第19回 報復 (シスル視点)
「シスル、あーん」
「あーん」
僕は義姉、改め、恋人になったクローバーに、ケーキを食べさせられている。彼女は、昨日から、今まで以上に甘えて、甘やかしてくる様になった。僕としては、とても嬉しい。ちなみに、辺境伯様には、帰って来たと同時にいちゃいちゃラブラブしながら報告した。
理不尽な婚約破棄からの、なんやかんやあって、義理の息子と実の娘が付き合い始めたというカオスな状況に、辺境伯様は非常に困惑した様子だった。ひとまず、この話は後、と、この関係を正式なものにするかは一時保留になっている。
「ふぅ、ご馳走さま。美味しかったよ」
「はい、お粗末様です。じゃあ、次は私の番だね」
「うん!口を開けて!」
目を輝かせながら、口を開けて待っているクローバー。可愛い。
「クローバー、愛しているよ」
そう言って、彼女にキスをした。クローバーは顔を真っ赤にして俯いている。
「私も、大好きだよ。シスル」
そう言うと、クローバーは僕の首元に抱きついて、また唇を合わせてきた。今度は、舌を絡めてくるディープな奴だ。
「……」
そんなバカップルぶりを発揮する僕達を、ヘリオトロープさんは冷めた眼で見つめてくる。
「あの、いや、別に良いんですよ。四六時中イチャついても。でも、さすがに人前ではさあ……」
僕達は昨日からずっとこんな感じだ。およそ10年ごしの恋が叶ったのだ。仕方がないじゃないか。
「それにしても、弟様がそこまでベタ惚れするとは思いませんでしたよ。なんだかんだで冷静なクール系なイメージがあったんですが。……いえ、今更ですね。以前、我がアルバコア家が乳母に選ばれて、お二人と初めてお会いしたときも、弟様は赤ん坊の頃から、クローバー様にべったりでしたしね……」
「お互い昔から好きだったんだもの」
クローバーが頬を染める。可愛い可愛い可愛い。
「そうですか……。まぁ、幸せそうで何よりですよ。それで、そろそろ、お話を進めさせていただいてもよろしいでしょうか? 御屋形様がお呼びです」
「父上が?」
「はい」
僕とクローバーは、顔を見合わせた。辺境伯様、もう、僕達の事を認めるか否か決めたのだろうか?
「わかった。行こう、クローバー」
「えぇ」
こうして、僕とクローバーは、辺境伯様の部屋に向かった。
部屋に入ると、そこには、辺境伯様と、ジークフリート様がいた。2人とも難しい顔をしながら、腕を組んでいる。
「……よく来た。まあ、座れ」
2人からはアルコール臭がする。が、意識はむしろはっきりしていて、顔色も良い。
「失礼します」
「お邪魔します」
僕達が座ると、辺境伯様は口を開こうとするが、少し悩んでため息をついた。しばらくして、また口を開こうとするが、やはり、躊躇って口を閉じてしまう。見かねたジークフリート様が代わりに話してくれた。
「ったく!いつまで悩んでるんだ……。代わりに俺が話すぞ。早速だが、本題に入ろう。……お前達の事だが、見ての通り、こいつはいつまでも優柔不断を貫いている。好き合っている相手と一緒にしてやりたい親心と、政略結婚を優先させたい貴族心が、腹の中で戦っている。そこで、だ」
ジークフリートは、一呼吸置いてから言葉を続ける。
「お前に試験を課す。それに受かれば、クローバーは、晴れてお前のものだ」
「試験……?」
「そうだ。お前も知っているだろうが、我がソードフィッシュ家は武門の家だ。お前には、ソードフィッシュ家の次期当主として相応しい手柄を上げてもらう」
「手柄?具体的には?また、戦が始まるのですか?」
「そう、戦だ。だが、相手はノスレプ人じゃない」
「と、いうと?」
クローバーの疑問に、ジークフリート様は、ニンマリと、不敵に微笑みを浮かべた。
「アリク家さ」
「「アリク家……!?」」
訳が分からない。アリク家はジーンの実家の公爵家だ。そこと戦とは……。
「……簡単に言えば、俺達に不義理をした挙げ句、謝罪さえしない。そんな、舐めた真似してる連中を、少し『教育』してやるって話だ。辺境流のやり方で、な!」
ジークフリート様は、そう言って、豪快に笑った。
ここで、それまで、ジークフリート様に説明を任せきりだった辺境伯様が、口を開いた。
「一週間待つ。それまでに、正式な詫びが無かった時には、7日目の夜から8日目の未明、アリク家の屋敷に討ち入り、かの家の者達をことごとく、撫で斬りにする。シスル、お前は公爵令息、ジーン・アリクを仕留めろ!それが試験だ」
「な、撫で斬りって……」
僕は絶句した。それはいくらなんでも無茶苦茶すぎる。それに、ジーンを殺すなんて……。嫌な奴だが、さすがに殺すのは……。
「安心しろ。撫で斬りと言っても、使うのは『コレ』だ」
そう言うと、辺境伯様は、僕達の前に一つのバリカンを出した。
「……これは?」
「見ての通り、バリカンだ。こいつで、アリク家の連中の髪を、『撫で斬り』にする」
「はあ……」
「つまり、シスル、お前はジーン・アリクの髪を全て剃り落とせ。撫で斬りにせよ!奴の毛根を全滅させるのだ!」
「それ、完全に嫌がらせですよね!」
「その通り。だが、このくらいなら、ぎりぎり、こっちも王家からお咎め食らう事は無いだろう」
「……あの、ファントム様、法に則り決着をつけろって言ってましたが……」
クローバーも呆れた口調で、父親達の計画をとがめた。
「心配ない。どう考えても向こうが悪い。……最悪、俺が責任取るさ。それに、我々武断派を怒らせるとどうなるか、というのを、王家にも文治派の連中にも見せてやるのだ」
「「いやいやいやいや!」」
僕達は明らかに、頭に血が上っている辺境伯様を説得しようと試みたが、悲しきかな。この様に冷静さを欠いた相手には、正論は通じないのである。結局、僕達はこのトチ狂った『戦争計画』を止める事は出来ず、その日はお開きになった。
武家が恥をかかされた時する事、皆は分かるかな?
そうだね!カチコミだね!!!!
元ネタは忠臣蔵+平家物語の殿下乗合事件。やっぱりこいつら鎌倉時代の人間では?
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