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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
高位存在による介入の損失計算と立て直し

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人間の気持ちが分かるうちに

 目の前の会社の扉が開くと、大天使セイが出てきた。俺を見るなり

「……追わないのか?」

「いや、終わりました」

セイは八重歯を見せて笑い

「シーネも、お前を全然諦めてないぞ。今、女神によってガチガチに幽閉されてるが」

「……マジすか」

セイは大きく息を吐くと

「どうせなら対面で振られろ。もし相手がお前と話もしたくないなら、それ以上は押すな。親切なセイ様が見といてやる」

背後に回り込んで俺の身体を抱くと徐々に明けてきた空へと舞い上がった。


 猛スピードで王都のある方角へとセイは、背中の黒い羽根で羽ばたいて行きながら

「セイ様は恋愛に駆け引きはしないが、そういうやつも多い」

風圧も不思議と感じないが次々に変化していく風景に目が回りそうで黙っていると

「……本当に自分が相手にとって価値があるのか分からなくなって、勝手に離れていくパターンだな」

「……」

「そういう時、更に、離れていく自分を見捨てずに追って欲しいっていう面倒なやつもいるんだ」

……リースはそうなんだろうか。セイは軽く息を吐いて

「セイ様はそういうのは嫌いだ。駆け引きは愛や恋を腐らせる。文句や不満があれば、はっきり言って、通じなければ喧嘩したらいい。それで別れるならその程度の相手だ」

「リースは……俺に会いたいんでしょうか」

「分からん。大天使であるセイ様にとって些末過ぎる話だ。ナランも何れそうなる。だから人間の気持ちが分かるうちに、人間らしいことをしとけ」

地平線の先に王都が見えてきたと思った次の瞬間には王城のバルコニーに着地していた。


 セイはガラス扉を躊躇無く開けて入ると

「おーい!国王!真実を知る者!大天使セイ様と大天使ナランの登場だ!起きろー!」

書斎横の扉に向け大声で呼びかける。すぐに慌てた表情の国王と、寝ぼけた顔のミャーマが出てきた。唖然とする寝間着の国王の横でガウンを羽織ったミャーマが瞬きをしながら

「デュランー、本物だねえ……ナラン様も……大天使に……えっ……大天使様になった……えっ」

驚いた顔で俺を二度見してくる。セイは面倒くさそうに懐から一枚の書類を取り出し、サッとミャーマに手渡すと

「大天使の契約書だ。お前の永続的な保護を約束する。サインも本物だ。教国のアイテム鑑定士に鑑定させろ」

国王がミャーマから渡されると書類を確認しながら

「超神聖大天使セイ……本物なのか?いや、ミャーマが言うなら本物か……」

セイはダルそうに頷いて

「それで血縁の捏造は必要ないだろ。それやるから代わりに、姪のリースの居場所を教えろ。明らかに魔法的な保護下にあるだろ。セイ様にも場所が分からん」

国王は黙って俺を見てくる。微かに迷ったが、すぐに覚悟を決めた。真っすぐ見つめ

「……会わせてください」

国王は天井を見上げ、それから横を向きながら

「叔父さんの屋敷の端にある森に囲まれた小屋の中だ。無理に会おうとはするなよ。混乱してる」

そう聞いた次の瞬間には、セイに抱えられバルコニーに出て、瞬く間に朝日の中、空へと舞い上がり、直後に広大なヘグムマレーの屋敷や敷地内の町を横目にその付近の森へと着地していた。


 セイが黙って森が切開かれた道を歩き出したので付いていくと、すぐに大きめの小屋が見えてきた。セイは舌打ちをして

「アンチアイスフィールド……全属性吸収、気配の消失、超知覚で良いか。凄まじいトラップの数だ」

俺を指さし

「ナランもこれでいけるぞ」

そう言って足早に進み出す。確かに小屋の周囲は殺気が凄まじい。しかし視覚的には俺には分からないので黙って同じルートを付いていくことにする。


 小屋の扉を迂回して横の窓にセイが取り付き、中を眺めながら手招きをするので、横から顔を出し室内を眺めると、ベッドに呆然と座り込んだ寝間着のリースが、死んだ目で口を半開きにして壁を見つめていた。床には着替えや書きかけの手紙が散乱している。セイが

