あのねー神聖生物ってねー
外へ出ると、薄暗い山林の向こうに荒れ果てた広大で異様な城塞が見えた。城壁は無惨に崩れ果て、城郭の広いバルコニー端にはゴブリンによく似た姿のひび割れた巨大石像が座り、北の空を見上げている。その視線の先には微かに虹色の膜らしきものが見えた。
「女神様……あのデカい石像、ジン・スカイストリートを見上げてますよね」
「うん。あいつが神聖生物レベル10のドロール・ノアンガだからね」
「えっ……」
山林を足早に歩き出した女に手を引かれ戸惑っていると
「ちゃちゃっとやるって言ったでしょ?この子達があいつから一番近いから、身体を借りたのよ」
俺は城に座っている巨大石像をもう一度見る。多分高さ十五メートルはあるよな……あんなの動いたら大変だと思うが……。
女は歩きながら
「大丈夫、奇襲するし、ナラン君は目から閃光、私は殴りまくるから30秒で終わるわ。その後はナラン君の精神世界から亜空間層に向かって、そっちにいるドロールも倒しましょう」
「どっちにもいるんですか!?」
女は頷くと
「もう飛ぶか。この子にも天使の羽根追加っと」
そう言った直後にメキメキと背中から真っ白な翼が生えてきて
「ナラン君も、はよ」
俺を見つめてくる。よく分からないが、羽根を生やせと言うことだろうか?と思った瞬間に背中から羽根が生えてきて、女から手を取られたまま俺は舞い上がっていた。
城を見下ろせる高さで停止した女は横で羽ばたきながら巨大石像を見つめ
「ナラン君、あいつ見ながら目に力入れてね」
言われた通りすると、視界が真っ白になり、次の瞬間には
「ビーッ!!」
という異様な大きな音と共に俺の両目から白い閃光が放たれ、ひび割れた巨大石像の胸辺りに直撃し、大爆発した。ゆっくりとこちらを向いてきた石像に向け
「ひゃっほー!神罰だあああああ!」
女は羽ばたきながら突っ込んでいき、そのまま巨大石像の頭に取り付くと超高速で殴って蹴りまくり破壊し始めた。
俺も少し離れた位置から、巨大石像の下半身辺りを見つめ魔法光線を連発する。巨大石像の身体がこちらを向いた時には既に頭は破壊され尽くし欠片も無く、右腕に取り付いた女が二の腕から先を超高速パンチとキックで切断しているところだった。女に当たらないよう更に光線を連発していると巨大石像の下半身が崩れ、残った全体が下へと落下していき、叩きつけられると四散して動かなくなった。
汗だくの女がこちらへと羽ばたいてくるとスッキリした顔で
「神罰執行完了よ!」
俺の背中をポンッと叩いて、そのまま直下の林へと手を引っ張り降ろしていく。そして
「はいこの2人用済みー!追加スキル全削除!協力のお礼で、ささやかな幸運、のスキルを2人には付けといてあげるわ!グッドラック!」
そう言ってニカッと笑うと、俺は目の前の景色が薄れていく。
……
アン王女監視部屋で目覚めた。アン王女はまだ祈っているらしくブツブツと背後から何か聞こえる。椅子に座った女神は少女の身体をサッと立ち上がらせると緑髪の女性を指差し
「南部のマッピング終えたなら、亜空間層の接続!はよ!」
緑髪の女性は落ち着いた様子で頷き
「完了しています。というより向こうからハッキングがありましたので、侵入路を取り込んで強制接続しました」
「よろしい。セイちゃんはここで監視!ナーニャちゃん付いて来て!」
ナーニャは眠そうに立ち上がり
「そろそろお家帰りたいけどお……」
「現実世界基準で十分で仕上げるから手伝って!」
女神はそう言うと、窓を開け俺に
「飛ぶわ!翼出るからね!」
というと背中から光の翼を生やし窓から飛び去って行った。ナーニャは俺の手を取ると
「行こうかー」
やる気なくふわふわと浮き上がり、窓から飛んでいく。
昼間の屋敷敷地内から接続された暗黒地帯東部地域の亜空間層へと、翼が自然に出てきて羽ばたく俺と並び、ナーニャはふわふわ飛びながら
「ナラン君はさー。どんな家庭を持ちたいのー?」
「……どうっすかねえ」
「私はねえ……ま、いっかあ。ところでさあ、学校って好きだったー?」
「一応、行ってましたけど、馬鹿にされまくって楽しくはなかったです」
「あー……私はさあ……不登校?っていうのでー。まあ、学校って大変ですよねえ」
「大天使様も学校に?」
ナーニャはしばらく無言で飛ぶと
「……偉大なる大天使ナーニャのねえ」
「はい」
「ちょっとしたジョークだよー」
取り繕う様にニカッと笑った。明らかに何かありそうだが、女神と大天使2名は逆らうと怖い気がするので俺も愛想笑いしておく。
薄暗い東部地方をしばらくプカプカ飛んでいると超高速で光の翼を羽ばたかせ女神がこちらへと飛んで来て不満げに
「遅くない?」
「うむー行きましょうかーナラン君速度を上げましょー」
俺が頷こうとした瞬間、辺りの景色が歪むほどの速度で何処かへとナーニャから引っ張られていき、気付くと、先ほど現実世界で見たのと全く同じ廃墟の広いバルコニーの上に着地していた。
腕を組んで仁王立ちしている女神の足元には、先ほどの巨大石像そっくりなグリーンゴブリンが真面目な顔で正座していた。
「ドロールちゃん、お久しぶり!女神です!」
勢い良く挨拶した女神にグリーンゴブリンは力なく頷く。
「娘が御迷惑かけたので、駆除対象じゃないわ。で、この子が新しい惑星管理者で大天使のナラン君」
女神が俺を見るとグリーンゴブリンは情けない顔で
「あの……私、ゴブリンキングダムに戻りたいんですけど……あそこなら御神体が山程あるし……あんなデカい物理体で、無理やり信仰心を吸収しなくても……」
よく分からないので首を傾げるとナーニャが
「あのねー神聖生物ってねーみんな神様なんだよー」
更に分からなくなったので女神を見るとケラケラ笑ったあと
「女神教以外の宗教神が具現化したのが神聖生物なのよ。廃れた神はメンタルが荒廃して暴走するの。何体か倒したでしょ?」
「ああ……そういう……って!俺、リブラーと神様殺してたんですか!?」
女神は事もなげに頷き
「まあ、気にしないで、それも自然の循環だから。で、惑星管理者としてドロールちゃんをゴブリンの里に戻しますか!?」
勢い良く聞いてきた女神の後ろのグリーンゴブリンは必死に俺に手を合わせている。そんな事をされたら適当には扱えない。
「戻します」
そう言うと、グリーンゴブリンの背後に渦が出現し何処かヘと吸い込まれていった。女神はホッとした様子で
「さ、現実世界の北へ行きますよ!」
俺の両肩を叩いて同時に意識が落ちた。




