第183話 工場見学5
俺達は見た目にそぐわぬ難敵、ラバーゴーレムを攻略していた。とにかく質量があり、剣もナイフも電磁パルスも炎も通じない。高熱に当たると毒ガスを出す。
正直過去最高の強敵である。
しかしようやく攻略法が見えてきたその時、遠くから足音が聴こえてきた。
なので、倒す手を止め一旦様子を見て、新たな敵の出現に備えることにする。
「一体何の足音かしら」
「さあ……ただ、かなり早いな」
「なんか警備ロボット壊してる音の気がするんだが、誰だろう、敵か……?」
ラバーゴーレムと戦う俺達の前に表れた謎の人物――――
「こんにちはああああああああ! ちょっと混ぜていただいてもよろしいですか!」
目をキラキラに輝かせた吉田さんだった。正直こんな楽しそうな吉田さんを見たのは初めてだ。
「えっ、吉田さん!? どうしてこんな場所に」
「新しいモンスターと聞いていても立ってもいられなくなって、姫に四十五分だけお時間頂きました!」
「だめよ。私達は中に入ってる魔石が欲しいの。だから帰りなさい」
おタヒがワガママモードで応対するが、俺は要らねえけどおタヒとグリセルダの保険として欲しいんだよな……。
「えっ、そんな。ドロップなんていりませんよ。ただ殴らせていただければそれで! 新種で、デカくて強いゴーレムですからねえ。しかも殴りがいがありすぎますよ、あれは!」
まあボクシングの練習台のでかいのと思えばいいのか……? でも吉田さんの戦闘は一回も結局目にしてないから見たいなあ、でも俺も経験値上げたいしなあ……。
相談の末、悩みに悩んで一匹は俺とグリセルダで倒し、一匹はタイマンで吉田さんが倒すことになった。
ついでに何故かインテがカメラを回すことになった。なんでだ。
理由を聞くと、たんに実家の祖母に元気な姿を見せたいらしい。ゴーレムを殴ってる姿はたしかに元気そのものだろうけどさあ。
「お婆ちゃん、いつも『お役所仕事なんてしてたら身体がなまるから早く家に帰ってきなさい!』ってうるさいので……」
心配性のお婆ちゃんのようだが、なんか一般的な心配の様子とだいぶん違うな。テオネリアの標準がそうなのかもしれないし気にしないでおこう。
お婆ちゃんはさておき今はラバーゴーレムを倒さなくてはいけない。
やることは同じだが、今度は俺がやる。誘導して仏像モードの牛頭くんがラバーゴーレムに液体窒素をぶっかける。
そして、俺がナイフを投げクリティカルで破壊。残った部分をグリセルダがきれいに半分に割ってくれた。なんだかスイカ割りのようで楽しい。
スイカ割りやったことないけど。意外にやらないよな、あれ。
中からはやはり魔石が出てきたので今度はグリセルダに渡す。
「よーし、じゃあ私の出番ですねー!」
戦闘服を着た吉田さんが嬉々として拳を握る。
「あれ? 吉田さん、武器は?」
「お手々です♡」
お手々かあ……さすがエト姫の部下、何もかもレベルが違うな……。多分、レベルそのものも違うんだろうが……。
それを見るグリセルダとおタヒもやや引いた顔をしている。そりゃそうだ、俺達がこんな苦戦してる敵を素手で殴り倒すというのだ。
「まあいいわ、吉田とやらの戦いぶりを見てみましょう」
「そうだな、たまには楽をするのもよかろう」
グリセルダとおタヒと俺は吉田さんの戦いを見守ることにした。
本当に吉田さんは武器を持たないようだった。軽やかに歩くと、様子見なのかゴーレムに一発殴りを入れた。軽やかに見えて、ものすごい重みがある。
1.2トンを超えるゴーレムが、一気に後ろに跳ね飛ばされたのだ。
「嘘?!」
「……あのゴーレムを素手で!?」
「うわ、あの重さをふっとばすんだ……」
ゴーレムも負けじと反射する卓球のボールのように、すごいスピードで壁を利用し無軌道な動きで反射し、吉田さんを翻弄としようとする。
しかし、吉田さんは慌てない。自分の側に来るまで待って、軽くゴーレムをいなす。
ゴーレムの速度を生かしてプロレス技のように後ろに叩きつけた。
だがやはりゴーレムはその程度ではダメージを受けない。また跳ね始めたゴーレムを、今度は力で受け止める。ズズ……と、数メートル押されたものの、人力で吉田さんは受け止めきった。
相撲取りの全力のタックルのような衝撃を、一般女性のような姿の吉田さんが受けきったのだ。驚きしかない。
