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第6話 訓練の成果が出すぎています

 沼に落ちたアルベルトは、思ったより分かりやすく変わった。


 もっとも、別人になったわけではない。


 もともとアルベルト・ローレンは、感情を表へ出す男ではなかった。


 冷たい。

 何を考えているか分からない。


 社交界では、だいたいそのような評価で落ち着く。


 けれど実際には、情が薄いわけではない。


 雨の中、軒下で震えていた子犬を見つけた時には、何も言わずに外套で包んで帰った。

 重い荷を抱えて足を止めていた下働きには、通りすがりに片方を持った。

 叱られて泣きそうになっていた見習いの少年には、誰にも気づかれないよう、焼き菓子をひとつ置いていった。


 本人に自覚はない。


 情に厚いなどと思ったこともなかった。

 ただ、目の前で困っている人を見ると、手を貸さずにはいられなかった。


 女性に対しても同じだった。


 人混みでは自然に外側を歩く。

 馬車の乗り降りでは手を貸す。

 歩きにくい道では速度を落とす。


 それは礼儀であり、習慣だった。


 ただ最近は、そこへ少し余計なものが混ざる。


 近くにいたい。

 触れたい。

 微笑んでほしい。

 喜ばせたい。


 そう思うたび、アルベルトは静かに自制した。


 伸ばしすぎるな。

 近づきすぎるな。

 彼女が困るところまで踏み込むな。


 そう言い聞かせる回数が、最近、明らかに増えていた。


 ローレン家の血は、一度深く傾くとだいぶ重い。


 父も母も、そうだった。


 これまでは、まったく理解できなかった。


 なぜ父が、母を守るためなら命を差し出すような顔をするのか。

 なぜ母が、父の帰りが半日遅れただけで、世界の終わりのようなため息をつくのか。


 けれど今なら、少し分かる。


 どうやら、自分もそちら側らしい。


 好きなのだ。


 認めてしまえば、ひどく簡単だった。


 簡単だったからこそ、扱いが難しい。


    *


 人混みを避けようとして、ナタリアの足が石畳に少し取られた。


「危ない」


 考えるより早く、アルベルトの手が伸びていた。


 細い手首を掴み、支える。


「ありがとうございます」


 ナタリアが体勢を戻す。


 それでもアルベルトは、すぐには手を離さなかった。


「アルベルト様?」


「人が多い。はぐれる」


「はぐれません」


「念のためだ」


 それは半分、本当だった。


 人が多いのは事実だ。

 ナタリアがはぐれれば困るのも事実だ。


 ただ、もう半分は違う。


 手を離したくなかった。


 アルベルトは、指先の力を少しだけ緩めた。


 細い。


 強く握れば痛めそうだった。


 守りたい。


 そう思った。


 同時に、もう少しだけこのまま歩きたいとも思った。


 重症だな、とアルベルトは思う。


    *


 焼き菓子の屋台でも、似たようなことがあった。


 ナタリアは何も言わなかった。


 ただ、店先の焼き菓子を見て、ほんの少しだけ足を止めた。


 目が一度、ぱちりと瞬く。


 小さな花の形の焼き菓子の前で、ほんのわずかに視線が止まった。


 花びらのように薄く焼かれた生地に、白い砂糖が淡くかかっている。


 食べたい、と口に出したわけではない。

 手も伸ばさない。


 けれど、見ていた。


 それだけで十分だった。


 アルベルトは屋台へ向かった。


「アルベルト様?」


「屋敷への土産だ」


 侍女たちの分。

 護衛の分。

 厨房の分。


 その中へ、ナタリアが見ていた焼き菓子も当然のように入れてもらう。


「皆様、喜びますね」


「そうだな」


 ナタリアは気づかない。


 皆へ配る菓子は大袋にまとめられていた。


 その中に紛れないよう、アルベルトが花の形の焼き菓子を一つだけ、別の小さな包みにしてもらったことを。


 あとで、ナタリアへ自分の手で渡せるように。


