第182話 工場見学4
分析室の一番奥に一つだけ置き忘れられていたのか、魂の入った瓶が残されていた。ただドラフトチャンバーの中にあり、開けて良いものか判別がつかない。
ドラフトチャンバーは実験の際に有毒ガスなどが発生する場合に備えて作られた設備だからだ。
「エト姫、このドラフトチャンバーの中の瓶、どうすれば良いんだ」
『うーん……とりあえずインテ、機器動かせそうか? 動かせそうなら中が大丈夫か調べてくれ』
「畏まりました!」
俺達は門外漢なので、大人しくインテが結果を出すのを待つことにする。
インテが機械を調べた結果、ドラフトの中にはやはり生物には有害なガスが詰まっているらしい。
魂は特殊な環境でもない限り、人体から離れ外気に触れているとよほど強固な外殻や守りの魔法がない限り、徐々に変質し魂をすり減らしていくという。しかし特殊なガスの中だと魂が形を持ち長持ちするのだそうだ。
あの七層で祟り神様と呼ばれていた、お客様の成れの果てもそのガスが詰められた瓶に入っていたらしい。
インテが各種機器を手慣れた感じで操作し、無事有毒ガスが漏れることもなく瓶が獲得できた。
しかし、俺が持つと不快なのだろうか、瓶の中身の魂はすごい勢いで中で音を立てずにガラスにぶつかり荒ぶっている。
「何か俺嫌われてる?」
「チケンを嫌う魂なんて生意気ね、浄化してやろうかしら……ん? 違うわね。この魂、グリセルダを見てるわ」
「……どういうことだ?」
おタヒは俺から瓶を奪うと、ぐるぐるとグリセルダの周りを回る。すると、魂は常にグリセルダの方向を向いて突撃している。
「親類縁者か何か?」
「知らぬ、知っている者だとしてもこの姿ではわかりようがない」
「それもそうね……とりあえず、ちょっとまって」
おタヒは文箱から和紙を取り出すと、くるくるとそれで包む。この和紙は浄化されており、魂の視線を防ぐ力があるのだそうだ。流石おタヒである。専門家がいると頼もしいな。
「はい、グリセルダが持ってたほうが良いと思うわ、多分。なんとなくだけど」
「……しかたないな。インテ嬢、なにかカバンのようなものはあるか?」
「はい! ちょうどその様なサイズにピッタリの保護ケースがございます!」
まるで現金や金塊が入っていそうなアタッシュケースのようなカバンをインテは出してくれた。そこに瓶を収めると自動的に緩衝材がフィットした。これならちょっとやそっとで割れるなんてこともないだろう。
ただ、片手持ちになるのでインテが肩から下げる紐も作ってくれていた。両手が動かせないのは不安だからな……。
「インテ嬢は素晴らしいカバンだな。インテ嬢のように見栄えのよく気の利くカバンはそうおらぬだろう、チケンとともに召し抱えたいものだ」
「えへへ……照れます」
「照れずとも良い、事実を述べているのだからな」
「ずるいー! インテ! うちにも仕えてほしいわ! インテがいたら絶対楽しいもの! 碁の打ち方とか教えてあげる!」
「うふふ、人気者は辛いですねー! 私とチケン様が二人ずついればお二人にお仕えすることも可能なんですが!」
インテが調子に乗っている。しかしそれ以上にツッコミどころが多い。俺の就職先を勝手に決めないでくれ、インテ。
「グリセルダ、そういえば剣は俺が抜いてくればいいか?」
「できるなら頼む。この迷宮に迷い込んだ時に持っていたただの剣だが、持っていれば愛着も湧くし、すっかり慣れてしまってな」
新しい道具ってなれるの面倒でついつい古いの使いたくなるよな。わかる。
そこで、先程の囮作戦で信用を得た俺はサクッと【隠密行動】を発動し、グリセルダの剣を引っこ抜いて隠密行動を発動したまま帰ってきた。
「出る時も俺が囮やる?」
「うーむ、業腹だがそれしかなかろうか………」
「チケン様、あの容器ですが、液体窒素が入っているようでございますよ」
「え、マジ?」
