プラススキル換算で
マリオンヌは触手を伸ばした先の床から滲み出てきた虹色の水を慣れた手つきでコネて、宙で浮かぶ球体にするとクルクルと回し
「これがナラン君が、さっきまで居たヒリュウ民主主義共和国」
ピタッと停めて、一点を指差し言ってくる。セイは頷いて
「この地域から10人分の合計レベル83のマイナススキルが消えたわけだが、当然その分歪みが出る」
「よくわかりませんがどうしたら……」
マリオンヌはニヤリと笑って
「別の地域や別の人に押し付けるって手がある」
セイは自嘲した感じで両手を広げ
「ヘコムは、プラススキル換算で数億人分の凄まじいマイナススキルを持って生まれ、そして暗黒地帯に隔離されたジン・スカイストリート内で、長寿のヒト達の生命力を吸い取りながら五十年全く歳を取らず生きたよな?」
「そ、そうですね……」
セイは後ろを向くと
「もちろん前管理者のシーネのやったことなんだが、あれを我々大天使や女神が黙認していたのは何故だと思う?」
恐ろしい想像が浮かんでしまって黙り込んでいるとマリオンヌが
「ナラン君が今考えている通り、ヘコムにマイナススキルを押し付けて暗黒地帯を閉鎖して、彼がそこで生き続ければ、新規で迷い込んだその他の生き物も含め、暗黒地帯に世界のマイナススキル部分を無限に押し付け続けることができる」
セイは後ろを向いたまま
「つまり、暗黒地帯はシーネの惑星管理者としての一つの結論だったわけだ。世界の不幸を一個所の不毛な地に凝縮して押し付ければ、他をその分幸せにできる」
そこで俺は慌てて
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんなことをしないといけないほど、マイナススキルってヤバいんですか?」
マリオンヌは触手で、宙に浮いた球体に、大きな渦を創り
「世界のスキル均整が崩れると、混沌の蓋が開いて、この惑星そのもの……今のナラン君にわかり易く言うとこの世界が混沌に呑み込まれる」
セイは大きく息を吐くとこちらを向いて
「こないだヘコムに同情した女神のアホが勢いでプラススキル換算で十億人分の重度マイナススキルを消したから、セイ様は、それを頑張って世界中に振り分けたんだが……まあ……そのことは追々話す……とにかく」
セイはダルそうに
「お前がさっき消した計83レベルのマイナススキルをどうするか考えてくれ」
また言ってきた。
マリオンヌは球体から渦を消すと
「調子に乗ってる生き物に罰として背負わせるってのが、解決方法としては一番楽だね」
セイは頷いて
「例えば、お前が今見てきたニャンギエフに、セイ様が代理で83レベル分のマイナススキルをくっつけて来ても良い」
「あの……その場合、どんな、マイナススキルがニャンギエフさんに……」
セイは宙を見て少し考え
「合計83レベルの軽度マイナススキルだと、プラススキル換算で12万人分だから……だとすると……そうだなあ……例えば1つのマイナススキルに纏めると……」
セイが自ら言いたくなさそうにマリオンヌを見つめる。
マリオンヌはニヤリと笑って
「正気の喪失、幻影との戯れ、不幸の連鎖、自己否定の暗闇、灰色の楼閣、逆さに突き刺さる魔力、筋力の反転、半身の悪霊……こんなもんかなあ……」
俺は思わず
「全部怖い感じなんですけど!」
今身体があったらマイナススキル名だけで震えが止まらなくなりそうだ。セイは腕を組んで頷くと
「ナランのフィーリングで選べ。全部ヤバいから」
マリオンヌは今言ったマイナススキルを虹色の水の文字にして、俺の前にズラッと浮かべてくる。
目の前に浮いたマイナススキル名の文字列に唖然とする。1つでも付いていたら人生ガラッと変わりそうだ。とりあえず
「この中で、例えば付けられたニャンギエフさんだけが不幸になるスキルは……」
リースの周辺の話を聞いていると、マイナススキルによっては周囲が大変なことになるらしい。セイはマリオンヌと目を合わせ
「自己否定の暗闇と灰色の楼閣だな。前者は何もできなくなる。夢の中でさえ強烈に自己否定し続けるんだ。後者は全ての目論見が最終的には何一つ上手くいかなくなる。セイ様が調子に乗った権力者によく付けるやつだ」
少し落ち着いた。制裁用のマイナススキルがあるならそれでいけば……マリオンヌがニヤニヤ笑いながら
「そんな簡単なものでもないけどねえ」
含みがある言い方をしてきてビビるが、もうこれ以上怖い話を聞きたくないので
「セイさん、灰色の楼閣をニャンギエフさんに付けてきてください」
セイは黙って頷くとその場から消えた。同時に俺の意識が落ちる。
……
遠くから叫び声が聞こえる。リース?
「ナランー!ダメー!ダメだってー!」
目を開けると、俺は焚き火の近くでサナーを押し倒していた。頬を染めたサナーが涙目と潤んだ唇を動かし
「いっ、いいぞ……ナランなら野外でも」
一瞬固まった後に
「……サナー……これ、なんなんだ?何でお前を押し倒して……」
サナーは唖然とした顔をした後、全力で俺の
右頬を引っ叩き、俺は左側に吹っ飛んで行く。近くの寝袋で寝ていたローウェルが爆笑しながらスルリと出てきて、激怒しているサナーを素早く羽交い締めにすると
「サナーちゃん!今まで歯が浮くような愛の言葉で口説いてたのはナランじゃないぞ」
「……えっ」
サナーは愕然として殺気を消した。俺は何が何だか分からないので、とりあえず檻車の中でホッとした様子で座り込んだリースに話を聞こうと近づいていく。




