平凡な彼
リースと手を繋ぎ、国王の飛行船へと向かう。ヘグムマレーも付いて来て、人けの無い集落を見回しながら
「後は我々に任せなさい。アンジェラさんも居てくれるからのう」
「……お父様……私、卑怯だったかなあ」
リースがポツリと呟くと、ヘグムマレーは楽しげに
「様々な事を知り体験することを、経験を積む、と言う。経験を積めば打てる手も増えていく。リースはまだ若い」
「……はい。勉強します」
リースは項垂れながら頷いた。
飛行船のタラップの前には、何と腕を組んだ国王自ら待っていて、ニカッと笑いながら
「遅いぞ!さあ、行こう」
筋肉質な腕で手招きしてくる。乗船していた兵士達や文官は、ほぼ降ろされていて周囲で跪いている。ヘグムマレーが呆れた顔で
「王都の中枢をここに置いて行くのですかな?」
国王は悪びれず
「時間が惜しいのだ!ラークイエムで我々が去った後、4番艦フローレラを降下させるので、おじさんが指揮して皆を乗船させてくれ」
ヘグムマレーは大きく息を吐くと
「第七艦ユーキミには駐屯の件は伝達しておりますな?」
「もう飛行兵を向かわせた、そろそろ動くはずだ」
直後に上空では集結していた飛行船団がゆっくりと西方へと移動しだした。ヘグムマレーは納得した様子で
「王よ、娘達を頼みます」
頭を深く下げる。国王は威厳ある態度で
「では、行くとしようか」
タラップを上って行き、俺達も付いていく。
飛行船内へ入ってみて驚いた。広い船内の中心に円卓が置かれ、椅子にはサナーが緊張した面持ちで座っていた。他には一切人は居ない。国王は外から碇とタラップが取り外され、扉が自動で閉まり、飛行船が浮き上がるのを確認すると、何と自ら、横壁を開けて椅子を取り出し始める。慌てて俺とリースも手伝い、全員着席すると国王は船内前方の閉められた扉を見て
「王国軍の飛行船は遠隔で術者の分身であるシャドーバインドが操縦している。会話内容を聞かれる心配はない」
そう前置きして、俺を見つめると
「ナラン、お前は何なのだ?諜報部による情報ではお前の周辺で大きな事件が起きすぎている。村の村長が追放され、宮殿が破壊され、他国へ仲間を救出に行った際には神獣が目撃され、サーガ共和国へ行きある姫に惚れられ、そして二日で暗黒地帯の一部を解放した」
俺が唖然としていると、国王は更に
「まだある。重いマイナススキルに長年苦しんでいたリースを救い、偏屈な我が叔父に気に入られ、我が父と同じスキルを持つミャーマを王都へ送り込み、そうして聖者サナーまでも俺と引き合わせた、お前は何なのだ?」
……こ、これはマズいと固まっているとリースが
「私の婚約者です!」
少し怒った様子で言ってくる。国王は微笑み
「いや、もし責めている様に聞こえたならば済まない。しかし、おじさんは何か知っている様子だった。ナラン、隠している大きな事は無いか?」
こうなるとは全く想像もできなかったので、戸惑いつつ
「国王様、少しお時間を頂けますか?考えを纏めたいのです」
「ああ、王都まで時間はある」
「少し、景色を眺めても宜しいですか?」
「勿論だ。変化した暗黒地帯を見るが良い」
「私もナランの横で見るわ」
俺は立ち上がり、後方へと行き、外の景色を眺める。
夕暮れが照らし始めた暗黒地帯の超巨大ドームは、まるで漆黒のケーキのホールから、四分の一ピースが切り取られたように、東部だけ景色と色が戻っていた。生い茂る森や山々に侵食された大量の廃墟群が見える。朝から忙しくて、ようやくきちんと変化した状況を見られたが、本当に東だけ綺麗に解放されていたんだな……。横のリースに
「……どう思う?」
尋ねると、リースは微笑んで
「綺麗ね」
「だよな。頑張った甲斐があった」
しばらく無言が続き、リースが
「デュランお兄ちゃんは、お父様と比べると、そんな凄い人でも無いけど、悪い人では無いわ。寂しいのかもよ?」
「腹を割って話せる人が居なくて?」
リースは黙って頷いた。
「聞いてみてもいい?」
リースはまた黙って頷く。俺は小さく
「リブラー」
と唱えた。すぐにいつもの声が
国王に我々リブラーの存在明かすかというご質問ですね。問題はありません。彼を観察していましたが、狡猾でも利口でも無く、ただただ実直な人物です。口も堅いでしょう。故に王都では政権運営に手間取っています。宰相であるヘグムマレーさんが高知能で優秀すぎるが故、政治家としては平凡な彼とは話も合っていないようです。
警告!2分後にサナーさんの膀胱が限界に達します!漏らす前に船体横のトイレに連れて行きましょう!
俺は慌てて円卓へ走ると
「あの国王様!トイレはどこでしょうか!?」
「そこの横壁に扉があるが……」
顔を向けると、察したリースが既に扉を開けて待っていた。
「ありがとうございます!」
真っ赤な顔でブルブル震えているサナーを抱え上げ、トイレへと直行する。そして便座に座らせ、後は一緒に入ったリースに任せて扉を閉めた。
謝りながら円卓に戻ると、国王は一瞬噴き出して口を抑えながら
「いっ……いつもこうなのか?」
俺が真顔で
「そうでございます」
答えてしまうと、国王は腹を抱えて爆笑し始めた。そして笑い過ぎた涙目で
「おじさんが信用するわけだな。いや、済まない。聖者がトイレを我慢していたとは思わなかった……」
そこでまた噴き出して、しばらく笑った後、真顔になると
「それで、隠している事は話してくれることにはなったのか?」
俺は頷いて、リブラーについて語り始めた。
俺の話が終わると、驚きを収めた国王は、今度は興味深い表情でリブラーについて俺や席に戻ったリース、時にはサナーにも質問をし続け、俺たちがかなりの内容を答え終わった頃には、飛行船は灯火で光り輝く広大な王都へとゆっくりと降下し始めていた。国王は納得した表情で
「……気に入った!ナラン!俺の特務近衛騎士として王都に屋敷を与えよう!」
そう言った直後にリースが困った顔で
「デュランお兄ちゃん……ナランは我が家の婿養子になるから、両方共、必要ないって」
国王は真面目な顔で
「……友として、支えて欲しいのだ。リースが好きになったのが分かったよ。ナランは優しく、強い。是非、俺の側近になって欲しい」
青い目に見据えられた俺は困り果て
「……あの、すいません。本気で国王様のお力にはなりたいんですけど……皆で相談してからでいいでしょうか……?」
そう言ってしまうと、国王は噴き出して大笑いし始めた。




