第186話 オタ部屋 フロムヘル
色々あってインテはお手伝いとしてエト姫たちの場所まで連行されていくことになった。
吉田さんに抱かれたインテは延々と愚痴をこぼしながら退場。吉田さんは俺ほどじゃないが足が速く、かなり長い通路をあっという間に駆け抜けていった。
ターボ婆ちゃんといい吉田さんといい、速すぎて俺のアイデンティティが揺らぎそうだ。
速度向上、おタヒが取ってたけど俺も取れないかなあ。あとでスキルツリーを眺めてみよう。
「チケン様あああああ! 早く迎えに来てくださいねえええええ!」
悲しいインテの叫びが通路に響く。
すまない。あとで一杯褒めるから許してくれ……。
「嵐のように現れて嵐のように去って行ったな……」
「あの女がいるのに私達が必要かしら……?」
「深く考えるな、お前は知らないだろうがどこにでも予想外の強者はいるんだ……驕らず腐らず頑張ろう……」
おタヒが珍しく挫けそうになっている。吉田さんが事も無げにラバーゴーレムをワンパンした光景がよほど心に刺さったのだろう。
俺達は液体窒素なかったら倒せてなかったもんな……。
「それに自分の手でヴェレルをどうにかしたいんだろ、挫けるにはまだ早いぞ」
「そうだったわね、でもなんか……ゔぇれるって……触りたくない黴や腐った肉のようで触らないほうがいい気がしてきたの……」
気持ちはわかるんだが。だからといって触らないでおくと更に大変なことになる気がするんだ、それは。生ゴミは早めに捨てたほうがいい。
「おタヒよ。他人の手で下した報告を信じられるのか? 自分の手で下した裁きの実感のほうが信頼できるのではないか?」
「……!」
すごいな、グリセルダの説得力。俺には通じないがおタヒには刺さりまくってる。俺はやってくれるなら他人に任せます。事なかれ主義なので。
「おタヒ。確かに吉田は強いがお前が成長すれば勝てる可能性が大きい。それにお前は呪術が得意なのだろう? 持ち味を活かせ、他人と同じ方法で競おうなどと考えなくて良い。お前には知恵がある。それを活かせば十分強い。たまたま先程のゴーレムはお前の相手に向いていなかっただけだ」
おタヒはグリセルダの言葉に感動しているようだった。何よりだが本当にそれでいいのだろうか……。
「確かにそうよ! 力で叶わないことなんて当たり前だったわ。私まだ十二歳なんですもの!」
頭脳や気持ちの持ち方で劣っていることは認められなくても、体格の問題なら認めやすい。そこにもっていったグリセルダの誘導が上手いな……。
俺ならもっと怒らせてしまうところだろう。
なにはともあれおタヒは機嫌を直し、ついでに牛頭くんも前のかわいい牛頭くんに戻った。よかった、なんかすげー威圧感がすごかったから……。まるで大柄の強面ヤクザに見つめられているかのようで……。
ラバーゴーレムが表れてからは他にモンスターが出ることもなく、無事従業員休憩室Ⅱにたどり着いた。
従業員休憩室は八層全体に四つあり、そのうちの一つである。
「しかし腹が減ったよ俺は。結構走り回ったからインテが何を用意してくれたか楽しみだな……」
「そうだな、久々に体を沢山動かした感がある。さぞかし食事がうまかろう」
「私も! インテが何を入れてくれたか楽しみだわ!」
従業員休憩室には鍵がかかっていなかった。なのであの不愉快なパスワードは入れずに済んだのだが、中が酷かった。
「えー……」
「戻るか?」
「これはちょっと」
俺達の前に広がっていたのは、今度は二人のサラではなく、『蘇芳宮の花嫁』と『ローレンツェン王国物語』の宣伝ポスターや、キャラクターグッズのたくさんあるオタク部屋だった。天井までフレークシールやステッカー、ポスター、タペストリーで埋め尽くされている。
地獄かな?
