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第20回 博打 (アコナイト視点)

 12月10日、ファイアブランド家の屋敷。


 そのアコナイトに与えられた部屋で、男と女が双六遊びをしている。アコナイトとドロセラだった。


「兄様、もう家中で噂になっているよ。討ち入りの件」


 ドロセラ・ファイアブランドはそう言って、賽筒を手に取った。そのまま、筒を振り、中のサイコロを外に転がす。出てきた数字に従って、彼女は盤上の駒を進めた。彼らの間には、双六盤が置かれている。


「私が投げた石が、思わぬ波紋を広げていますね」


 今度は、彼女と対面するアコナイトが賽筒を手にした。そのまま、中の賽を振る。


「我々の計画は成功しましたが、ここまで効果があるとは思いませんでしたよ。もう、武断派と文治派の分裂は決定的です」


「ファントム様、大笑いしてそう」


「個人的に、ノスレプの事は嫌いですが、私自身は、思想的には王家が貴族達の手綱を握るべきという中央集権派ですから。おおむね、満足する結果に終わりました」


「はは。武断派筆頭の御屋形様がその事聞いたら、また頭を抱えそう」


「政治思想まで親と同一である必要は無いでしょう」


 アコナイトは、出た目の数、駒を進ませた。彼の駒はドロセラの駒を追い越していく。


「……今日はどうも、賽の目の出が悪い。兄様、何か、仕組んでない?」


「別に、乳母妹(めのとまい)相手にイカサマなんてしませんよ」


 不満そうに、ドロセラは賽を振る。出た目は1と2。


 溜息をつきながら駒を進める。最早、勝利は厳しそうだ。


「どうも、最近の私は運が良い。今日もそうですし、あの婚約破棄の事も」


「アホ婿殿、まさか本当にやろうとは」


「雑に博打打っていたら、思わぬ大勝ちをしてしまいました。これで、ひとまず、ソードフィッシュ家の危機は去りました。あの男を義弟と呼ばずに済みました。あとは、今後の事ですが……」


 そう言って、アコナイトは賽を振った。出た目は5と6。運がいいと言うのは、誇張では無い。


「こちらでも勝ち」


「……」


 双六勝負は、アコナイトの圧勝だった。ストレート負けしたドロセラは、少し不満そうにアコナイトをジト目で見る。


「負けた方は、勝った方の頼みを聞く約束だっけ?何をすれば良い?」


「そうですね……少し、厄介事を頼みましょうか」


「なになに? エッチなお願い? 私としては、それも嫌ではないけど」


 ドロセラは、そう言うと、スカートを持ち上げて下着をチラ見せして、アコナイトに色仕掛けをする。が、アコナイトはそれには乗らず、言葉を続けた。


「そういう色っぽい話では無くてですね……」


 そう言っていると、部屋に彼の乳母姉(めのとし)であるピンギキュラが入って来た。


「アコちゃん、ご報告……あー!アコちゃんがドロセラちゃんにいやらしい事しようとしてる!」


 ピンギキュラが見たのは、妹がアコナイトに下着を見せつけている光景である。少し頬を染めてそれを注意した。


「誤解です」


「駄目だよ!抜け駆けは!お姉ちゃんも混ぜてくれなきゃ!」


「あ、止める訳では無いんですね……。とりあえず、落ち着いてください、我が忠勇なる郎党達よ」


 ひとまず、アコナイトは2人を落ち着かせると、今度は、ピンギキュラを双六盤の向かいに座らせた。そのまま、彼女に賽筒を握らせる。


「双六をするの?」


「ええ。この勝ち負けで、今後の私の身の振り方を決めようかと。我が半身たる2人に勝てば、また私は『博打』を打ちます。現在1勝。……あと、ピンギ。もしも私が勝ったら、私の頼みを1つ聞いてくれませんか? ドロセラとも、先程同じく勝負をしていたんですが。貴女にも協力して欲しい事がある」


「……頼みってエッチな事? アコちゃんの頼みなら、こんな回りくどい事しなくとも、何でもしてあげるよ?」


「だから違いますって。もう、この姉妹は……」


 アコナイトとピンギキュラの双六勝負は、一進一退で進んで行く。


「そういえば、貴女は元々報告の為に来たんですね。頼んでおいた、討ち入り計画の調査。どこまで事実でした?」


「先方が詫びて来ない限り、ほぼ確定みたいだね。他の家人何人かに聞いたから、間違いない。戦支度……といっても、数百人から数千人を動員する、いつもに比べたらかなり小規模だけど、それも、もう始まっている」


