超絶宗教修行ロード
着陸した飛行船の扉が開くと、接続されていたタラップからミャーマが駆け上って来て国王へと抱きつこうとして、後ろに居る俺に気付くと、真剣に見比べ始める。俺がオロオロしていると、国王は豪快に笑い
「ほらこれだ!ナラン負けんぞ!」
ミャーマの背中に腕を回し、タラップを下りて行った。黄金の鎧を着た近衛兵や文官達に囲まれて、王城の方へ歩いていく国王の背中を眺めながら隣のリースに
「……余程好きなんだな……」
「そうね……何とかしてあげないと」
サナーが背後から震える声で
「と、トイレ……」
「また!?」
俺とリースは慌てて、整備員の人達にトイレの場所を聞いてサナーを連れて行く。
結局、緊張でサナーは腹を下していたらしく、すぐ近くの王城に俺たちが入るまで1時間程かかった。待っていたメイド達から丁重に、最上階の王の部屋へと案内される。
ノックをしてリースが
「リースとナランとサナーです」
「入って良し」
王の返答で扉を開けると、広い書斎の様な造りの執務室だった。国王は自らの大きなデスクに座り、山積みの書類と向き合い奮闘していた。ミャーマは暇そうに手前のソファに座っている。国王は頭を上げると
「いや……全ての仕事をキャンセルしたり、親征に出たり、すぐ取りやめたりしたものだから、書類がやたら溜まっていてな」
リースが心配そうに
「朝までに終わる?」
「……いや、無理だ……こんな時、おじさんがいれば、すぐに終わるんだが……統治代理を押し付けてしまった」
ミャーマが立ち上がると
「デュランー。ナラン様にやって貰ったらあ……?」
国王はピタリと止まり
「……そ、そうか……いや、しかし……」
本気で悩み始めた。気持ちは分かる。俺がリブラーの力を使って片付けると楽に終わるが、男としてのメンツは丸つぶれだ。リースが仕方なさげに
「お兄ちゃん、隣のリビングにミャーマちゃんと行ってて、わ・た・しがやるわ?」
国王は一瞬唖然とした後に、すぐに真意を理解して、リースでなく俺を見ながら
「すまん、リース、書類を頼むな」
そう言うと、ミャーマと共に寝室へと入って行き、扉を閉めた。
国王が居なくなった瞬間に気配を消していたサナーがソファに倒れ込み
「……も、もうダメだ……死にたい」
物騒な事を言ってきた。確かに妙に静かだったよな……と俺が呆れていると、リースはソファの横にしゃがみ
「サナーちゃん、聖者の試練はこれからよ?…国王に大事にされただけで緊張してるようじゃねえ……」
「うええ……それ、どんな……」
俺がサナーに
「だから、この後、王都の二つ尾の女神教の大司教がお前を正式に迎えに来て、聖者と崇められながら、海を隔てた大きな島にあるトラアス教国に連れて行かれるだろ?」
サナーは涙目で
「それからあ……?」
リースが王族スマイルしながら
「……教皇様とご対面して、聖者認定の大規模な儀式をするのよ?各国の王侯が集まる大聖堂の大広間で、何も着ず、王侯たちから聖水とワインを身体に浴び続けるの。3日程ね。しかも世界中から集まった一流の画家達がその様子を何百枚もの大きな絵画にするの。これを御聖体沐浴行水というのよ」
サナーは絶句して飛び起き
「そ、そ、それやだああ!恥ずかしすぎる!絶対風邪引くし!」
俺とリースは目を合わせ笑いながら
「お前、凄い名誉なことなんだぞ?偉人として認定されて、その儀式の前後には女神教の影響下の国々全域で大きな祭りが催され、戦争が一切止まるんだぞ?凄くないか?」
「そうよ?平和に貢献出来て、歴史に名が残るのよ?私だったら喜んでやるわ。世界中の大きな教会に自分の描かれた、素晴らしい、特大の宗教画が飾られるのよ?」
サナーは項垂れて
「……そんなとんでもない羞恥プレイが終われば……当然、それで解放されるんだよな?」
俺とリースは笑い出してしまう。いくらなんでも無知過ぎだ。
リースは俺にリブラーを使って書類仕事をするように頼み、俺がヘグムマレーの書類を片付けた時のようにリブラーを使って、エシュリキアコーライ達の助けも借りながら高速で処理し始めると
