偽スキル
気持ち悪いくらいに悟りきった笑みを浮かべたサナーと俺とリース、そして国王とミャーマの5人で王城内の王族専用の食堂に行き、王都の煌めく夜景がよく見える奥の席で食べることになる。
リースとサナーに左右を挟まれ座り、マナーに気を付けつつ食べているとリースが
「先王様が、王専用の食堂を造らなかったのよね」
国王は豪快に食べながら頷いて
「父君は実に名君であらせられた。俺には真似できんな」
会話が途切れ、しばらく黙って食べ続けた後、俺は覚悟を決める。もう正直に話してしまおう。サナーに聖者は無理だ。もう無理をしている姿を見ていられない。どうせダメになるなら早いうちだろう。
「あの、国王様、サナーのことで真剣なご相談が……」
国王が俺を見てきたので
「実は……」
サナーが不信心で、全く二つ尾の女神教を信仰などしていないが、何故か女神に気に入られているという経緯を全て話してしまう。黙って国王は聞いてくれていたが、途中でサナーはリースと共にトイレに行き、結局、話が終わるまで戻って来なかった。
話が終わると沈黙が続き、最初に口を開いたのはミャーマだった。
「デュランー。ミャーマあ、サナーちゃんの事は秘密にしとく方が良いと思うなあ」
国王は腕を組み眉間に皺を寄せ、天井を見上げながらしばらく考え込むと
「……ナラン、こういうのはどうだろうか。俺は聖者サナーの準備ができるまで待つ。もし、聖者サナーの心と身体の準備ができたのならば、俺の手で教国へと連れて行く。勿論、ナランとリース、おじさん、ミャーマも一緒にだ」
俺は思ってもみなかった国王の優しい答えに、立ち上がり床に手と頭を付け
「ありがとうございます!」
人生でこれほど感謝したことはないという程、全力で感謝を現した。国王は慌てて立ち上がり
「頭を上げ、席に戻ってくれ。そうか、それ程に聖者サナーが大切か。血の繋がっていない妹の様な存在とは聞いていたが……」
俺が席に戻ろうとすると何故かミャーマがなんとも言えない表情で唇に手を当て
「サナーちゃん良いなあ……羨ましいなあ」
国王は微笑みながら
「ミャーマには俺が居る」
「うんー。そうだねえ」
俺は席に戻るが、全力で感謝しすぎて、頭がクラクラしている。
直後にリースだけが戻ってきた。
「サナーちゃんは、もう話せる状態では無いので、我が家ヘと馬車で帰らせました」
俺がつい
「……ごめん」
謝ってしまうとリースは首を横に振り
「ナランのせいじゃ無いわ。利用しようとした私が悪かったの。それで、お兄ちゃんは何て?」
温情をかけて貰った内容を話すと、リースはすぐに立ち上がり深く国王へと頭を下げ
「ありがとうございます。サナーちゃんが心配なのでナランと共に、我が家へ戻ります。結婚式については、後日、お父様が戻ったタイミングで日程を話し合わせて下さい」
国王は苦笑いして
「ああ、そうだな。ナラン!腹を割って話し合える日を楽しみにしている!ミャーマに不自由はさせんから安心しろ!」
俺がリースと頭を下げて退出しようとすると呼び止められ
「ミャーマの血縁調査をくれぐれも頼む!」
すっかり忘れていた血縁捏造について釘を刺された。
王城の門内で待っていた馬車に乗り込むと、ケロリとした顔のサナーが干し豆をポリポリ食べながら中で待っていた。馬車が夜の大通りを走り出すと小声で
「……上手くいったな?」
リースはニコッと笑って、国王とサナーの署名が入った結婚許可証を懐から取り出し見せてくる。サナーは大きく息を吐き
「それなあ……まあ、これで、アン王女を遠ざけられるな。ミャーマも国王に押し付けた。とにかく目標は達成だ!」
俺はずっと絶句していて、ようやく口が開けたので
「……お前、本気で心配したんだぞ……」
サナーはニカッと笑い
「トイレに行った時にリースが、ナランなら絶対にサナーちゃんを見捨てない。って言ってくれて、その言葉を聞いたら元気になったんだ!」
「私がもう戻らなくて良いから、馬車で待っててと言ったの」
俺はため息を吐きながら深く項垂れる。もう沢山だ。もう王都に居たくない。ややこしいことにずっと巻き込まれ続けている。結婚許可証はリースの機転で貰えたし、ここらが潮時だろう。
「……帰ろうか……俺達の家へ……」
そう、自然と口から言葉が出ると、リースとサナーは同時に頷いた。
ヘグムマレーの宮殿の庭まで帰ると、飛行船の前で馬車が停められ、グスタフと共にアンジェラが待っていて
「ミヤちゃんはまだスクーリングが終わらないわ。それとヘグムマレーさんから伝言よ」
3人で身構えて聞くと
「……その判断は正しい。飛行船を用意させたから帰りなさい。後は我々、大人がやることじゃ。ミャーマさんも、ルカさんとメイド達も気にせずとも良い」
「お父様……全部分かってたのね」
アンジェラは微笑みながら
「リブラーについて国王に明かしただろうとも言っていたわ」
横で黙っていたグスタフが
「リブラーについては俺もある程度知っているから安心してくれ。それよりも……」
黙ってアンジェラを見る。
「ま、仕方ないわ。空の旅に少し付き合いましょうか」
タラップが伸びてきた飛行船を見つめる。
深夜の王都を飛行船は上昇して行く。そしてフーンタイ州に向け、ゆっくりと飛び始めた。後部の窓際に立ち、3人並んで遠ざかっていく広大な夜景を眺めていると、アンジェラが横に来て
「偽スキルって分かる?」
サナーが頷いて
「本物と似たような効果があるけど、変なマイナス効果があったり、すぐ消えちゃったり、または鑑定師の腕が低くて間違って鑑定されたスキルだろ?」
アンジェラはホッとした顔で
「その通りよ。アン・サーガ王女がね。数日前に”無償の愛をばら撒く花”の加護スキルを獲得したんだけど……」
サナーが持っている二つ尾の女神加護スキルとは別のスキルだ。
「えっ……」
「は?」
「嘘でしょ?」
3人同時に驚いてしまう。また聖者出現なのか……?女神も気まぐれにスキル与え過ぎだろ……。アンジェラは憂うげに
「でもね、我らの国の調査だと、偽スキルの可能性が高いわ。既にサーガ共和国は聖者出現で盛り上がっていて、教国から迎えの使者も出てる」
サナーはガッツポーズをして
「邪魔者は消えた!変な儀式してから教国で何年も修行するんだろ!?知らんけど!」
アンジェラは腕を組み、夜空を見つめながら
「……偽スキルだと、儀式の時点で無事では済まないと思うけど……」
俺は気にはなるが、そこまで親しいわけでもないし、ちょっと休みたいので
「……覚えておきます」
アンジェラは頷くと、グスタフに少しだけ扉を開けて貰い、スルリと夜の空ヘ飛んでいった。もういい、もう何も考えず休みたい……。結婚許可もらうためだけに、大変な目に遭った気がする……。