「ま、公然と婚約破棄と冤罪を吹っ掛けられたら、これ位しないと腹の虫が収まらないでしょうね。クロード様も、家人達も。」


「……御屋形様、アホ婿殿の髪を討ち取ったものには、何でも好きなものを与えるとすら言ってるって。他の家人達も、それを聞いて滅茶苦茶士気が上がってるよ。しかし、黒幕のわりに、随分他人事だね」


「私は、けしかけて、煽りまくっただけですから。最終的に判断して実行に移したのは、ジーン・アリク自身ですし」


 アコナイトは賽を投げる。今度出たのは6が2つ。先程から、高い値ばかり出ている。


「ほら!やっぱりイカサマしてるって!」


「してませんってば」


 そんなこんなで、ピンギキュラは討ち入り計画について、現在分かっている事を話しながら、アコナイトと勝負をした。


 勝負は良い勝負であったが、最終的には、アコナイトが勝利した。


「2勝……」


「……惜しかったね。で、『博打』って何? 私達は何をすれば?まさか、本当にエッチな事しなさいとは言わないでしょ」


「言いませんよ……」


 アコナイトは、不敵に微笑みながら言う。


「この討ち入り作戦、我々も飛び入り参加します」


「……何を言っているの?」


 ピンギキュラは、困惑しつつ、自身の乳母弟を見た。


「実は、こんな指令をファントム様から受けていましてね」


 アコナイトは、貴重品を入れておく金庫から、とある手紙を取り出した。それは、第4王女ファントムからのものだった。


「……これは、ファントム様からのもの?」


「ええ。中身を読んでみてください」


 姉妹2人は、そこに書いてある内容を読んだ。そこには、「討ち入り作戦決行の際には、どさくさに紛れてアリク家に潜入し、かの家の機密資料を奪取せよ」という趣旨の命令があった。


「……討ち入り作戦。すでに、王家にはバレています。まぁ、武断派文治派の対立を更に煽る為に、止める気は無さそうですが」


「それで、逆に渡りに船と、この作戦のどさくさに紛れて、アリク家の機密資料を強奪して来いって命令が、アコちゃんに出たと……」


「流石ピンギ、理解が速い。……初めは断ろうと思ったんです。でも、成功の暁には、それなりの恩賞は用意してくれるそうで」


「その恩賞とは?」


 ドロセラの疑問に、アコナイトは相変わらずの余裕を持った笑みで答えた。


「『紺碧薔薇の魔女』の名誉回復」


「「!?」」


 アコナイトの言葉に、姉妹は驚きの表情を見せた。


「あの事件以来、ニリン殿は、冷酷な破壊者、モンスター、嫉妬に焼かれて身持ちを崩した愚かな女、などと世間からは誹謗中傷の雨あられです。『紺碧薔薇の魔女』は、私にとっては前世。それ以上に、1人の男として、彼女の名誉が地に落ちたままなのは、流石に不憫に思いまして。クロード様と、ローズ様にだって、責任はあるじゃないですか……。それが彼女1人だけのせいにされているというのは、何とも……。それに、親友がその様な呼ばれ方をしている乳母上(ははうえ)の気持ちを考えると、ね」


「あー……」


 自身も、母の心境を思うと、思う所があるのか、ドロセラは複雑な顔をした。


「貴女達には、私に協力していただきたい。私と共に、第3勢力として、討ち入りに付き合ってほしい。……勿論、無理に、とは言いませんが」


 アコナイトは、そう言って頭を下げた。姉妹2人は顔を見合わせる。


「……確かに、混乱の中、資料を強奪するなんて、無謀な『博打』だね」


 ピンギキュラは、そう言いつつ、手紙をアコナイトに手渡した。そして、笑みを浮かべた。


「でも、私達がアコちゃんに協力しない訳無いじゃん」


「だよね……」


 2人は、アコナイトに頭を上げさせた。


「我々、ファイアブランド姉妹が、乳兄弟(ちきょうだい)が手を貸してほしい時に、貸さない訳ないじゃん!私達は、アコナイト・ソードフィッシュの最愛の乳姉妹(ちきょうだい)!」


「そして、最高の忠臣!赤ん坊の頃から、何年の付き合いだと思っているの!水臭いよ!」


「「その命令謹んでお受けするよ!」」


「……っ!ありがとうございます。二人共!」


 アコナイトは、自身が出来る最高の笑みと共に2人に礼を言った。

双六勝負……鎌倉殿の13人……上総介広常粛清……うっ、頭が……!


3人がしてる双六はいわゆる、バックギャモン的なやつ。源平ものの話だと演出でよく出てきますね。


ファイアブランド姉妹はあくまでアコナイトお兄ちゃんの味方です。(大事な事なので、以下略)


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