 ナタリアが好きそうだと思ったものを、自分が最初に知りたい。


 できれば、自分が渡したい。


 そして、嬉しそうに笑う顔を一番近くで見たい。


 甘やかしたい。


 そこまで考えて、アルベルトは深く息を吐いた。


 かなり危険な方向へ来ている。


 ナタリアを困らせたいわけではない。

 傷つけたいわけでもない。


 それなのに。


 欲が、後から後からあふれてくる。


 誰より先に気づきたい。

 誰より近くで喜ばせたい。

 自分の差し出したもので、彼女の目が明るくなるところを見たい。


 ナタリアの心が、全部こちらを向けばいいのに。


 そこまで考えて、アルベルトは自分の思考を止めた。


 駄目だ。


 それは、彼女を大切にしたい気持ちとは別の場所まで踏み込みかけている。


 望むだけなら自由だ。


 だが、押しつけるな。


 そう、自分に言い聞かせる。


 何度も。


 何度も。


    *


 けれど、押しとどめたものは別の形で表へ出た。


 触れたいのを抑えた指先は、代わりに丁寧になる。


 抱きしめたいのを飲み込んだ腕は、代わりに彼女を守る位置へ回る。


 口づけたいなどという考えを押し殺した唇は、代わりに甘い言葉を選んでしまう。


「アルベルト様、その花は」


「君が見ていただろう」


「覚えていたのですか」


「ああ。君の目が止まったものは、よく覚えている」


「……観察能力が向上していますね」


「そうかもしれない」


 違う。


 観察能力ではない。


 君だけを見ているだけだ。

 君が喜ぶ顔を、見ていたいだけだ。


 だが、ナタリアはそんなアルベルトの思いに気づかない。


    *


「アルベルト様、最近、表情筋がとても自然に動くようになりましたね」


「そうか」


「はい。実地訓練の成果が出ています」


「君のおかげだな」


「講師として当然です」


 違う。


 講師だからではない。


 君だからだ。

 君が好きだからだ。


 そこまで思って、アルベルトは言葉を飲み込んだ。


 どの口が、と思う。


 あなたを愛することはできない。


 そう言ったのは、自分だ。


 その相手に向かって、今さら君が好きだからだなどと、どの口で言うつもりなのか。


 言えない。


    *


 その日の夕方。


 アルベルトが客間へ戻ろうとすると、廊下で侍女頭に呼び止められた。


 以前、ナタリアが「母のように叱ってくださる方です」と言っていた年配の侍女である。


「アルベルト様」


「何だ」


 侍女頭は深く一礼した。


「お嬢様の実地訓練に、いつもお付き合いいただきありがとうございます」


「私のための訓練だろう」


「それはもちろんでございます」


 侍女頭は少しだけ表情をゆるめた。


「ですが、お嬢様があれほど楽しそうに外へ出られるのは、珍しいのです」


「そうなのか」


「はい。もともとは、もっと感情の豊かなお方でした。笑う時はよく笑い、怒る時はきちんと怒り、嬉しい時は本当に嬉しそうになさる方で」


 侍女頭の声が、少しだけやわらいだ。


「奥様を亡くされてから、あまり感情を表に出されなくなりました。何事も真面目に受け止めすぎるところがございますし、それに、少し独特なところもおありでしょう」


 そこまで言って、侍女頭は小さく笑った。


「けれど、アルベルト様はそれを妙なものとして退けず、そのまま受け止めてくださいます」


「妙ではないだろう」


 アルベルトは自然に答えていた。


「彼女は、自分以外の誰かのことを真剣に考えすぎるだけだ」


 侍女頭は、少し驚いたように目を上げた。


「そう言ってくださる方は、多くありません」


 それから、丁寧に頭を下げる。


「ですが、旦那様のお許しを得るのは容易ではございません」


「分かっている」


「現時点で、アルベルト様はお嬢様を傷つけた側でございますので」


「……その通りだ」


「では、まずはそこから抜け出していただければと」


「努める」


