教国へ
大天使セイは、驚くヘグムマレーに
「超神聖大天使セイ様だ。お前の娘を天使にしようと思う。どうだろうか」
「どっ、どうもこうも……天使になるという……ことは……教国で生涯かけた厳しい修業をした聖者ですら……」
ヘグムマレーをセイはジッと見つめ
「……まあ、そうだな。真面目な大天使セイ様的には、教国で一通りの修行もしてもらいたい。聖者にもなっとくか?セイ様、女神に貸しがありまくるから、女神を今すぐ呼び出せるぞ」
ヘグムマレーは狼狽した様子で
「ちょっ……ちょっと待ってくれんか?今、サーガ共和国からアン王女が教国へと向かっておる。つまり、リースも聖者として教国へと向かうことに……」
セイはダルそうに頷くと
「そっちは大丈夫だ。大天使のナランが檻車の御者をして、しかもリースはガチ聖者だから、道中奇跡しか起きない。更に言うと王都から教国までは短い陸路の後は、ほぼ船一本だ。王直々の護送による飛行船ルートもありだろう。サナーが聖者認定の拒否をしているから、リースが教国との架け橋の代役でも良いんじゃないか?」
「うぬぬ……親として光栄ではあるが……」
ヘグムマレーは俺達を見てくる。
リースが真剣な表情で
「セイ様、天使になればずっとナランと……」
セイは頷くと
「ただ、残念ながら対等ではない。大天使の部下的な位置づけだ。しかし当然、業績次第では大天使に出世することもできる」
リースは決意した表情の後、俺の手を握りしめ
「なります!私、天使になります!」
セイは軽く頷くと
「おーい、女神ー……出てこーい」
面倒くさそうに俺達の背後を見ながら呼んだ。すぐに
「あー……セイちゃん、ちょっと今シーネちゃんにお味噌汁飲ませようとしてたとこで……」
エプロン姿の少女が出てきた。俺達は慌てて振り返る。セイは呆れた顔で
「あのなあ……今さら実家に連れて行って人間として教育しようとしても遅いだろ……」
少女は軽く微笑むと、あっさりリースの金髪の後ろ頭をポンポンと叩き、そして消えた。
セイは軽く息を吐き
「これでリースも聖者だ。我々にも計画がある。聖者のバーゲンセールだとは思わないでくれ。とりあえずヘグムマレー、娘の聖者認定と教国への移送手続きを早くしろ。セイ様は時間を大切にする大天使だ」
そう言って消え失せた。
ヘグムマレーはしばらく固まり
「と、とてつもない……き、奇跡が起こり始めておる……」
そう言って立ち上がると、先ほどエプロン姿の少女が居た所まで神妙な面持ちで近づき、ゆっくり跪き、胸に手を当て
「親愛なる二つ尾の女神様……そして超神聖大天使セイ様……今日の御慈悲を感謝いたします」
そう短く祈り、立ち上がり
「リース、ナラン君、大天使セイ様のお言葉に従おう。悪いが二人とも、10日後にはトラアス教国じゃ」
真面目な顔で言ってきた。
その日のうちにリースは王城で5人の凄腕鑑定士からスキル鑑定され仮の聖者認定を受けると、王城だけではなく王都中が大変な騒ぎになった。翌日昼には王城に詰めかけた王都民達に、国王がバルコニーからヘグムマレーにかけられた拡声魔法で
「我が一族リースは女神様の御慈悲により!女神教の聖者となった!明日にはサーガ共和国から到着した聖者アン・サーガ王女と共に!トラアス教国へと!王都を出立するであろう!」
そう宣言した。
そうなのだ。ローウェルとサナーに護衛されたアン王女の檻車が、長い旅路の果てにとうとう王都までたどり着いてしまった。アン王女一行は、着いたその日に王都の五つの大教会を巡って女神に祈りを捧げていたが、祭壇の蝋燭が全て消えたり、壁の宗教画がアン王女の頭目掛けて落ちて来たり、突然アン王女が卑猥な奇声をあげたりと大変だったらしいとヘグムマレーが教えてくれた。
そして、大天使セイに会ってから2日後の早朝、王城の門前で聖者2人の出立式が始まった……。




