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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第6部 自由に沈まず選び取れ

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34章281話 最強の怨恨を堪えろ




 俺の好戦的な和解の提案を、ウッズは忌々(いまいま)しげに鼻で笑い飛ばした。作戦上、ただ縮こまっていられては困るので良しだ。


 やはり俺がどこまで知っているのかは気になるらしい。吊り上げた目を泳がせながらまくし立ててくる。


「ふんっ、何が仲直りだ。なんで僕が、大嫌いなお前のために三十分も拘束されなきゃいけない? ……あの鬼も売国だなんて適当を言っちゃってさ、腹が立つ! なんでわざわざ来たんだよ? 答えろ!」


 拒絶と探りはまあ予想通り。ここから上手く転がせるかどうか……。



 俺のスタンスは戦闘と同じ。色とりどりの戦意と緩急かんきゅうで攻め立て、隙を見せて誘い出す。そして心を乱されないように、自分を何よりも厳しく律して、いつも通りの力を発揮するのだ。


 ……やってみせる。文字通り死ぬほどやってきたことだ!




「俺のセリフだ。ちゃんとお前に従ってロハから出て行ったのに、ウッズの方から来やがって。ゼフキで俺の悪評を流してるよな?」


「僕にはその必要も権利もある。それだけ迷惑をこうむってるんだから」


「……要は、未だに許せない気持ちが残ってんだろ。一度しっかり話し合って、片づけようよ。今日はその為に来た」


「ルークが無様ぶざまに消えてくれれば僕の気持ちは片付くんだよ!」


「俺を殺したいってこと?」



 一瞬、空気が止まった。



「……存在が不愉快なんだ! 目障りだし、耳障りなの!」


「あれから今日まで、ウッズの前には現れなかったのに? これ以上どうすればいい」


「ち、違くて! もうそういう問題じゃなく……。遠くにいても話が入って──」


「だからもう殺すしかないって結論になったんだよな?」



 言い切らないのは、殺意を表明することに怯えているからだろ。こいつは技術的にも精神的にも、俺と正面から殺し合うことはできないのだ。


 そうやって安全圏に居続けたことが、今日致命的な隙になるだなんて、もう言い聞かせてやらない。弱点として突くだけだ。



「だからって、ペアルコ王国の不浄素兵器にまで手を出す必要はないだろう」


 ひそかに言葉を詰まらせているのを威圧的に見つめながら続ける。


「俺もお前んも共倒れになる。こんないさかいにそこまで賭ける価値はない。やめよう」



 やはり彼も馬鹿ではない。最も警戒している部分の守りは堅固だった。


「何それ。気でも触れた? ひゃはっ、病気は元々だったかあ!」


「病気の妄想じゃないっていう、物的証拠を持って来てる」


「……へー? じゃあ見せてご覧よ?」


「バカかよ……。局所的な不浄の発生で精霊が乱れる。ここだと警報が鳴るって聞いたし、万が一モンスターまで湧けば大事おおごとだぞ。ウッズの方が詳しいんじゃないのか?」


 もちろん嘘だ。バデリーさんの仕入れた断片的な不確定情報から内容を作ったから、まるっきり想像でもないが、あくまでハッタリ。


 だからもしウッズが本当に知らないか、もしくは見当違いなら、怪訝けげんそうにする筈なのだ。そんな特級脱法アイテムは存在しない、いよいよひどい作り話だと。



 しかし彼は優位を誇示こじしながら話を逸らした。思い当たる物はあるのか──。


「どうせないくせに! あってもルークが不法侵入と危険物持ち込みで捕まるだけだし、僕は困らないね。本当に和解する気ある? デタラメな話で喧嘩を売ってくるな!」


「ああ、やっぱり危険なのか、これ?」


 腰元のポーチに手をやると、ウッズはわずかに身を乗り出した。効いてるな。


「言ってやらない。ていうか知らない」


「──そうか」



 今度は自分の背、愛剣のつかに手をやる。やっと武器に気付いたウッズの顔がまた青くなった。


「へえっ? 和解するんじゃないの?」


「決裂も想定してるに決まってんだろ」


 鍔元つばもとはがねを見せながらウッズの首へと視線を定める。殺人こそ未経験だが、人の身体は無数に斬りつけてきたし、殺意のやり取りにも慣れている。冗談ではない事くらいは伝わる筈。