 侍女頭は、わずかに表情をやわらげた。


「そのお言葉を、ひとまず信じさせていただきます」


 母を亡くしてから、感情を表に出さなくなった。


 その言葉が胸に残った。


 彼女が、自分の前では笑う。

 怒る。

 涙ぐむ。

 少し困った顔をする。


 そのひとつひとつが、胸の奥に深く沈んでいく。


 自分が彼女の感情を引き出せているのなら。

 彼女が少しでも気を抜ける相手になれているのなら。


 それは、自分が思っていたよりずっと重い意味を持つのかもしれない。


「分かった」


 アルベルトは短く答えた。


「その信頼を、裏切らない」


    *


「最近のお嬢様、本当に楽しそうでいらっしゃいますね」


 翌朝、侍女がふいに言った。


 ナタリアは身支度の途中で、鏡の中の侍女を見た。


「私が?」


「はい。アルベルト様と実地訓練からお戻りになる日は、表情がやわらかいです」


「そうでしょうか」


「そうでございます」


 侍女はきっぱり言った。


 ナタリアは鏡の中の自分を見る。


 以前は、感情をそのまま顔へ出さないよう気をつけていた。


 怒っても。

 驚いても。

 嬉しくても。

 泣きそうになっても。


 感情を出すと、言葉も、行動も、間違えることがある。

 一度出してしまった言葉は、戻らない。


 母を亡くしてから、そのことを嫌というほど知った。


 そして、前世の記憶を思い出してからはなおさらだった。

 言葉は燃える。

 感情のままに放たれた一言は、時に取り返しのつかない火種になる。


 だから、感情は見せすぎない方が安全だった。


 けれど最近、アルベルトの前では少し違う。


 怒っても、彼は最後まで聞いてくれる。


 笑えば、同じものを見るように、そばで耳を傾けてくれる。


 泣きそうになっても、慌てて騒ぎ立てることはない。


 ただ、感情が通り過ぎるまで、そばにいてくれる。


 だからだろうか。


 最近、自分でも思うより表情が動く。


「……実地訓練の影響でしょうか」


「それもあるかもしれませんね」


 侍女は意味深に笑った。


「ですが、お嬢様ご自身も、とても楽しそうです」


 ナタリアは黙った。


 楽しそう。


 その言葉は、思っていたよりはっきりと胸に残った。


    *


 ナタリアは、最近ひとつ気づいたことがあった。


 アルベルトの訓練の成果が出ている。


 それは周知の事実である。

 むしろ、成果を出すために訓練をしているのだから、喜ばしいことである。


 問題は。


 出すぎていることだった。


 もともとアルベルトは、美しい石像のような人だった。


 整った顔。

 静かな目。

 感情の読めない表情。


 石像は、観賞用として眺めるだけで、動かないから安全である。


 だが、その石像が動き始めた。


 こちらを見て、目元をやわらげる。

 低い声で、名前を呼ぶ。

 嬉しそうに笑う。


 それは、たいへん危険だった。


 何が危険なのかは、まだうまく分類できない。


 けれど、胸の奥が落ち着かなくなる。

 呼吸が少し浅くなる。

 視線を外すのが遅れる。


 これは、謝罪会見における重大な不安要素である。


 反省を伝えるために鍛えたはずの表情筋が、なぜか人心を乱す方向へ成長している。


 成果が出すぎている。


 明らかに、出すぎている。


    *


 そしてとうとう被害が出た。


「お嬢様、ご報告がございます」


 午後、侍女頭が真剣な顔でやって来た。


「何でしょう」


「アルベルト様の微笑みによる被害報告です」


「被害」


「はい。微笑みの破壊力が想定を超えております。目撃した者の一部が、業務に支障をきたしています」


 侍女頭は紙を広げた。


「皿を取り落とした者、四名。洗濯籠をひっくり返した者、三名。階段を踏み外しかけた者、二名。護衛が壁に頭を打った件、一件。料理人が焼き菓子を焦がした件、一件。庭師が剪定を誤った件、一件。その他、複数名に一時的な放心が確認されております」


