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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第6部 自由に沈まず選び取れ

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35章286話 殉じられない正念場の決断





 頭がついていけなくなってきた。全く面白くないのに笑える。



「あはは……なんでですか? 防衛団の仕事だと思うんですけど」


「ああ、勿論バックアップする。街を巻き込んだ話だしな。だが日程や建前の兼ね合いで、ルーク君をこちらで守りきる事はできないと見ている」


「なんだって? 貴方の立場で言っちゃダメでしょう……!」


「最善を考え提案しているまで。この状況で、飾った気休めに何の意味がある」



 どこまでも平坦な口調。俺の不服を受け入れなだめてくれる見込みはない。


 ……納得できるか確かめていく方が建設的だな。くそ、理性が疲れる。


「自分で制裁なんて、余計な波風なみかぜが立つとしか思えません。その依頼がどうやって俺の安心に繋がるんですか?」



 ガノンの手が心苦しそうに挙がる。エバッソさんはすぐに頷き、話運びを任せた。


「この追加依頼そのものが、ルークを守るためと思って欲しいかな」


「え? ……ごめん、分からない。その……正直もう、精神的に無理があるんだ。顔見知りを痛めつける罪悪感を抱えたくない……」


「だよね。もっと頑張らせるような事、ホントは言いたくねーよ。……それでも、て話をさせてな」




 ガノンは深刻な表情で穏やかに語る。


「まず何より、認識を見直して欲しい。ウッズは『昔喧嘩した貴族』じゃないよ。『欲望で相手を殺す悪魔』だ。俺らはあいつを、凶悪なストーカーと捉えて話してる。──副長、そういう事っすよね?」


「ああ。かなり大規模にこじれた悪質な事案ではあるが、本質はつきまとい事件のそれだな」



 事件……? やたら物騒な響き──でもそう言えば俺自身も、揉めた当初は暴行事件だと訴えていた。あの感覚、無くしたとも思わないけど……あれ?



「ルークの場合、ロハ時代から長らく不利に置かれて麻痺してるだろうし、自覚しにくいとは思う。でもな、常識や倫理の通じない相手に命を狙われてるって事、改めて考えてくれ。兵器関係なく、ウッズ自身がモンスターだと思って丁度だよ」


「ふ。俺でも言わんぞ、ガノン兵長」


「あっ、すんません……」


「過言でもないがな。──そう、だからルーク君自身が拒絶を示すべきなんだよ。相手が積極的に法を無視している状態で、司法の介入を待って沈静化に期待するのは、現実的じゃない。……起きてしまった後に処理した、いくつもの実例が根拠だ」



 二人揃って、真剣に忠告してくれている。あいつらを攻撃する事よりも、放っておく事が悪かのような。罪悪感がどうとか、道徳にこだわってる場合じゃないほどの話なのか……?



 黙ったままの俺に、エバッソさんは言う。


えて訊く。逃げたいか」


「えっ……」


「ルーク君個人の選択肢としてはアリだ。だがその場合、把握されている住所と職場を手放すのは鉄則。今日にでも身を隠す事をすすめる。こういった『堅実な対処』は君自身も望まないと思っていたが、どうだ」


 ああ畜生、その通りだよ。答えずに、いよいようつむいた。




 やっぱり俺はどうしようもないな。今になって()()()、自己否定癖を猛省もうせいしてるんだから。


 生き方については、確かめながら考え抜いてきた筈だ。歪みがある事だって知っている。それでも、致命的な弱点を見落としていたらしい。



 人や環境に恵まれて嬉しい。迷惑をかけると知ったから死にたがりは控える。適当に殺されるのも気に入らない。自他を幸せにする事だって不可能ではないかも知れない。だから頑張る。


 でも、自分の存在そのものは無価値だ。軽んじられても仕方ない。役に立たねばならない。これ以上苦しむくらいなら死んだ方がマシ。


 より良い形を目指して懸命に生き直す。その裏で、自分を投げ出す理由と機会をずっと探し続けている。



 ──じゃあ今。じゅんじられない正念場では、どうしたらいいの?


 全く分からないんだ。



 自暴自棄じぼうじきひたってきたツケでしかない。死ぬなよと送り出され、死なれては困ると言われ、自分ももう少し頑張りたいなどとこぼしたって時に。最悪だよ。




 二人の説明は、黙り込んだ俺を励ます方向へ。


「俺達は貴族を無視できない。しかし手下四名は平民だぞ。確かに貴族の手先だが、ルーク君にも功績がある。犯罪行為に対して威嚇いかくするくらいは妥当だとう。まして俺達の管轄内だ、治安維持のための隠蔽いんぺいは任せなさい」


「頼りなくて本当にごめん。でもな、ルークだから作戦の形になったんだ。戦闘力での真っ向勝負に持ち込めば勝ちかくっしょ。あの子分達は今のウッズの最終手段だぜ。これさえ切り抜ければみんな一安心。何とか踏ん張れないかな……?」



 ──俺は、話の通じない奴を敵に回してしまった。認識の甘さで、新天地での大騒ぎを招く事になった。その責任は引き受けたい。今は『やめろ』と伝える形こそ自他の為らしい。味方の権力を頼り、正当防衛だと言わせてもらえ。


 深く息を吐く。慣れた憂鬱のため息であり、いつも通りの戦闘準備だ。


「……最後まで見放さず、共闘の提案を下さって、ありがとうございます。追加依頼、お受けします。自分のために参加を決めた作戦ですもん。後片付けまでやりきってこそ、ですよね」



 二人は強く頷いてくれた。エバッソさんの無表情は少しほころんで見える。


「防衛機関では貴族を追求、ルーク君は平民を撃退。繋がりを隠したまま、分業といこうじゃないか」


「はい。でも、殺しはしないって条件をつけさせて下さい」


「構わない。二度と関わりたくないと思わせればいいだけなんだからな」


「ハハ……嫌な仕事だなぁ……」



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