「すっげえ、すごいけど何が起きてるのか全然わからん」
「……なにか術を発動してる気がするけど、見たことのない術だわ」
「全身を強化して、手と足に……なにか重みを増すような魔法をかけている……?」
俺達の勝手な言葉に、吉田さんはニコニコ笑う。
「さすがお目がよろしくていらっしゃいますね!」
吉田さんは壁に押し付け、動こうにも動けないゴーレムを見据え、一気に表情を変える。
まるで鋭いカミソリのような、猛禽類が獲物を狙うかのような目つき。
おそらく、数秒前の吉田さんの写真と今の吉田さんの写真を並べても、髪型が同じだけの別人にしか見えないと思う。そのくらい違う。
「ここかな……えい!」
優しい言葉と裏腹に、素人にもわかるほどの殺意が拳からあふれる。
俺の動体視力でも捉えるのがギリギリなほどの速度で繰り出されたそれは、跳ね返るという反応が起きる前に一気に中心の空洞部まで腕は貫かれていた。
ドクン、とゴムが波打って、真珠のようにつややかだった表面は一気にくすみ、ゴーレムは魔石を残して消滅した。
「いやー、思ったより手応えがありましたねえ。いい運動になりました! あ、魔石です。お受け取りくださいね!」
そう言って、吉田さんはおタヒに魔石を渡していた。看護師として勤務した経験なのだろうか、人あしらいが上手い。
グリセルダや俺に渡せば自分が蔑ろにされたと怒るだろうからな……。うーん、見る目がある。
「なんなんですか、吉田さんクソ強いじゃないですか!」
「私は物理的な敵には強いんですけど、魔法が必要な敵は全然なんですよねぇ~」
「魔法もその体術があれば当たらぬのではないか?」
「まあ大体の魔法は当たりませんね。ただ、魂対象の呪術とかは苦手でして……」
なるほど、一応弱点あるんだ。てかすごいな。その弱点はだいたい誰でもそうじゃないのか? おタヒみたいな例外はいるだろうが。
「でも星間司法庁に入庁したおかげで、姫やセーレがそう言う防御もしてくれますので。一人じゃ出来ないことも集団だとできる、そう教えてくださったのが姫なのですよ」
メテクエにあったな、そういうエピソード。まあエト姫が主人公の仲間になったのがそういう理由だったのだが。
「あ、忘れてました。その魂保存瓶、こちらでお預かりしても?」
全然要らないので、さくっと保存ケースを渡した。これでグリセルダが余計な荷物を持たなくて済む。
「ありがとうございます! 比較的新しいサンプルですので早めに検査したくて……それと、申し訳ないのですがインテをお借りしても?」
「えっ、なんで?」
と俺がいうと同時にインテが即返事をする。
「嫌です!」
吉田さんが困った笑顔をする。
「ほら、そのサンプルの他に先程のサンプルやファビエ様の残りの魂の分析などやることが多くて、手が足りないんですよ、物理的に」
「ああ、そういう……」
なるほど、たしかにそれはそうだが、昼飯とかが困るな。あといないとちょっと寂しいし。
「カハールカさんなんか、物理的に手を六本に増やしてまで作業してますけど、姫とセーレの手伝いがあっても足りないみたいで」
「六本って」
そういうと、吉田さんは自分のスマホでとったカハールカさんの写真を見せてくれた。キレ気味の笑顔で自分の腕+四本メカアーム、合計六本の腕でピースサインをしてる写真だった。そんな面白いことある?
「えっ……なにこれ、仏像?」
「阿修羅像に見えるな……」
「異教の神にこういうのがいたような……」
もう人外にしか見えないということで俺達の意見は一致した。カハールカさん、おもしれー女……。
「インテ、あと一時間か二時間くらいで戻るからちょっと手伝ってやってくれよ。あと適当なバッグに昼食べる飯三人分詰めてもらっていい?」
「うう……ヨシュア様はずるいです。チケン様がお優しいのを生かしたソーシャルハッキングじゃないですか、それ!」
「うふふ」
吉田さんはニコニコと笑って答えなかった。確信犯だなこれは。
ただ、インテには申し訳ないが、都合のいい申し出だったのも確かだった。
先日の番外編の件ですが、試しにシリーズを作って更新することにしました
たまに何か更新すると思いますのでよろしければブックマークなどしていただけると嬉しいです
(不定期更新です)
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