心と身体のずれ
サナーは俺の手を引いて船室に戻ると
「大天使セイ!見てるなら始めてくれ!」
天井へ向かってそう叫んだ直後には俺の意識は落ちていた。
……
目覚めると心の本棚の前に立っていた。近くでは大天使セイが古びた椅子に座っていて
「まあ、座れ」
俺もすぐ近くの椅子に座ると、セイは申し訳なさそうに
「ナラン、セイ様は嘘が嫌いだ。なので本当の事を言わせて貰う」
「本当の事?」
セイは頷くと真顔で
「今、ノヴェナがお前の身体を操って、サナーと子作りをしている。女神の指示で魔法生物は使わないことになった」
「……」
俺はその場で項垂れた。それはキツい。騙されたってことだ。セイは申し訳なさそうに
「ノヴェナであることはサナーに明かしているので、サナーもお前ではないことは理解している」
「あの、俺の身体ですよね?」
セイは薄暗い天井を見上げ
「そうだ。我々、他人が勝手に操るのはおかしい。しかし、女神がサナーを哀れんで、この決定を下した。あと子種をワープさせる手間が面倒になったようだ」
「……女神様ってアホですよね?」
もうはっきり言ってしまう。あんなのと本当に聖書で伝わる創成期から付き合ってきたならば、大天使達は偉いと思う。
セイはウンザリした様子で
「そうだ。アホだ。凄い力を持っているが、どうしても今一、他者の心が分からないんだ」
あっさり認めてしまい、俺はまた項垂れる。
「……俺、大天使になるの辞めます」
セイは頷いて
「その気持ちはセイ様すごく良く分かるが、一度なってしまったら普通の人間には戻れないんだ……」
もはや絶望しかない。アホの女神に囚えられた気分だ。セイは同情した様子で
「……サナーのことはなかったことにして、忘れろ。セイ様がサナーの体液や痕跡が一切、お前の身体内に残らないように清掃しといてやる」
「すいませんが、宜しくお願いします」
心の本棚の下段にいつの間にか、瘴気を放つ黒い表紙の本が出現していた。近づいてしゃがみ込み、手に取ると、赤く発光した文字のタイトルで
「心と身体のずれ」
と書かれていた。
セイは大きく息を吐くと立ち上がり
「お前自身の苦しみを表した心の本だ。無理をし続けさせてしまったからな」
俺の横にしゃがみ
「開いてみろ」
恐る恐る開いていく。
……
次の瞬間に俺は本を閉じていた。セイが同情した表情で
「あまりに醜悪だったので、記憶が飛んだな。かなりの時間、セイ様と読んでいたんだぞ?」
そう言うと、俺の手から瘴気を発する本を取り去り
「これは、セイ様が処分しておく」
その場から消えた。急に気が楽になり、同時に意識が落ちる。