インテが矢印を出した部屋の隅に金属製の頑丈そうな寸胴のような容器が置かれている。エト姫がスルーしてたから気がついてなかったけど、小さく現地語で液体窒素、と書かれている。ラバーゴーレムは三体いた。……足りるかどうかわからないが。
「液体窒素って何なの?」
「バナナでも豆腐でも石みたいに凍らせる液体だよ。ただ人間も凍るから、取扱は注意だが……」
「そんなのどうするのよ」
「あの球にぶっかけて凍らせれば硬くなるから割れるかなって」
「いい考えじゃない! チケンにしては賢いわね!」
「へいへい、お褒め頂き恐悦至極」
「ただ、あの質量でございますからねえ……」
そうなんだよなあ。表面だけ凍ってもなあ。かといって中身がどうなってるかわからない。
とりあえず、やるだけやってみることになった。
一匹ずつ誘導して一匹ずつ倒す。誘導にもやはり隠密行動が役に立つ。
俺の幼女ボディーでは流石にあの液体窒素の入っている容器は持ち上げられない。
おタヒが改めて大きな和紙に大きく牛頭くんの呪符を書き直し改めて召喚する。すると、なんということでしょう。
あんなに可愛かった牛頭くんは仁王像もかくやといったゴツくてでかい仏像のような姿になった。
うお……でっか……二メートルくらいあるぞ……。
「……おタヒ、言いづらいのだが前の牛頭くんには戻すことが出来ぬのか?」
「大丈夫よ、できるわ! でも前のサイズだとこの大きい鍋を持ち上げられないから……」
「そうか、安心した……」
もしかしてグリセルダは意外と可愛いものが好きなのだろうか。
でも俺も確かにもう可愛い牛頭くんに慣れ親しんでいるので、かわいい着ぐるみ形態に戻ってくれるならそちらの方が良い……。
「牛頭くん、液体窒素を頼む!」
「応!」
声が、声が渋い……。男というよりは漢と書く方が合っているような、そんな渋くて重厚感のある声が響く。
新生牛頭くんが軽々と液体窒素が入っている金属の容器を持ち上げる。
「どっせえええええい!」
掛け声とは真逆に上から丁寧に液体窒素をかけられたラバーゴーレムは、表面が凍りついて地面に張り付いてしまった。空気中の水分も液体窒素が巻き込んで凍らせている。今がチャンスだろう。
「グリセルダ、今だ!」
「承知!」
グリセルダは先程からため始めていたスキルを解放する。
「【パワースラッシュ】!……いけたか?」
グリセルダの剣から眩い光とともに衝撃波が発生し、凍っていた表面のゴムの半分を粉々に粉砕した。残った半分はグリセルダが難なく剣で一閃し、一刀両断にする。
中の半分ほどは実は空洞だった。そして、その内部にはコアにしたと思われるキラキラした石が入っていたので鑑定してみる。
『ゴーレム用の魔石/ 最上級の魔石』
シンプルな説明文だがドロップは最上級だった。
「おっ、いいもんでたな!」
「魔石か、これは残り二つも確保せねばなるまいな」
「やったー! 魔力不足のときにあると安心なのよね!」
これは苦労して倒したかいがあったな……! 前のMP消費30倍エリアみたいのが万が一あったら困るから、おタヒとグリセルダに持っておいてもらうのがいいだろうな。
とりあえず最初の一個はおタヒに渡した。残りは二匹。
一匹を倒し、もう一匹を誘導しようか、となった時に、遠くから走ってくるような足音が響いていた。
俺達は警戒し、一旦ゴーレムは放置して足音の主を待つことにした。
カクヨムでは近況ノートに番外編を載せているのですが
なろうでの番外編の載せ方について悩んでいます(既にいくつか存在しています)
A)無理やり進行度合いに合わせて本編にぶち込む
B)別の小説として番外編を作りそちらにぶち込む
C)完結してからまとめる
どれがいいかご希望がございましたら、もしくは別のアイディアがあればご教授ください!
(なろう初心者で良くわからないので……助けて下さい……)




