真っ直ぐ飛べ
目を開けると綺麗なベッドの上だった。丸窓からは朝日が差してきて、俺は上半身を起こす。サナーの痕跡は一切ない。あいつの匂いも気配もない。大天使セイが清掃してくれたようだが、しかし、あそこまで女神がアホだったとはな……考えてることも、その後に俺にやったことも支離滅裂だし、俺の気持ちより自分のやりたいこと優先だしで……いや、やめよう……。
俺は甲板へと出ていき、朝の光を浴びる。アン王女は逆立ちでユラユラ揺れていて、リースは横たわり、よく寝ていた。その様子を見た後、倉庫で朝食を漁って、再び甲板へと行き、飲み食いしているとローウェルがやって来た。
「サナーちゃんは興奮しすぎておかしくなってるから、女神が例の奇跡によって一時的に連れ去ってるぞ」
俺は黙って頷き、乾パンをかじりながら
「おっさん……女神様って超アホだよな」
ローウェルは爆笑しだし、後ろを向き
「そうだな。アホだ。あんな困った女は居ない」
「女性なのか?変な生き物だろアレ」
ローウェルは背中を見せたまま
「まあ、許してやれ。アレでもこの世界の創造者だ。そろそろ大運河を抜けて、明日には教国に着くぞ」
そう言うと離れていった。
その日は、リースの三度の食事に女神は姿を現さず、大天使2名とリースが豪華なランチやフルコースを食べていた。俺は岸にある町々や、海へと向かい上空を飛ぶ飛行船の編隊などの景色を見つめ一日過ごしたが、どうしても気持ちが収まらなかった。いくらサナーのためとは言え、俺の身体を勝手に操るのは違うんじゃないか?
甲板の欄干に寄りかかり考えていると、河の水から、褌一丁のローウェルが飛び出してきて俺の横に着地すると
「いやー参った。セイちゃんの加護が薄まったらこれだ」
「どうしたんだ?」
ローウェルは欄干にかけてあったバスタオルで筋肉質な身体を拭きながら
「水竜の子が船底を食ってた。追い払って忍術で応急処置をしたが、この船、そのうち沈むぞ」
何でもない様子で言ってくる。驚いて
「何で大天使セイさんの加護が……」
リースと食事もしていたが……ローウェルは軽い調子で
「女神の一斉マイナススキル消去で世界的なバランスが崩れてるからな。その対応に忙しいんだろうよ。こっちには息抜きで来てるだけだな」
そう言うと
「明日の朝まで、もてば良いが、無理だったらお前が檻車2台を持って、天使の羽根で飛べ。後始末は俺がしてやる」
無茶な事を言ってきた。
すぐにローウェルと協力して2台の檻車に船内の荷物を積み込んでおく。そして腹ごしらえもして、いつ船が沈んでも良いように檻車の横でローウェルと交代で寝た。夜の間、船はどうにか沈まず、大運河を抜けて大海原へと出ていく。朝の光の中、遠くに大きな陸地が見えてきた。
ローウェルが風下でタバコを蒸しながら
「あれが大トラアス島だ」
周囲は島へと行き来する多様な船で賑やかになっている。
「船、もったな……」
俺がそう言って安心した瞬間だった。「メキメキ……バキッ……メリハリメリ……」などと嫌な音をさせながら船体がゆっくりと斜めになっていく。ローウェルは落ち着いた様子で
「天使の羽根を出せ、あの島へと真っ直ぐ飛べばカゲミの港町だ」
俺は背中に力を入れ羽根を生やすと、馬が落ちないよう繋がれ連結された2台の檻車上部に飛び乗り、リース側の檻を掴むと大空へと羽ばたいた。