「じゃあ、サナーちゃん、ナランが仕事してる間、詳しくその後の聖者の儀式や生活も教えてあげるわ」
「……聞きたくないけど……頼む」
サナーは項垂れながら頷く。リースは誰でも知っている聖者認定儀式について語り始めた。
3日間の御聖体沐浴行水を終えた聖者は、トラアス教国中心部の、大ルパーソナ山の頂で何も着ずに、何も食べず、二つ尾の女神へと七日間祈りを捧げる。そして、それを終えると、女性聖者は、最初の聖者メアノズメの様に二つ尾の女神の降臨を願い、大聖堂の前にある石碑の前で薄布一枚だけを羽織り3日間踊り続ける。男性聖者の場合は3日間、半裸で石碑に祈りを捧げる。
書類を書きながらチラッと見ると、サナーは唖然とした様子で固まってしまった。リースは微笑みながら
「まだ序の口よ?それにこれは加護スキルの公開確認作業でもあるの。常人には不可能でも最高級の加護スキルを持つ聖者なら、容易くできることなの」
「……」
サナーの目はもはや死んでいるが、リースは構わずに続ける。
聖者は、今度は豊穣の祭りに参加する。これは早朝から起き、古代の聖者達の様に褌一丁で汗をかきながら大聖堂内でパンをこね、蕎麦粉を踏み、そして日が昇ると、大聖堂の前の石碑の前でその格好のまま、暗記した聖書の第五章を読み上げる。これは不作の時代に女神へと豊作を祈った聖者メデルーテの祈りを……。
そこでサナーはソファに再び倒れた。そして
「うう……何でそんな変態特殊プレイを喜んでしてるんだよ……おかしいだろ……パンこね蕎麦踏み謎本暗記褌プレイとか……どんなド変態が考えたんだよ……教国は人の道を外れた極まった変態達の集まりか……」
とんでもなく失礼なことを言ってきた。リースはため息を吐いて
「サナーちゃん、神聖なる聖者に恥ずかしさなどないのよ?神に加護を与えられた聖人よ?」
サナーは震えながら怯え出して
「お前ら全員狂ってる!宗教なんて金儲けの道具だ!」
そう叫んでリースを睨みつけた所で、国王が扉を開けて入ってきて、サナーは瞬時に座り直し、真面目な顔をして黙った。
サナーの魂の叫びを運よく聞いていなかったらしい国王は
「ミャーマは寝室で本に夢中だ」
と言いつつ、俺がやりきった書類の束を、両眼を見開いて確認しながら
「リブラーか……とんでも無いな……書類だけ読むと、まるで俺が名君みたいじゃないか……ううむ……素晴らしい裁定だ……」
突然、リースが真顔で立ち上がると
「デュランお兄ちゃん!いえ!国王陛下!」
「どうした。怖い顔して」
「今こそ!私達の結婚を認めてください!」
国王は一瞬、呆気に取られた顔をすると
「あれ……認めてなかったか?既に王として多くの成果を譲り受け、更にナランを俺の友とするということは、そう言うことだと思っていたが……」
リースは国王に詰め寄り
「ちゃんと書面で認めてください!この場で!」
いつの間にか用意していた書類とペンを国王へと突きつけた。
国王は深呼吸をすると、サナーの横に座り、サラサラとサインをして、リースがサッと渡してきた王の印を押し
「これで良いか?」
リースに渡そうとして思いとどまり、良いことを閃いた顔になると
「聖者サナーよ。よろしければ、この非才な私と連名で姪と友の結婚を祝ってはくれまいか?」
サナーに深く頭を下げ、頼んでしまった。サナーはもはや喜怒哀楽を通り越した、何かを悟った様な穏やかな表情になり
「……はい。素晴らしきお考えですね」
サラサラと国王の下に名前を書くと、リースを見てニコッと笑う。リースは少し涙ぐみながら
「ありがとう……お二人共、一生、忘れません」
輝く王族スマイルで受け取ったが、俺はサナーが何か、二つ尾の女神のとんでもなく巧妙な罠というか……最終的に聖者として強制覚醒させられるような超絶宗教修行ロードに、自然とはめ込まれて行っているのではないかと、なんか滅茶苦茶心配になる……。




