャは本棚の前の椅子に座らせると
「セイさーん、心と身体のずれ、持って来てー」
そう言った。




