第191話 残念な(ほぼ)完璧超人
しかし、成長した代わりに俺はおタヒの知識欲をもろに受け止めることになる。
「ねえ、チケン。重力やベクトルってなあに?」
うわー、インテがいないのが辛い。俺は専門家じゃねえからうまく説明できる自信がない……。
「説明が難しいなー! ええと、物を落とすと下に落ちるだろ? 高いところから落とすと尚更速度が増すだろ? それはわかるな?」
「わかるわ」
「それが重力。ベクトルは重力のように向きと大きさを持つ力のことだな。物を投げると投げた人から投げられた場所に力が動くだろ? その早さとか向きをまとめてベクトルと言う」
「うーん、わかったようなわからないような……要するに力の流れ?」
「そう」
「わかった、頭に入れておくわ」
あんまうまく説明できなかったが聞き手が賢いせいで助かった。俺物理苦手だったんだよな。物理赤点で先生に呼び出しされた苦い思い出が脳裏をよぎる。
おタヒは自主的に再生ボタンを押すと続きが流れる。こいつも大分学習してるな。多分本当は俺にやらせたいんだけど、自分で押すほうが知識欲を満たせるのが早い、ということに気がついたんだろうな……。
『また、ヴェレル氏は医師資格も所持しており精神衛生に関するスキルでも知られています。精神系スキルでは論文も数本執筆しており、専門家と言っても問題のないレベルです』
「――――ここ掘り下げてみるか」
「そうだな……」
「エクセリオさん、ちょっとその論文は公開されている? されているならいくつかタイトルだけでも読ませてほしいな」
『申し訳ございません、前述した通り論文は規則によりこの場所からの閲覧は禁止されております』
「エクセリオとやら、私も聞こう。公開されているヴェレル氏のスキルはあるのか?」
『畏まりました。テオネリア名士録より抜粋したデータです。
古典四属性 地水火風全属性(一級)
古典二属性 光闇属性(一級)
新属性 ベクトル・空間操作(一級)
精神操作系 精神状態回復系・催眠系・記憶操作系(一級)(医師免許あり)
生命工学系スキル 多種
公開されているヴェレル氏のスキルに関しては以上になります』
うわー、全部一級かあ……、でも資格によっては一級が初心者向けで、五級のほうが上みたいなのがある。一縷の望みをもって問いただしてみたが、やはり一級は最上級で、さらなる上に特級というのがあるのだそうだが、それはほとんどいないらしかった。
『スキルは五級あれば社会人が就職に使えるレベルとなっております。実用は七級から、子供は十二級からのスタートとなっております』
「うわーどれも一流ってことか、厄介だな……」
「なんなのよ、そんな恵まれた頭と体でなんであんな歪んだ性格をしてるの?!」
おタヒ、お前がそんな事言うのか? と思うが俺は口に出さなかった。お前も相当恵まれた頭だが性格がアレだぞ。ヴェレルほど終わってるわけじゃないが……。
「エクセリオ嬢、素晴らしいまとめに感謝する、おかげで色々考えがまとまりそうだ」
グリセルダが礼をいうと、情報調査端末のはずのエクセリオは、表示した情報の上に妖精のようなアバターを表示し、顔を真っ赤に染めた。
『えっ……! 私、こちらの刑務所に勤め始めてはや三百年、初めて褒められました……!』
「えっそうなの?! でも俺達今色々教えてもらえてめちゃめちゃ助かったよ! 俺からもお礼を言わせてくれ!」
「そうよ、えくせりおとやら! お前は賢く素晴らしい娘よ。他の誰が褒めなくても、私が褒めるわ!」
『ほ、本当ですかっ?!』
「カメラついてるなら俺達の顔を見てよ。嘘をついてる顔に見える?」
妖精型のアバターはこちらを向くと、更に顔を真赤にして手で顔を覆った。カメラを塞がないと意味がないような気がするが……。
『見えません! 嬉しいです! すっごく嬉しいです!』
顔を塞ぎながらぐるぐると回るエクセリオさん。めちゃめちゃに可愛いな……。
『よーし、やる気出てきました! 何でも聞いて下さい! 法律に違反しないギリギリまで何でも調べてきますから!』
俺達は顔を見合わせて、同じことを思った。なんか、インテっぽいな、と……。じゃあ扱い方も同じだろう。
俺達は、心にもないことは言わないが――――エクセリオさんが出来たことは褒めちぎろう、と心に決めた。
色々質問した結果、意外な事実が判明した。
ヴェレルが卒業した大学は部門ごとの席次と総合の席次の二種類あり、ヴェレルはそのどちらでも首席をスフォーのおっさんに奪われていた。
一般的には国一番の大学で次席卒業なんて誇らしいことに違いない。俺ならそれをネタにかーちゃんにいい飯をねだる。海鮮丼とか。
しかし、ヴェレルにとってはそうではない。
この国でも卒業したときの部活や席次は社会人生活において重要な位置を占める。
ましてヴェレルは貴族でもなんでもない。上流市民ではあるのだろうが。地球でいうテクノクラートとでも言うべき階級において、成績や資格は後々まであとを引くだろう。
日本にも過去ハンモックナンバーとかいうものが存在したしな。国や組織にはそういう暗黙のルールがあるんだろう、どこにでも。
そして、もう一つの重要そうな事実があった。
ヴェレルが執着していた『二人のサラ』は当時の日本でいう子供向けTVドラマの様な立ち位置で、もちろん大人気だった。ヴェレルが生まれた頃にはもう制作が終わっており、ヴェレルが見たのは再放送だったらしい。
そして、二人のサラ役の女優さんの片方は国王の甥、つまり王族に嫁ぎ、エト姫のいとこの嫁なのだという。とはいえ、国王の兄弟は十二人いるのであまり関わりはないらしいが……。
そして、もう片方がスフォーのおっさんの兄と結婚したらしい。そして、その娘がジュスティーヌさん……治験の時にさんざん世話になったあの四方さんなのだ。
「なんか微妙な細い糸でつながってるけど、関連性がわからないわね……」
「うーむ……」
「エト姫とサラもどきにそんなつながりがあるだなんてなあ」
普通に考えれば全然関係ない気がするけど、ヴェレルの考えることなんて俺にわかるわけねえし……。あいつのやらかすことはすべて予想の斜め上を行っているからな……。
一般的に言って関連はないはずだ。しかしヴェレルの考えることだ。
逆に、そこまで微妙にでもつながりがあるのなら、そこに手がかりがあるのかもしれない。




