船旅
その後も、大カエルの群れが襲撃してきそうで横切って行ったり、山賊が襲撃してきたが直後に通りかかった騎士団に追い払われたり、寄った街では豪華な昼食を奢られたりと、楽な道中が続いた。そして海まで伸びる大運河の起点の港街へとたどり着く。
人々で賑わう街中を当たらない泥を時折投げつけながら進んで行く。どうやら、この港街の人々は仕事で忙しいらしく、俺達の檻車を見かけても、少し祈る程度で泥すら殆ど投げつけて来ない。見たところ商人や旅行者が大半の様だ。港へと向かう、傭兵団らしき武装した集団も複数見かける。
大小の船がズラッと停泊している港へとたどり着くと、前方の檻車は迷わず港奥へと進み始めた。分厚い木製タラップがかけられた帆の無い中型魔法船へと近づいて行く。当然俺も馬の手綱を握りながら檻車を進ませ、そしてタラップを上がり、船の上へと乗せていく。タラップの手前には王国兵らしき警備の重装歩兵が2名立っていたが、気付くといつの間にか居なくなっていた。
ローウェルは船内に入れた檻車から降りると、分厚く重いタラップを一人であっさり甲板に引き上げ折り畳み始めた。サナーも慣れた手つきで、素早く2台の檻車を甲板に固定して、馬に飼葉と水を与え始める。俺も降りて何か手伝おうとするが、2人の動きの無駄が無く、邪魔をしそうなので黙って檻車内のアン王女とリースの様子を見ることにする。
髪型も服も荒れ果てたアン王女は仰向けで寝転び、ブツブツと空ヘと向かって何か祈っている。リースは静かに座り両目を閉じている。相変わらず対照的だが……とりあえず2人共、無事で良かった……と思っていると、いつの間にか甲板後部の一段高い位置にある操舵輪後方へ立ったローウェルが
「よーし!サナーちゃん碇を上げろー!」
船内からサナーの声が
「上げたー!」
同時に魔法船はゆっくりと他の船を避けながら湾内を進み始め、船が行き交う流れの穏やかな大運河の中へと入って行く。
無事に流れに船が乗ったのでホッとして、向こう岸が辛うじて見える大運河を眺めることにする。驚いたのは運河を逆さに上っている船が割と多いということだ。それらは殆ど、この船と同じ魔力を原動力とする魔法船だが、中には水面から顔をのぞかせている巨大な水竜が引っ張っている大きな遊覧船や、カヌーの様な細い船体に縦並びで乗ったゴリマッチョ達が笑顔でオールを漕いで逆走している意味不明なものまである。
世界って広いな……わけわからんな……そう思いながら眺めていると、ローウェルが横に来て
「自動操船に切り替えてきた。後は休憩タイムだ」
「……おっさん、世界って広いな」
ローウェルは苦笑いしながら
「金持ちも貧乏人も、生真面目も変態も大量にいるぞ。ここから教国へは3日ってとこだ。あと……」
ローウェルは青空を仰ぎながら
「セイちゃんに、教国に着くまで何も起こらない様に頼んでいる。港から静かだっただろ?お前も船旅を楽しめ」
そう言うと、風下まで歩いて行き煙草に火を点け吸い始めた。とりあえず信用して肩の力を抜くことにする。