「……なぁに? この絵の描いてある玻璃の板」
部屋にはその二ゲームの大量のアクスタが飾られていた。一杯出てるなあ……。まあ、グリセルダとおタヒのは一個もないんだが。クソ、ないのかよ。あったら戦利品として持ち帰るのに……。
代わりに部屋を埋め尽くさんばかりの主人公サラ(×2)や攻略対象になったイケメンたちのフィギュアやグッズ……。
「……何かに似ていると思えば、これはもしやディーやエミール、ベルコフの彫像なのか?」
「ええ、なんであの兄や右大臣やアホ中納言の仏像みたいなやつがあるの……?」
二人の言いようは散々である。流石に仏像って言い方はやめてほしい。ファンにとっては確かに似たようなものかもしれんが……。
一応何かあってはいけないのでエリア鑑定をしたが、本当にトラップはなにもない。只のオタク部屋のようである。なんで、こんなところにこんなものを作ったんだ、ヴェレルは……。
疑問と居心地の悪さを感じつつ、俺達は飯にすることにした。居心地が悪くても腹は減るのだ。
「なんかせっかくインテが飯用意してくれたのにこんなところで食うの嫌だな」
「なんなら廊下で食べたほうがまだマシまであるわね」
「それも悪くないな……」
おそらく発売されたすべてのフィギュア、そしてアクリスルタンド、ポスター、ぬいぐるみ、香水、キーホルダー、文具、体重計……。ありとあらゆるグッズがある。
ファンなら絶対に嬉しいであろう部屋だが、俺はグリセルダとおタヒのファンなので全く興味がないし、そもそも本人たちは絶対に嬉しくないだろう。
それによく見ると、メインビジュアルを使ったポスターにはおタヒとグリセルダも描かれていた。改めて見てみると、本人たちの五割増くらい目付きが悪く悪意を感じる。
二人に気が付かれないように、と願ったが二人はそれを見つけてしまった。なぜなら服がほとんど同じだから視界に入れば一発でわかるのだ。
「……上手い絵だとは思うが何故私だけこのように目つきが悪いのだ?」
「えっ、なんで私こんな邪悪そうな顔してるの?! あのアホ兄がこんな儚げな美男に描かれてるのもおかしいと思うけど……」
「気にするなよ、ヴェレルのしたことだ。相手にするだけ頭悪くなるぞ」
インターネット古事記にも荒らしはお触り厳禁と書かれている。関わらないのが一番だ。
そういうと二人は納得したようだが、本当にこの部屋は居心地が悪い。特に視覚に優しくない。
よく見ると端っこに前の休憩室と同じベッドがあったので、ベッドの上のマットレスや布団を片付けて掃除し、簡易的な飲食スペースにすることにした。
幸いベッドの上は案の定周りの風景が見えないようになった。
「寝床の上で食事をするのはお行儀が悪いけど今日ばかりは仕方ないわね……」
「あのようなものを視界に入れながらではまともに味がしないであろうからな……」
流石に大量の知り合いのグッズに囲まれて飯なんか食う気になれないだろうな……。俺もかーちゃんや弟のアクスタに見守られながら飯とか食うの嫌だし。想像しただけでうんざりする。
環境問題が解決したので気を取り直し、俺達は昼飯を準備する。
インテが用意してくれていたのは駅弁だった。紐を引っ張るとあったかくなるやつ。四方さんたちの誰かが買ってきてくれたのかな。それにお茶のポット。
紙コップにお茶を入れ、おタヒに駅弁の紐を引っ張らせると、シューッという音を立てて弁当が暖かくなってくる。
それを見てグリセルダもおタヒも面白がっていた。
「すごいわ、これ術を使ってないのよね? なのにどこでも温かい飯が食えるのね、素敵!」
「ふむ、魔石もないのに便利なものだ……」
牛タン弁当、牡蠣の炊き込みご飯弁当、チキン弁当の3つがあったので俺がチキン、グリセルダが牛タン、牡蠣の炊き込みご飯をおタヒが担当することになる。
それぞれおかずの交換をしたり、デザートに入れてくれていたりんごを食べたりと三人での楽しく平和な食事だった。
ベッドの上なので狭かったが、逆にそれが楽しく感じる。物理的に距離が近いと精神的にも親しくなったような気がする。気のせいかもしれないが。
「さて、昼飯も食ったし本題に入るか……」
「そうだったな、おタヒ、結界を頼む。防音防魔力の上等なやつをだ」
「え? いいけど何で?」
俺達は改めて、やっと予定していた作戦会議を開くことになった。
作者はアクスタ大好きなんですよね……何しろアクスタ食べるの略で芥部なので!
作者もグリセルダとおタヒのアクスタ欲しいです
そのうち作るか……