「待ってください」


「はい」


「料理人まで」


「お嬢様を前に、アルベルト様が微笑みながら食事をなさる姿に、厨房から見入ってしまったそうです。火加減の確認が遅れました」


「……庭師は?」


「噴水の水面越しに、お嬢様と散策中のアルベルト様の微笑みを見てしまったそうです」


「水面越しに」


「はい。反射です」


 そこまで届くものなのか。


 ナタリアは額に手を当てた。


「魅了魔法の可能性は?」


「ございません」


「断言できますか」


「魔法ではなく、顔です。色気です」


 ナタリアは黙った。


 それは否定できない。


    *


「アルベルト様」


「何だ」


「最近、少々表情が強すぎます」


「表情が強い?」


「はい。屋敷内で被害が出ています」


「被害?」


「皿、洗濯物、庭木、護衛、厨房に被害が出ました。その他の者も、業務に支障をきたしております」


「……それは私のせいなのか」


「少なくとも、皆はそう申しております」


「そうか」


「謝罪会見で人前にお見せになるには危険です。色気が出すぎています」


「色気?」


「はい」


「…………」


「場合によっては布が必要です」


「布?」


「顔にかける用です」


「顔に?」


「顔です」


 アルベルトは少し黙った。


 それから静かにナタリアを見た。


「君もそう思うのか」


「何をでしょう」


「私の顔に布が必要だと」


「場合によっては」


「では、君も危ないと思っている?」


 ナタリアは一瞬だけ言葉に詰まった。


「……多少は」


「多少」


 自分の声が。

 自分の視線が。

 自分の表情が。


 ナタリアのどこかへ届いている。


 それが、どうしようもなく嬉しい。


 アルベルトは、普段ほとんど見せないほど嬉しそうに笑った。


 部屋の端で、それを目撃した侍女が胸を撃ち抜かれたように崩れ落ちた。


 ナタリアも、その場に崩れ落ちそうになったが、机へ手をついてなんとか持ちこたえた。


 多少ではない。


 これは多少ではない。


 早急に布を用意しなければ。


    *


 その日の午後。


 二人は茶の席で向かい合っていた。


 窓から入る光はやわらかく、白磁のカップの縁には薄い金が光っている。


 アルベルトはしばらく黙っていたが、ふいに口を開いた。


「ナタリア、と呼んでも?」


 ナタリアは瞬いた。


「はい。構いません」


「ありがとう、ナタリア」


 低い声で名を呼ばれた瞬間、ナタリアは少し遅れて胸元へ手を当てた。


「……変です」


「何がだ」


「アルベルト様のお声で呼ばれると、胸のあたりが落ち着きません」


 アルベルトは黙った。


 かなり長く黙った。


 名を呼びたいと思った。


 ただの呼び名ではなく。

 彼女だけへ届くように。


 その名を呼んだだけで、ナタリアが少し揺れる。


 それが嬉しい。


 嬉しいと思ってしまう自分が、もうだいぶ手遅れだった。


「もしかすると、もう一度呼んでいただければ、原因が分かるかもしれません」


 ナタリアは真面目に言った。


 アルベルトはさらに黙った。


 ナタリアの頬が、ほんのり色づいている。

 こちらを見つめる瞳は、少し潤んでいるように見えた。

 唇には、先ほど紅茶を飲んだ名残の艶がある。


 もちろん、本人にそのつもりはない。


 ただ真剣に、原因を知ろうとしているだけだ。


 そう分かっているのに、アルベルトの目を通すと、すべてが甘く映ってしまう。


 完全に、自分の側の問題だった。


「アルベルト様?」


「……いや」


「お顔が赤いです」


「そうか」


「熱でもおありですか」


「ない」


「ですが、顔が熱そうです」


「問題ない」


 ナタリアは立ち上がった。


