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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
高位存在による介入の損失計算と立て直し

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誰も入ってない

 連結された2台の檻車、そして皮の補助具で身体全体が固定された2頭の馬を纏めて両手にぶら下げ、天使の羽根で羽ばたく俺は、自分でも驚くような速度で海上を飛んで行く。左右を行き交う大小の船舟から歓声が次々に上がり、指笛が吹き鳴らされているのが聞こえるが、落とさないように必死なので見ている暇は無い。


 港がはっきりと見えてくると、待ち構えていたように歓声を上げる大観衆の中、ポッカリと檻車と馬2台がちょうど入るような空白地帯を見つけたので、そこ目掛けて一気に着地していく。急がないと無理な姿勢で固定された馬達が保たない。


 どうにか周囲の人々に当たらず檻車と馬を着地させると、目の前には正装したウィズ国王とミャーマが立っていて、周囲は黄金の鎧を着た屈強なウィズ王国の近衛兵達でグルっと囲まれていた。長身の国王は着地して、羽根を背中に戻していく俺を満足気に見つめ

「大天使ナランよ。我が姪とアン王女の移送ご苦労。さあ、都へと共に向かおうではないか!!」

よく通る声で周囲へと宣言する。大歓声が港中から沸いて同時に俺の意識が薄れていく。



 ……



 目覚めると精神世界のアン王女監視部屋だった。周囲の椅子は誰も座って居らず、檻車内のアン王女は何故か痩せた両足で必死にスクワットをしていた。檻車の御者席にはウィズ国王が自らミャーマと並んで座り、御者を務めている。隣で並走する檻車内ではリースが祈っていて、俺が……いや、これ俺だよな……満面の笑みの俺が御者席に座っていた。


 俺はここに居るのに、現実世界では俺が動いてる……。しばらく呆然とした後、そうか……誰かが入ってるのか……と納得して、少し離れた場所の椅子に座り、不思議な光景を眺めていると、いつの間にか隣の椅子にセーラー服の少女姿の女神が座っていた。


 女神は深く息を吐くと

「ごめん。この未来になる確率は凄く低かったから、考慮してなかった……」

俺の手を取って項垂れる。

「どういうことですか?」

女神は御者席に座る現実世界の俺を見つめ

「あれは、あなたよ。悩みを無理やり捨てて、状況に適応したあなた」

言っている意味が分からないので、しばらく考えた後

「……もしかして、誰も入ってない?」

女神は頷いて

「うん。極限のストレスに耐えられず、二重人格になっちゃった」

直後に「スパーンッ!」と小気味良い音と共に女神の後ろ頭が叩かれ、縦長の厚紙を折り曲げたものを持った大天使セイが立っていた。


 セイは軽く咳払いをすると

「……すまんな女神。セイ様、思わずハリセンでツッコんでしまった」

そう言って呆れた顔で

「なっちゃった。で軽く済まそうとするな。過酷な状況に適応しようとしたナランのメンタルが、本来の人格を精神世界に押し込め、新しい人格に乗っ取らせたってことだぞ?由々しき事態だ」

女神は椅子から服ごと溶けて床へと吸い込まれていった。これを見るのは2度目だ。逃げたらしい。


 空いた椅子にセイが座ると、舌打ちの後、大きく息を吐き

「で、ナランはどうしたいんだ」

「どうもこうも……自分に戻らないと……」

セイは現実世界の満面の笑みの俺を見つめながら

「内面を見つめ返すという手もある。少し、ここから分裂した自分を見つめてみたり、自らの精神世界内を探索してみないか?そちらの方が早道かもしれないぞ」

「それやってる間、俺の身体は大丈夫なんですか?」

セイは頷くと

「セイ様が、リースやローウェル、それから真実を知る者……ミャーマとか言ったか、そいつにも教えといてやる。落ち着いてお前は、自分の心の中を探ってみろ」

そう言うと消えた。

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