「喋っても、超知覚スキル持ち以外には聞こえないぞ。気配の消失はそういうスキルだ」

「……あの、これ、どう思いますか?」

明らかにいつものリースではない。セイはニヤリと笑って

「……ナランを吹っ切れず、勢いで振ったのを本気で後悔してる顔だ。来て良かったし、危なかったな」

「危ない?」

セイは俺の手を引いて、小屋の裏口へと周りあっさり念力で鍵を開けると、音もなく室内ヘと入り込み

「入れ」

中から促して来る。


 小屋の中に入ると、リースの匂いがした。キッチンは瓶や鍋が洗われて居らず放置されている。セイは苦笑いしながら

「お前が、リースを無視して他の女とハーレムなんかを築いた場合」

「ハーレム?」

「ああ、そうだ。リースはお前を一生忘れられず、死ぬまで惨めに後悔して過ごす。お前がそういうザマァ展開が好きならずっと観察して楽しめるぞ。セイ様はここで引き返すのもありだとは思うが」

そんなのは絶対嫌だ。俺はゆっくりとリースの居る寝室へと向かう。


 寝室へと俺とセイが入ると、リースは寝間着の股に手を伸ばそうとしていた。そして

「ダメ……もうやっちゃダメ……ちゃんとするの……ちゃんと……ナラン……ナラン……なんてことを……私は……」

急に顔を覆って泣き出した。もう見ていられなくなり、駆け寄ろうとするとセイから引き留められ

「本当に良いんだな?もう一度言うが、ここでリースを見捨て、他の女達と楽しむという選択肢もあるぞ?あいつは、自由に目が眩んでお前を振った女だぞ?」

俺はとうとう感情が爆発してしまい

「そんな選択肢あるわけないでしょ!いい加減にしてくださいよ!俺はリースが好きなんですよ!愛してるんだ!」

セイに向けて叫んだ。


 次の瞬間、俺の背後でリースが

「ナラン……!」

黙って俺はリースに近寄り抱きしめる。最初に出てきた言葉は

「ごめん」

リースは黙って俺の胸に顔を埋め

「私こそ」

それだけ言って強く抱きしめ返した。セイの気配は消えていた。


 それからずっと、全て脱ぎ捨て、小屋中で2人で愛を確かめ合い続け、疲れ果てベッドで抱きしめあって眠り、目覚めると、いつの間にか日が沈みかけていた。小屋の扉が叩かれたのでリースと慌てて、ローブを一枚被って着て、揃って出ると、険しい表情のヘグムマレーが立っていた。彼は並んだ俺達を見回すと、安心した表情になり、その場に崩れ落ちた。


 2人で肩を貸し、リビングの椅子に座らせると

「いや……国王から事情を聞いて飛んで来たんじゃ……ナラン君、すまんな……親として、事態が急変した娘を守る以外どうにもできんかった」

黙ってリースと寄り添って見つめていると、ヘグムマレーは

「……大天使になったとミャーマさんから聞いた。詳しく聞かせてくれんかね」

と言ってきた。


 ヘグムマレーのテーブル越しに並んで座り、今までの事情を説明し終えると、リースは俺に肩を抱かれながら涙を流し、ヘグムマレーは珍しく呆然とした表情で

「なんと……女神に選ばれたのか……シーネさんも女神の子じゃと……」

黙って頷くと、リースがポツリと

「あの……ナラン、私、やっぱり……」

自信無さげに俯くので、強く抱きしめ

「もう離しません。絶対に」

俺はヘグムマレーに向かってはっきりと言い切った。いつの間にか彼の横にはセイが座っていて

「リース、天使になるか?」

仕方なさげにそう言ってくる。

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