「どうせ捕まるなら、得体の知れないものであちこちに迷惑をかけるより、直接殺した方がいい。ダントツで簡単だ」


「ままま待て待て落ち着け! 仲直りの話から、なんでいきなり捨て身になるの?」


「こんな政府関係の会議場に侵入してる時点で捨て身だと思えよ。て言うか、さっきお前自身が言っただろうが。俺はもうとっくに全て壊されたからだ……!」


「ひ、はは、いい気味……。で、でもルーク、今は、ゼフキでいい思いをしてるんだろう? それまで失っちゃっていいの?」


「ほざけ。てめえに殺されれば同じだ」


「そ、僕、まだそこまで言ってな──」


「こうして直談判じかだんぱんに来てもダメなら、俺も流石に諦める。ただしウッズも道連れだ。俺が増長させてしまった悪党を片付けて、俺も終わるんだ。今から首を飛ばす。いいな」


「よくない! いいわけないでしょ!」


「じゃあ話し合ってくれるのか?」


「ぎぎ──とりあえず! この三十分はちゃんと話してあげる! それで満足か!」


「……ありがとう。一旦な」



 抜きかけた剣を、再度(さや)へ納めた。


「剣ッ、お前、背から下ろせよ!」


「分かった」手元に置いた。


「……や、やっぱり背負ってて!」


「分かった」頭悪いのかな。




 ウッズは肩で大きく息をして手を震わせている。睨みながら、俺も腹で深呼吸をした。やはりスムーズな対談は不可能だったか。でもまだまだいけるよな、俺。



 考えろ。──命と地位とプライド、全ての窮地きゅうちから逃げられないと分かった今、ウッズは耐えがたい恐怖にさいなまれている筈。楽になる方法を必死で探るのが自然だ。


 しかしこいつの慣れた方法は、他人を使う事、家の力を頼る事、敵が弱った所で暴力を振るう事でほぼ全部だろう。今はどれも使えない。

 となれば、一か八かで兵器を使い、この場で俺を殺しにかかる事も考えられる。武器はその対応策でもあった。


 ……でもその動きは見られない。ぶつぶつと聞こえるのも呪文などではなく恨み節だ。この場には起動できるものを持ってきてないのか、勇気がないのか……いずれにせよ、現行犯逮捕は難しそうだ。



 なら懐柔かいじゅう。追い込んだ今、こちらで作った偽の逃げ場に誘導する。



 切り込みやすそうな質問は、動機かな?


「なんで外国の兵器なんかに手を出した」


「それはお前の思い込みだってば……!」


「……質問を変えるよ。俺を無様に消さないとウッズの気持ちが片付かないのは、どうしてだ?」



 ウッズはしばらく思考を巡らせていたようだが、やがて、当たり散らして楽になることを選んだ。鬱憤に呑まれてわめきやがる。



「だって…………悪いこと全部、ルークのせいなんだよ! なのにまるで僕が悪いみたいになってる! いつもいつも、卑怯なんだ! 絶対許せない!」




 いやお前が悪いだろ。俺だって許さねえ。




 あっこれはマズい、と思った時には遅かった。俺の奥底で、確かに発火してしまった。


 直視を避けることで必死に封じていた、最強の怨恨えんこんが。



 血の激流が攻撃性を全身に行き渡らせる。苛々(いらいら)と膝が揺れ、眼球に圧がかかる。呼吸は浅く、拳は固く。相手の撒き散らす敵意に対抗するためだからと、これに身を任せたくなっている。


 それを理性一本で押しとどめる。ただの喧嘩、以前の繰り返しになるから。こんな大切な勝負で自分を揺らす原因にはしたくない。耐えろ、こらえろ、抑えろ……! 適切な戦い方を選べ……!



