亜空間層
サーチ完了。接続テスト開始します。テスト終了。拒絶反応無し、ウイルスチェック通過、ナランさん、サナーさん起きてください。
リブラーの声で起こされる。目を開けると目の前に心の本棚があった。モノラースは居ない。横で寝ていたショートパンツとシャツ姿のサナーの肩を軽く叩くと目を覚まし
「ん……何か気分がいい……」
呪いが身体から出たからかなと思いながら、手を貸して起こす。背後から、いつもの緑髪の女性の声が
「ナランさんが睡眠に入るのを待っていました」
サナーと振り返ると女性はぼやけた顔で微笑み、それぞれの手に石刀スズナと、鞘に入った彗星剣を持っていた。そして石刀を俺に、彗星剣をサナーに渡してくる。
「スキャンしたものです。本物ではありませんが、同等の威力とスキル性能があります」
握ってみて俺は特に変わらないが、サナーは驚いた表情で
「なっ……何か……これ持って死闘を繰り広げてた勇者の力が流れ込んでくる……気がする……」
女性はぼやけた顔で微笑みながら
「石刀の付属スキル効果は、”達人の間合い””古代剣術の極意”ですが……」
彗星剣を見つめると
「そちらは”水神の加護””死線を潜りし者””防御の極意””回避の秘訣””古代剣術の極意””猫の手招き”など付属レアスキルが多いです」
うわー……選択ミスったか。今さら後悔していると隣のサナーが
「猫の手招きって何!?」
「猫の生霊が気まぐれでサポートしてくれるレアスキルです」
「……それ、役に立つのかー?……いや、他のスキルが良さげだから気にしないことにする!」
女性はぼやけた顔で頷いて微笑むと
「ナランさんの精神世界と、このエルブキングス暗黒地帯の亜空間層を接続しました」
「……え?」
何を言っているか分からない。更に
「この東部地帯亜空間層のボスを討伐して頂けないでしょうか?」
サナーが理解した表情で
「たぶん表のボスのドラゴンは倒したから、裏ボスってことだな!?任せろ!」
勝手に承諾してしまった。
女性はぼやけた顔で微笑みながら
「この地下室を出て、ナランさんの家の表口から庭へ出てください。接続先の空間が見えます。そこからは案内役がお手伝いしてくれますよ」
「楽しそう!行こうナラン!」
いつの間にか俺達はいつもの旅装姿になっていて、それぞれの剣を背中と腰に提げていた。サナーは俺の手を握ると、見慣れた地下室を足早に歩き出した。
地下倉庫を階段を登って出ると、相変わらず服を着ていない手足の長い男女のエシュリキアコーライ達で我が家は溢れていた。
「あ、こんにちは」
「お世話になってまーす」
気軽に挨拶をしてくる異種族達にサナーと適当に挨拶返しながら、回廊を通り、玄関ホールまでたどり着くと、青い髪のノヴェナが駆け寄って来た。服装は散歩に行くようなスカートと白シャツに何故かエプロンだ。
「あ、どもども、楽しそうなことしてるなって」
サナーが不思議そうに
「何でエプロン?」
ノヴェナは今気付いた様子で
「あ、現実でお夕飯作ってて、そのイメージが残ってたみたい。今うちで、姉さんが初めてのカレー作ろうと奮闘してる。……ま、要するに追い出されたわけです……はい」
少し恥ずかしそうなノヴェナに俺が
「案内役ですか?」
ノヴェナは笑いながら首を横に振り
「違う違う。私は急遽リブラーに許可貰って来ただけ、お外に居るよー」
軽い調子で俺とサナーをいざなって扉を開け、庭ヘと出て行く。
青空の下、明るい庭の門の先は、薄暗い世界だった。うちの庭の塀や門を境目にはっきりと昼と夜に別れたような異常な状況にサナーと立ちすくんでいると、真っ青に塗った肌が剥きだしの上半身裸のモノラースがこちらヘと歩いてくる。咄嗟に俺の背中に隠れたサナーにモノラースは舌打ちしながら
「……もう俺は、お前らの敵じゃない。そろそろ慣れろ。サナーの手足は返したし、謝罪の証に体重も戻しただろうが……」
「お前が案内役なのか?」
モノラースは呆れた表情で俺を見ると
「俺が出てきたって事はそういうことだ。お前は何時になったら賢くなるんだ?」
ノヴェナがサッと横から出てきて
「モノちゃーん、素直じゃないんだからー。私に、心の本をよく解説してくれてるでしょ?今はフォッカー君を凄く心配してるんだよねー」
モノラースは俺を睨みつけながら
「お前を信奉している仲間を大事にしろ。探すのが筋だろうが」
「う、うん……すまん」
つい謝ってしまった俺の横からノヴェナがモノラースの背中を押し、門の方へと反転させると
「よーし!モノちゃーん!ナラン君、サナーちゃん行くぞー!冒険の始まりだー!」
エプロン姿で散歩に行くような様子で言って、そのまま門の方へとモノラースの背中を押して行く。俺とサナーも恐る恐る付いていく。




