会社の仕事
山道脇の藪の刈られた広い場所へ檻車を並べて停めマスクと黒頭巾を脱いだローウェルは、御者席から降り
「向こうで焚き火を囲んで話すぞ」
「いや、リースにご飯あげないと」
俺も御者席から降り、素早く後部の荷物から干し肉や乾パン、水を取り出しながら答えると、ローウェルは顔を顰め
「大天使付きの本物の聖者だぞ?食い物の供給なんて必要ねえだろ。お前の分だけ出しとけ。見ろよ」
檻車の中を指差すと、リースはいつの間にか、エプロンを着た少女の姿の女神と、リラックスした大天使セイと、照明もないのに妙に明るい檻車内で座り、暖かい食事を食べていた。
嬉しそうな少女は、湯気が出ている黒い不思議な容器から、白いライスを陶器の容器に入れ
「おつかれさまー。お味噌汁も飲んでねー」
「ありがとうございます」
「セイ様は、そっちのタクワンと梅干しも貰おうか」
「セイちゃん、和食好きよね」
「慣れだな。納豆もいけるぞ」
リースが渡されたスプーンでライスを頬張り
「ナットウとは?」
少女が不思議な匂いがするスープを小さな木製のスープ皿に注ぎながら
「それは美味しいけど、上級者向けね」
セイが不思議なスープを躊躇無く飲みながら
「シーネは食べたんだろ?」
「最近は納豆卵かけご飯に大根を摩り下ろして、醤油を良い塩梅でかけてるわ」
「あいつも真面目だな」
「もう少ししたら偽聖者として教国に出現させるからね。親としては初めてのお休みを楽しませてるって感じ。明日はみんなでお花見に行くのよ」
「……そう言いつつ、偽聖者としての道中の代わりか」
「まあ、あの娘にとっては窮屈で貧弱な人間の身体に入って、空気読みながら毎日過ごすって大変だからね」
殆ど意味が分からない不思議な言葉で会話している檻車内を、俺が呆然と眺めていると、ローウェルから腕を引っ張られ、サナーが素早く起こした焚き火の脇に連れて行かれる。
リース達から目が離せないが、ふと横の悲惨な雰囲気のアン王女の檻車に気付く。アン王女は薄暗い檻の中でクルクル回っていた。サナーがため息を吐いて、2台の檻車を見比べ
「あれ、多分、女神と大天使だろ?偽聖者には飯を振る舞わないのか?」
「いや……二人とも、本気でアン王女には興味ないというか……リースしか見えてないんじゃ……」
見比べているとそうとしか思えない。ローウェルが軽く息を吐くと
「まあ、アン王女には後で俺たちが食事を与えよう。食事前に言っとくが、リース姫にはトイレタイムも必要ないからな。本物の聖者移送ってのはそう言うもんだ」
サナーが俺の横に座りながら
「……あいつマジでなんで偽スキルなんか付けたんだよ……ここまで大変だったんだぞ……ゴブリンの群れには何度も襲われるわ……発情した野犬の群れに追いかけられるわ……気付いたら檻車の中で漏らしてるし……王都で司祭に抱きついて奇声をあげながら腰を振り始めた時は殴ろうかと思った……」
そう言って膝を抱える。
ローウェルは苦笑いしながら、焚き火から煙草に火を点けると少し離れ、反対を向いて吸いながら
「極限状態を通り越してるからな。許してやれよ。今日からリース姫とナランが並走するから、教国までは楽に着く」
いつの間にかローウェルの横に立っていた大天使セイが
「それヒト界産だな。高いだろ?」
ローウェルは気にもせず
「小まめに結界張らないと、偽スキルのマイナス効果で面倒だからな」
セイは軽く笑うとこちらを向き、俺とサナーの横に座ってきた。サナーが真顔でセイに
「大天使セイだよな?おっさんや社長と知り合いなんだろ?」
セイは手元に出現させた長い鉄串に刺した焼き芋を何本も焚き火の中に刺していきながら
「まあ、長いな。それはともかく聖者サナーよ」
「なんだよ」
警戒して俺にくっついてきたサナーに、セイは笑いながら
「お前は天使にならないのか?」
そう言った後、聖者修行後に天使になる予定のリースについて軽く説明してくる。
サナーは膝を抱えたまま考え込んだ後
「そういうズルみたいのは金髪女がやったらいい。私は、人間として生きていく。死んだらナランが天使にしてくれ」
焚き火の炎を見つめながら言った。セイは黙って頷き、俺を見ると
「……教国に着いたら、宗教改革頼む。能力を縛った偽スキル持ちのシーネも現地集合で向かわせるからな」
「……あの……俺には無理でしょ……」
脱力しながら答えると背後からローウェルが
「わが社に大型案件でセイちゃんから仕事が入ってる。俺も教国に入り次第、お前のサポートに回る。改革のアドバイス、邪魔者の排除や、司祭共の不正や犯罪の調査、何でもやるぞ」
サナーが急にやる気になり
「それ!私もやりたい!そういうのしたい」
ローウェルは頷き
「当然、社員として手伝って貰う。ナラン、お前も大天使になったとは言え、わが社の正社員だからな?会社の仕事は真面目にしろよ」
俺は唖然としつつ
「おっさん何なんだよ……大天使セイさんとも知り合いとか……何者なんだよ」
ローウェルは自嘲した笑みを浮かべ、焼けていく芋を見つめながら
「しがない熟女好きの中年だよ」
セイが立ち上がりながら
「まあ、そうだな」
と言うと消えた。サナーが驚いた表情で
「刺していた焼き芋が……二本消えた……」
セイが持っていったらしい。もうわけわからんが、とにかく教国までは頑張って移送しようと思う。