『虚勢を張れ。堂々と笑って見せるんだよ』



 今朝のログマに後頭部をど突かれた気がして、はっとした。


 分かったよ、とつばを呑む。精霊術の猛者もさに従おう──としたところで、社交性の猛者もさ、アピラ師匠が思考に割り込んで高笑いして見せた。


 ……師匠も、まずは困ったように笑いそうだな? 相手の悪意を受け流して調子を崩し、最適なタイミングで手札を切って追い払うだろう。ケインはこれを、同じ戦場に立たないことで衝突を回避する戦略だって分析してた。使える……!



 皆からの付け焼き刃、お借りします!


「たははーっ! 汚えお声が無駄に大きくてびっくり致しましたわァ!」



 あれ。なんだろう、思ったのと違うな。勢い余ったな。強制的に頭は冷えたけど……。



 でも相手は真剣に睨んでいる。皮肉っぽい口調として受け取ったみたいだ。セーフ。続行。


「……俺のせいって何が?」


「ルークがしぶとく僕に逆らってた頃から、勘違いした無礼者が増え続けているんだよ! 今まで黙ってた奴らが、やりすぎとかおかしいとか、お父さんの爵位しゃくい剥奪はくだつすべきだとかぁ……! 突然言い出してきてるの!」


「あら、ご愁傷様。でも俺は関係ないな」


「嘘つき! 僕だって調べたんだぞ。命の恩人だとか、元友達だとか、同じ剣術教室で憧れだったとか、実はルーク贔屓びいきでしたって奴らばかりだ! そういう雑魚どもが結託してる! 当のルークが僕に完全敗北して決着したのにだぞ? 仕向けたんだろ? 一人じゃ勝てないからって、卑怯者じゃないか!」


「そう思いましたのねェ。でも意外と市民に不満が溜まってましたってだけの話だろ。やっぱり俺は口実にされただけで、無関係だよ。……そのご贔屓ひいきらしい皆様は、実際、俺を助けてくれてないじゃん」


「それは……ひひ、お前の作戦が甘かった部分だろ!」


「ああもう、何とでもおっしゃって下さいましー。全然違うのになぁ」


 形ばかりの師匠クッションは有効だった。心理的な距離が大きく一歩離れる感覚がある。どす黒い感情を抱えたまま、冷静に攻撃の手を考えられている。



「とぼけたって無駄。もう僕は対抗策をってあるんだぞ! ルーク程度じゃその辺の平民しか頼れないけど、僕は違う。せいぜい後悔しなよ」


「検討しまーす。でも不浄素兵器じゃないんだろ? 他に何かあるのか? お前が帝都の俺を殺せる方法なんて限られるような気がするな。貴族って言っても、所詮は田舎の子爵だし」


「なんっ……お前えええ……!」


「これまで防衛団に告げ口するくらいしかできなかった事こそ、何もできない証拠だろ。あははは!」



 ここぞと挑発してやったら、経験不足のウッズは、俺に都合がいい戦場へと自ら上がってきた。


「──もういいか。考えてみれば、お前やあの鬼程度の小物にバレたところで、妄言もうげんとして扱われるだけに決まってるね」


「なんだって」



「ひゃはは、よく調べたね、褒めてあげる。──そうさ、僕らタオ家は、ペアルコ王国と手を組んだ。不浄素をモンスターとして自在に顕現けんげんさせられる装置を預かってる。この国じゃあ考えられないような最先端技術を、この僕が使えるようになる! 練習がてら、ルークを潰してやれるのさ!」



 よし。聞いたよな、別室の方々。これで最低限……! しれっと殺害宣告されたけど、こそこそやられるより全然怖くない!




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