「確認します」


「確認?」


「はい。体温を。失礼します」


 近づいてきたナタリアの手が、すっと伸びた。


「待て」


 待て、と言い終える前に、ナタリアの手が額へ触れた。


 柔らかい。


 少し冷たい。


 まずい。


「やはり熱い気がします」


「気のせいだ」


「ですが――」


 ナタリアが少し身をかがめる。


 距離が近い。


 ふわりと甘い香りがした。


 抱き寄せたい。


 その考えが浮かんだ瞬間、アルベルトは湧き上がった欲を理性で押さえ込んだ。


 視線を下に逸らそうとして、目に入る。


 白い首筋。

 ゆるく開いた襟元からのぞく、やわらかなふくらみ。


 これは、見てはいけないものだ。


 アルベルトは即座に目を閉じた。


「……ナタリア」


「はい」


「少し、離れてくれ」


「やはり体調が悪いのですね」


「違う」


「では医師を呼びます」


「医師では治らない。時間が経てば落ち着く」


「それでしたら、寝室でお休みください。手を――」


「待て」


「さあ、立ってください」


「今は立てない」


「ですが、お顔が赤いです。ベッドでお休みになられた方が」


「大丈夫だ」


「手をお貸しします。立つお手伝いをいたします」


 ナタリアのその一言と、こちらへ伸びる白い手が、とどめだった。


「もう立っている」


 ナタリアは、きょとんとした顔でアルベルトを見た。


「……座っておられます」


「…………」


 アルベルトは静かに臍の下を見下ろした。


「……そうだ。俺は立っていない」


 ナタリアは心配そうに眉を寄せた。


「かなりお辛いのですか?」


「……辛いのは、体調ではない」


「では、どこがどのようにお辛いのですか?」


「答えた瞬間、私は謝罪会見前に羽虫として処理される」


「……?」


「聞かないでくれ」


「分かりました。では、ベッドへ」


「……この椅子の座り心地がいい。ここで一人で休みたい」


「椅子ですか?」


「ああ」


「……分かりました。では、少ししたら様子を見に参ります」


「頼む」


「無理はなさらないでくださいね」


「努力する」


 ナタリアが部屋を出て行く。


 扉が閉まった。


 アルベルトは深く息を吐いた。


「二、三、五、七、十一、十三……」


 素数を数えることにした。


 理性を立て直すには、数字が必要だった。


    *


 しばらくして。


「アルベルト様、いかがでしょうか」


 扉の向こうから声がした。


 アルベルトは目を閉じたまま、素数をそっと数えていた。


「四百九十一、四百九十九、五百三……」


 よし。


 どうにか立つことはできそうだ。


「入ってくれ」


「失礼いたします」


 ナタリアが部屋へ戻ってくる。


「アルベルト様」


「ああ」


「先ほどより、お顔の赤みが引いています」


「そうか」


「少し落ち着かれたようですね」


「ああ。落ち着いた」


 数字のおかげで。


 とは言わなかった。


 ナタリアはほっとしたように微笑む。


「よかったです」


 そう言って、アルベルトが返事をする前に、ナタリアの手がまた額へ伸びた。


 当然のように、彼の額へ触れる。


 柔らかい。


 少し冷たい。


 そして近い。


 視線の端に、ゆるく開いた襟元がまた目に入った。


「本当ですね。先ほどより、顔の赤みも引いています」


 ナタリアは安心したように言った。


 だがアルベルトの方は、再び椅子から立ち上がれなくなった。


 四千九百九十三、四千九百九十九、五千三……


 今度は心の中で数えた。


 長期戦だった。

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