第187話 三人の秘密
俺はどうしても極秘で話したいことがありおタヒに厳重な防音・某魔力結界を張ってもらった。話してる間になにかがあっても大丈夫なようにチョークで結界を作る。ダメ押しでグリセルダが防音魔法を使った。
「……こんなに厳重にして話すことがあるの?」
「あるんだな」
「あるのだ」
怪訝な顔をするおタヒに俺は真面目な顔で答えた。それはグリセルダも同じである。
「ほら、昨日レベル上がったじゃないか、俺」
「そういえばそうね。なにか新しい術は取ったの?」
「そう、そのスキルの話なんだよ」
そう聞くとやっとおタヒの目が真剣そうな顔になった。
「牛頭くん、風伯、ちょっと外を警備してきて」
「にょわ!」
「きゅ!」
うーん式神たちがかわいい姿に戻ってよかった。そうだよな、話してる間はこちらからも外を伺えない。備えはあったほうがいいな、インテがいないのだからなおのことだ。
「……で、どんなスキルを取ったの?」
「実は【隠密行動】の上位互換っぽいスキルなんだ」
「すごいじゃない!」
「ただ、代償がよくわからん上に本当に隠密すぎてやばいんだよな……」
『インヴィジブル/ 隠密行動の上位スキル。ありとあらゆるセンサーを無効化し、効果時間中は物理干渉も無効化する。□を消費する。MP15消費。10分持続』
「で、これ、発動するとお前らからも見えないしインテとかからも見えなくなるんだよ。本当に犯罪向けのスキルなんだが、お前らには一応伝えておこうと思って。何を消費するかわからんから使いたくないけど、もし使うときがあったら知っておいて貰ったほうがいいだろ?」
「エトワールたちには言わないの?」
「うーん……インヴィジブルの存在を『知ってる』と頼りたくなるだろ?」
そうなのだ。
「それの何が駄目なの?」
「態度が変わる。悪人っていうのは人の心の弱みや変化を読むのが上手いんだ。エト姫達が『チケンはインヴィジブルがあるから大丈夫だろう!』なんて使う時に油断してみろ、絶対に僅かだが表情や言葉が変わる。そういう細かい積み重ねが敗因になるんだ」
「……チケン、本当は賢いの?」
「愚者は経験に学ぶんだよ、おタヒ」
俺は正直賢くはない。
ただ、そういう場数を踏んでいる。学校でも社会人でもそういう些細な兆候を見逃して逃げ遅れたことが多々ある。だからわかるのだ。
「ちなみに、それ、魔法で解除されるって言うけど、魔法はどうやって確認したの?」
「私の【灰は灰に】で確認した。これは魔法で出来た物体を無に返すだけの魔法だからな、チケンへの危険はない」
「あの術そういう術だったのね! 納得だわ」
グリセルダは改めておタヒに向けて真剣な顔で向き直す。
「だがこれもチケンのスキルと同じだ。知られてしまえば対策される」
「なるほどね……確かににそれは秘密にしておいたほうがいいかもしれないわ。私のことを信用してくれて嬉しいけれども」
相手が魔法を無効化すると知っていれば物理に全振りするなり逃げるなりできる。どんな手段があるかをいかに知らせないかがこの段階では大事だ。
「ただ、俺達はお前には言っておいたほうがいいと思ってな」
「そうだ。お前は我らの大事な仲間だからな」
そう言われたおタヒはぱっと花が咲くような笑顔に変わったが、急転直下表情が変わる。
「そうなのね、ありがとう……! ってあれ? じゃあなんで私だけ今知ってるの?!」
「だってお前寝てたんだもん」
「お前が気持ちよく寝ていて起こせなくてな……」
「もおー! 起こしてくれたっていいじゃない!」
「騒いだらエト姫やインテにバレるだろ、お前寝起き悪いし」
そういうと言い返せないらしく顔を真赤にしてぐぬぬ顔になっている。かわいい。
「ううー、でもいいわ。私には教えてくれたってことは私は特別なんですものね!」
「そうだな、お前は特別な仲間だ」
「そうだな、おタヒはやっぱずっと一緒だったしな」
何となく俺の中で、この二人を贔屓しているのは否定できない。こっちが勝手に一方的に知っていただけの関係だが、それがかなり現実に近かったと知って感動したというのもあるし、あのゲームの中の物語が現実なら、絶対に救われるべきなのだ。
そういうのを公正世界仮説と言うらしい。苦労したから頑張ったから、世界が報いるべきという考えだ。
おそらくそんなものは世界にないし、逆に『ひどい目にあっているのは何らかの悪事を働いているからだ』みたいな認知バイアスでもあるらしい。だから、悪役令嬢は不幸になってもいい、なんてシナリオになったのかもしれないな。
俺はそんなの大嫌いだが!
俺はただ、推しに幸せになって欲しい。
推しと言うには、あまりに近くなってしまったけれども。どんなに近くても、俺の大事な記憶のひとつなのだから。
「そういえば、だからなのかしら? グリセルダだけ執拗に何度も殺されたのよね? 私も十回以上は殺されたけど……」
「……ふむ」
「ヴェレルはどうして私達を何度も殺すの? 他の人達と私達、何がそんなに違うのかしら……?」
それがわかれば事件の核心に一歩近づけるんだろうけどな。ずっと考えてはいるけど余りにも推理する材料が足りない。
「私のスキルを警戒しているようなのはわかっていたが……おタヒ、お前も何か優れた魔法を持っているのか?」
「……うーん? 私のやることはだいたい素晴らしいわよ?」
おタヒがおタヒだ。自信満々すぎる。
まあ確かに肉体労働や機械操作以外、こいつは何でも器用にこなすからな……。字も上手いし四則演算なら七桁八桁でも余裕で暗算するし、記憶力もすごいし碁なんかの運が絡まないゲームはクソ強い。その上魔法も出来て政治的な思考もできる。
欠点が若くて負けず嫌いで一匹狼なことくらいなんだよな。
「うーん……心当たりが多すぎて思い当たらないけど……うーん……」
本気で困っている。まあ一対一で正々堂々とおタヒと戦って、勝てるやつはほとんどいないだろう。俺は死なない自信があるが勝てる自信もない。
式神だけではない、書き溜めた呪符、呪符なと必要としない印を結ぶだけの術も使える。手数が多く、どれも強い。
「あっ、そうだ。このグロいオタ部屋にヒントがあるかもしれん」
「どういうことだ?」
「俺は元々ゲームでお前らを知った、って話はしたよな?」
「そういえばそうだったわね」
「覚えている」
「ゲームはくっそ長いけど、さっきちらっと見たらシナリオ集があった。分厚いけど、ゲーム中の台詞が全部かいてある。お前速読スキルあるだろ。読んでみたら何かわかるんじゃないか?」
「……あまり気が進まないけどそうするわ」
気が進まないわけはわかる。おタヒが死ぬルート、結構あるからな……。
「そのシナリオ集とやらは私の分もあるのか?」
「……あるけど俺は見ないほうがいいと思うぞ」
ローレンツェンのやつは登場人物と攻略ルートが多い分、グリセルダも多く死んでおり、俺はあまり読んでほしくない。
「ならば読んでみるか」
「嫌になったら投げ出してもいいからな」
「大丈夫よ、腐っても文字が連なっているのなら、どんな本でも読んでみせるわ!」
自分のことが書かれている本のチェックなんて俺は絶対にやりたくない。だがおタヒとグリセルダはやり遂げるだろう。意思の強さは本当に強いからな……。




