絶対いやですー。拒否しますー
暗い森の中をリースの光石を頼りに進んでいく。先頭のシーネはもう姿が見えない。最後尾にアンジェラも居るし、逸れても何とかなるだろうと覚悟しかけた時に森が途切れ、崩れかけた石造りの巨大コロシアムが姿を現した。半分瓦礫に埋もれた入口ではシーネが、その瓦礫の上でピョンピョン飛び跳ねて両腕を振っている。
全員で近づくとシーネは嬉しそうに八重歯を見せ
「ここ、この辺りの守り手の住処ですねえ」
俺に抱きついてキッと睨んだリースの代わりに
「そ、そうなんですか……」
答えると、クルクルと嬉しげに回りながら
「ナランさんに単独で戦ってもらいますねえ。ふふーっ……レッスンスリーですーっ」
リースが怒った声で
「私も共に戦います!」
シーネはピタッと止まり、リースを瓦礫の上から目を細め見下ろすと
「んー……魔法が微塵も使えない、貴族レア上級職のアタッカーが、女神様のご加護を受けたマスタークラスレベル75に何の支援をー?」
リースは唖然として俺を見てくる。後ろ頭をかきながら
「えっと……精神世界でシーネさんが俺に……リブラーみたいにスキルつけてくれて……それから女神様を何か呼び出して……空中から出現した女神様の巨大な指に触れられて聖者になった……」
自分でも言っていてよくわからないが、全て事実なのだから仕方ない。
リースは真っ青な顔で
「まさか……使徒……いや、あり得る……」
よく分からない事を呟くと、崩れ落ちそうになり、どうにか俺に支えられ踏みとどまる。そして、急に上目遣いで申し訳なさそうに笑みを浮かべ
「し、シーネさん……私も聖者に……良ければスキルも……」
シーネは嬉しそうに首を横に振り
「絶対いやですー。拒否しますー……ふふーっ」
絶望的な表情で肩の力が抜けて座り込んだリースの背中を駆け寄ったミヤがしゃがんでさすり
「ナラン、リースちゃんは私に任して、シーネさんと姉貴と行って」
俺は黙って頷く。今はシーネと離した方がいい。どうやらシーネはリースを弄って遊んでいるようだ。王族のリースは生真面目で正直なので、シーネとは相性が悪い。聖者でマスタークラスなんて、疑っても良いような無茶な話をあっさりと信じている。サナーだったら一切信じずにシーネと激しく罵りあっていると思う……。
俺はリースに
「ミヤと休んでいて」
ひと言告げ、入口の瓦礫に昇ると
「シーネさん、中へ行きましょう」
シーネは嬉しげに頷いて
「デート!ですねえ……さあ、行きましょうかあ」
わざわざリースに聞こえるように言った直後、横に音もなくアンジェラが跳躍して着地し
「シーネさん、純朴な若い子をからかうべきではないわ」
「ふふーっ……そういうことにして置きましょうかあ」
リースを振り向くと、横のミヤがこちらを見て頷いてくる。頷き返してシーネとアンジェラと崩れたコロシアム内部へと入って行く。
巨大な闘技場内部は、辛うじて形が残っていて、半ば崩落した観客席に囲まれた中央の直径二百メートルはありそうな円形闘技場の中心には、全身から黒い瘴気を噴き出した、体長50メートル近いレッドドラゴンが丸まって眠っていた。
「……あの」
話が違う。あんなのと1人で闘うのは無理だ。俺はシーネやアンジェラ、ローウェル、ヘグムマレーではない。ドラゴンは魔物のなかで最も強く、大型のものは知能も人間より高い。
足がガタガタと震え出しているとシーネが大きく息を吸い込み
「ソングァーク!お前が欲した彗星剣に選ばれた勇者を連れてきた!」
レッドドラゴンは黄金の両目を見開き、こちらを見て来た。




